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ぴぴ対ギルドマスター

 アオイのリベンジマッチは無事にアオイの勝利で終わった。カリンの両腕はぴぴの必殺技のひとつである癒しの猫パンチという回復魔法でさくっと元通りだ。


「くう~、熱いバトルを見てたら、俺もやりたくなってきちまったぜ。どうよ、お前らもアオイのパーティーメンバーだろう。俺とやろうぜ」

「うん、いいよ」

「あ、ぴぴずるい、わたしもやりたい」

「なんなら2人同時でも良いぜ。俺も現役を退いたとはいえ、カリン殿よりはまだまだ現役よりだからな」

「ううん、ギルマス、コインか何かもってる?」

「ああ、あるぜ」

「じゃあ、それ投げて、表なら私、裏ならぷうでいい?」

「うん、いいよ~」

「そういうことか。よし、投げるぜ」


 ギルマスの投げたコインは、表だった。


「やった。私が戦うね」

「はう、負けちゃった~」

「はは、そんなに落ち込むなよ。この次にお前とも戦ってやるからよ」

「流石ギルマス、太っ腹だね!」


 ギルマスはぴぴと戦ったあとでぷうとも戦う約束をしてしまったようだ。大丈夫なのだろうか。ぴぴとギルマスが今度は訓練場の中央に移動する。


「お前はどうする? その姿でその槍で戦うのか? それとも、猫の姿にもどるか? 武器で戦いたいなら、俺もそれにあわせてやるが」


 ぴぴは少し考えた。まずこの槍を使ってライオンの姿のギルマスに勝てるかどうかだ。結論、無理だろう。理由は武器のランクが恐らく足りない。この武器が耐えれる魔力量の攻撃では、ギルマスの屈強な筋肉どころか、頑丈そうな毛皮すら突破できるかわからない。とすると、残る選択肢は猫の姿でライオンのギルマスと戦うか、ギルマスにも人形態になってもらって武器で打ち合うかだが、ここは猫の姿でライオンのギルマスと戦うことにした。


「猫の姿でライオンのギルマスと戦うことにした!」


 ぴぴは武器を収納魔法の中に入れて、変化の術を解除した。ぷうも変化の術を解除し、ハピ、アオイ、カリン、親方と一緒に見学モードだ。


 訓練場の中央で向かい合う2人を見ながら、観客席はそこそこ盛り上がっていた。


「ギルマスって強いのか?」

「ええ、かなり強いですよ。ハンターとしては間違いなく最高峰ですね」

「ほう、ってことは☆8ハンターとかか?」

「いえ、流石にそこまでは強くないですよ。元☆7ハンターです」

「じゃあ、カリン殿と一緒ってわけか」

「いえ、ギルマスのほうが私よりはるかに強いです。私は元☆7ハンターとは言っても、ぎりぎり☆7になれた程度の実力ですが、ギルマスは☆7でも上位のハンターでしたからね。引退して、いまでは☆6程度の実力しかない私と、今でも☆7中位くらいの実力のギルマスでは、その実力は雲泥の差ですよ。今の私の実力だと、10人いても勝てないかもしれないですね」

「は~、そんなに強いんだな」

「それより、ぴぴさんは大丈夫なのですか。ギルマスは見ての通り獅子。獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすというくらい、良くも悪くも全力投球派なんですよ。先ほど私に掛けて下さった回復魔法はみごとでしたが、ヒーラーが戦えるような相手ではないですよ」

「それは俺もわからん。ぴぴが強いのは間違いねえんだろうけど、ぴぴが戦ってるところなんて見たことねえからな」

「それなら大丈夫だよ~。ぴぴってああ見えてけっこう面倒見がいいんだよね。だから、ギルマスに怪我をさせることは無いと思うよ」


 カリンとアオイの心配と、ぷうの心配では若干のずれが生じているが、それはしょうがない。ぷうからしたら、ぴぴが怪我をする可能性などありえないことであった。


「おっし、じゃあ、そろそろ始めるか!」

「うん」


 戦いの火蓋が切られる。ぴぴもギルマスも、まずは様子見なのか、動く気配が無い。そして、1秒ほどにらみ合ったところで、ぴぴがおもむろに動き出す。


「あれ。来ないの? こっちからいっちゃうよ?」

「おう、こいや!」


 どうやら、始めるか! といわれて、ギルマスが仕掛けてくるのかと思い待っていたようだ。ぴぴは面倒見がいいため、猫の国でのバトルでも、大抵相手にいろいろやらせてあげる展開が多かった。そのため、つい癖で待っていたようだ。


 ぴぴは遠慮なく仕掛けることにした。猫の国でも防御の練習をしたいからとぴぴからの攻撃を求める相手もいた、同じような感覚でまずは軽く距離を詰めて猫パンチをすることにした。もちろん爪は出さない。

 

「ふぐっ!」


 ギルマスは後方に軽く吹き飛んだ。鼻に衝撃が来たのは理解できる。だが、なにをされたのか理解できない。


(なにをしたこいつ。魔法攻撃? いや違う、さっきまで俺の居た位置にいるってことは、近接攻撃か)


「「「!!」」」


 同じように観客席ではアオイとカリンと親方が驚いていた。


「おいぷう、今なにがあったんだ?」

「なにって、ぴぴがギルマスの鼻に猫パンチしただけだよ? たぶん爪は出してないから、怪我してないと思うよ」

「おいハピ。お前は見えたのか?」

「うん」


 どうやら観客席のメンバーでも、理解できたのはぷうとハピだけのようである。カリンと親方もなにが起こったのかよくわからず、アオイとぷう、ハピの会話に耳を傾けていた。戦闘センスはいまいちなハピであるが、ぴぴのかわいらしい勇姿を見逃すような愚行をおかすわけが無い。光より速く動こうが、たとえ惑星の反対側にいようが、ぴぴのかわいい姿はばっちり捉えるのがハピクオリティーだ。


 妖精の国のギルドは国営組織だ。当然ぴぴとぷうの話は国からギルマスも聞いていた。しかし、実際に戦ってみせたのはぷうだけ、それも☆6ランクのグラジオラス達との戦いだけだった。そして、グラジオラス達との300対1くらいであればギルマスにも可能なことだった。にもかかわらず、犬大臣が渡したハンターギルドカードは☆8、いくらなんでも不釣合いだと思った。だからこそ実力を確かめたかったのだ。


 しかし、今の一撃は完全に想定外だった。ぴぴがいま爪を立てていたら、確実に鼻は持っていかれていた。不意をつかれた? そんなことはありえない。油断など一切していないし、そもそも向こうは行くと宣言し、こちらが応じてから攻撃されたのだ。なら理由はひとつだけだ。こちらの知覚できない速度で襲い掛かってきたとした考えられなかった。力はなさそうだから食らっても平気? そんなこともありえない。速度を出すためには力は絶対に必要な要素なのだ。ぴぴが元々居た位置の地面にえぐれたような痕跡はない。そもそも地面をえぐるような加速の仕方ではここまで速くないだろう。結界を張ってそれを蹴ったか、地面そのものを硬くして蹴ったか、いずれにしても単純な身体強化だけじゃないのは明白だった。そんな速度を出せる力のある相手の攻撃だ。今の一撃は本気を出されたら、一撃で倒されていても不思議ではなかった。


 ギルマスの目の色が変わった。犬大臣が☆7ではなく、☆8にした理由が身をもって理解できたからだ。


「がお~!」


 そして思いっきり咆哮をあげると、ギルマスの体から、炎が噴出した。たてがみ、尻尾の先端、爪、牙、全身のいたるところが燃えている。どうやらこれがギルマスの本気モードのようである。最初から本気モードで行かなかった理由は、ぴぴのことを甘く見ていたわけではない。全身を燃やすというこの技の性質上、この技は燃費も悪ければ、自己にダメージすら発生する捨て身技でもあったのだ。そのため、単純な持久戦にもちこまれるだけでも不利になる、諸刃の剣であった。だからこそ、普段は止めを刺す瞬間とか、相手の足を止めてからとか、ここぞというときにしか使わなかった。しかし、今はこのモードでないと、そもそもまともに戦うことすら不可能とギルマスは判断するのであった。


「来る? 行く?」

「来い」


 ギルマスの本気モードを見ても、ぴぴに動揺は見られない。それどころか、ぴぴはなんの気負いも無くギルマスに問いかける。ギルマスの答えは来い。遠慮なく猫パンチをお見舞いする。今度はギルマスの体を纏う魔力の大きさから、さっきよりは強めに叩いても大丈夫と判断し、さっきよりも強烈な猫パンチを叩き込む。ギルマスは壁まで軽々と吹き飛ぶと、壁の結界を突き抜け、壁を破壊して止まる。


 油断などどこにもなかった。今度こそ見切ってやると意気込んでさえいた。だが、ギルマスに理解できたのは、鼻に強烈な一撃を食らったことと、その衝撃で壁まで吹き飛ばされたことだけだった。


「すさまじいですね」

「おいおい、ぴぴのやつ、どんだけ強いんだよ」

「ギルマスの全身を覆う魔力量が大幅に増えたからね。あのくらいの猫パンチなら平気だと思って、ぴぴもちょっと強めに叩いたんだと思うよ~」


 ぷうの言ったとおり、ギルマスへのダメージは大して無いようだ。壁の中から割りと平然と姿を現した。


「来る? 行く?」

「今度はこちらから行かせてもらう」

「うん」


 ぴぴはまたもまったく気負いもせずにギルマスに問いかける。今度はギルマスの攻撃の番のようだ。


「がああ~!」


 ギルマスは雄たけびを上げると全身の炎を一際大きくさせて、走り出す。その速度はすさまじく速い。まさに赤い光のごとき速さで、ぴぴの目の前にギルマスは移動する。そして速度を乗せた強烈なライオンパンチがぴぴに襲い掛かる。ぴぴとは違って爪を引っ込めるようなことはしない。爪に膨大な魔力を乗せ、真っ赤に燃え上がらせる。文字通り炎の爪だ。その炎の爪を、ぴぴは微動だにすることなく、毛皮で受け止める。いや、正確には毛皮の少し外側で、毛皮を守るように全身を覆っている常時展開型の防御魔法で受け止めた。


 ノーダメージ。ギルマスの渾身の炎の爪は、毛皮にすら届かなかった。だが、これだけで終わるギルマスではない。すぐさま反対側の手でぴぴを掴むと、口を大きく開けて、ぴぴの頭目掛けて思いっきり噛み付いた。牙は爪同様強力な炎で覆われている。さらに、口の奥から、すさまじい炎のブレスを発射した。炎の爪で掴み。牙で噛み付き、炎のブレスで焼き尽くす。


「ぐるあああ!」


 さらにギルマスはその状態から全力でうなり声をあげる。爪か牙かブレスか、どれでもいいからぴぴの防御を突破したい一身で全力の力と魔力を振り絞る。


 口から放たれたブレスの余波があちこちにファイヤーボールのように飛び散る。その余波でしかない炎の残滓だったが、威力はすさまじく。アオイの全力のコンプレッションファイヤーボール以上の威力があった。壁や地面にあたると、有無をいわさず蒸発させた。


「すげえすげえすっげえ! なんだあのスピード、赤く一瞬光ったと思ったら、ぴぴに噛み付いてるじゃん。おまけになんだよこの攻撃。攻撃の余波っぽい火の球ですら、俺のコンプレッション魔法より絶対強いじゃねえかよ」

「私も驚いてますよ。強いとは思っていましたが、ギルマスがここまで強いとは、知りませんでした」

「ああ、あやつ、普段はひょうひょうとしておるが、すさまじいな」


 ギルマスがぴぴを咥えてから、どのくらい時間が経過しただろうか。すでに周辺の地面は消滅している。ぴぴとギルマスは、その穴に落ちることも無く、空中で静止していた。浮遊しているとか、結界で足場を作ってのっているとかではない。お互いに足を中心に空間に体を固定していた。


 見学してるアオイ達には一瞬の出来事に思えただろうが、ギルマスにとっては、ひどく長い時間に感じたかもしれない。そして、数秒の硬直の後、ギルマスは大きく後ろに跳んで、ぴぴから距離を取った。


「来る? 行く?」


 あれほどの攻撃を食らったというのに、完全にノーダメージだったのか、ぴぴはさきほど同様、まったく気負いすることなく、ギルマスに問いかけた。


「ご、うざ、ん、だ」


 全力で咥えた状態からのブレス攻撃だったため、外部に漏れ出た魔力もかなりあったものの、ぴぴに当たった後で跳ね返り、自身の口の中で暴れた魔力もかなりあったようである。よく見るとギルマスの口の中はボロボロになっており、気合で何とかしゃべっているという状態だった。それだけじゃない、全身の火が出ていた箇所が、ひどくボロボロになっていた。


「あれ、口の中怪我しちゃった?」


 ぴぴはすばやくギルマスに接近すると、鼻に猫パンチを食らわせる。もちろんダメージを与えるためのものではない、回復魔法を込めた猫パンチで、怪我を回復させてあげた。


「助かったぜ、ありがとよ」

「どういたしまして」


 ギルマス、まさかの完全敗北であった。


「あ~、くっそ。やっぱ桁外れにつええのな。なんとなく予想してたがよ、今ので確信したぜ。最初犬大臣に聞いたときは、☆8ランクなんてなんの冗談からと思ったが、まじ強すぎだろ」

「それより、反省会だよ」


 ぴぴは火の爪や火の牙など、自身と攻撃方法がだぶるギルマスに近親感を抱いていた。そのため、教え方にも熱が入るというものだ。


「まず、ぼって火を出すでしょ。それを、シャキ~ンって爪の形にして。それをギュムムって圧縮するの。はい、やってみて」

「お、おう」


 ぴぴの面倒見のいい部分が前面に出て、ギルマスに火の爪のやり方などをいろいろと伝授していく。


「ギルマスって、あんな、ぼっとか、ギュムムとか、そんなんばっかりでよくわかるよな」

「同感ですね。私にはさっぱりわかりません」

「そお~? ぴぴのやり方はわかりやすいと思うけどな~」

「うん」

「じゃのう」


 ぴぴの教え方は擬音だらけであるが、ぴぴが母猫代わりだったぷうにとっては当たり前のことだったし、ぴぴの言いたいことは擬音どころか、にゃ~だけでもわかるハピにとっては、非常にわかりやすい教え方に思えていた。親方も同類だったようで、問題なく理解できているようだ。ただ、アオイとカリンにはなにがなんだかさっぱりわからないようである。もっとも、教えを直接受けているギルマスは理解できているようで、ぴぴの教えにうんうんと頷いていた。


「それじゃ、次はわたしと対戦だね!」

「え?」


 ギルマスはすでに満身創痍であった。だが、確かにギルマスはぴぴと戦う前に、次はぷうと戦うといっていた。にこにこ顔のぷうと、引きつったような顔をするギルマスであった。



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