武器の完成とアオイのリベンジマッチ
武器の発注から1週間が経過した。この1週間、全力でバトルをしたのは初日だけだったが、ぴぴとぷうはその後もぷうの土魔法で出した剣と盾、槍をいちおう振り回したりしていた。アオイは魔力の圧縮をもっとスムーズに行えるようにしたり、急降下爆撃の練習をしたりと、ガントレットに頼るだけじゃないパワーアップを果たそうとしていた。ハピはおいしいチーズ探しに街の散策をしていた。問題があるとすれば、ハピはピザとかはともかく、普通のチーズがあまり好きではないので、味がよくわからないのだ。ちなみにぴぴとぷうも同様である。
「武器は予定通り出来たみたいだな」
「うん」
「じゃあ、ハンターギルドに行くか!」
「「「おお~」」」
予定通り1週間後の今日、武器が出来上がるということで、3人はハンターギルドの訓練場に来ていた。受け取り場所は性能テストをする意味でも訓練場がよかったらしい。親方の力なのか、もともとそういうものなのか、ハンターギルド本部の訓練場を親方はあっさりと借りていた。
「ちわ~」
「おう、来たか」
「ああ、出来上がったんだろ?」
「もちろんじゃ、ギルマスとエルフはあとで来ると言っておった。先に妖精坊主のから合わせていくぞ」
「頼むぜ」
そういうとドワーフの親方はアオイ用のガントレットとグリーブを用意した。
「装着はこの間と同じじゃ、手を通して魔力を流すと丁度いいサイズに縮む」
「おう、ばっちりだな」
ガントレットとグリーブはアオイにジャストフィットした。
「じゃあ、まずはあのマトに向けて攻撃してみてくれ。マトは1週間前のと同じターゲット6っていうやつじゃな」
「おし、わかったぜ。おらおらおらおらおらあ!」
アオイは前回と同じく10発のファイヤーボールを発射した。前回は素手で表面にこげ、仮のガントレットで一部崩壊だった的が、今回は完全に崩壊していた。
「おお、これはすげえな。前回のよりはるかに強いじゃねえか」
「うむ、見事なものじゃな。ところで、強度はどうじゃ。壊れそうな気配はするか?」
「いや、まったくしねえ」
「ふう、なら安心じゃな。じゃが、いまの連射系の攻撃だけじゃ不十分じゃ、高威力の一発を頼めるか?」
「おう、任せときな」
アオイは両手を広げて左右の手に魔力を集めると、体の前で合体させ、さらに魔力を注ぎ、どんどん魔力を圧縮するという例の必殺技を発動した。前回との違いは、今回は氷ではなく火バージョンというところだ。
「食らえ、コンプレッションファイヤーボール!」
どうやら必殺技として名前を付けたようだ。コンプレッションとは英語で圧縮のことである。例えば圧縮袋だと、コンプレッションバッグになる。ネーミングセンスとしては、実にそのまんまな技名だったが、ビューティーだのビューティフルだの言っていた連中よりはいいのかもしれない。
数秒のためのあとに放ったコンプレッションファイヤーボールは、標的であるターゲット6を軽々と貫通し、訓練場の壁に激突した。
ぼっううううう、ごうごうごうごう!
壁にぶつかったコンプレッションファイヤーボールは、ぶつかった場所で直径10mくらいの火球を形成し、その内部を焼き尽くすかのように、しばらくその場に止まった。そして、その火球が収まると、壁と床はどろどろに溶けて、マグマのようになっていた。
「すっげえなこれ、めちゃくちゃ威力あがってるじゃねえかよ」
「うむ、わしもびっくりじゃ。どれ、少し見せてみろ」
「ああ」
親方はアオイのガントレットを一通り見ると、問題が無いことを確認した。
「うむ、大丈夫じゃ。この出力だからな、どこか悪影響があるかと不安になったが、なんの問題もなさそうじゃ。なにか気になったところはあるか?」
「いや、問題ねえ。気に入ったぜ。これもらうぜ!」
「おう、かまわんぞ」
ガントレットを作った親方も、使用したアオイも、大満足のようである。
「わたし達の武器は~?」
アオイの武器で大盛り上がりで忘れられかけていたぷうが抗議の声を上げる。
「もちろん用意できておるぞ。2人おそろいでフルミスリル製じゃ」
親方はぷう用の剣と盾、ぴぴ用の槍を取り出した。頑丈さとメンテナンス製を重視するあまり、刃物ではなくただの鈍器と化してしまっているが、2人にとっては剣と槍なのだ。
「「ありがとう~」」
ぴぴとぷうは早速変化の術を使い、妖精に化けると、お互いに素振りを始めた。
「うん、頑丈そうだし、しっくりくる。私もこれでいいかな」
「わたしも~、剣も盾もいいかんじだよ」
「はっはっは、じゃろうじゃろう」
ぴぴもぷうも大満足だ。その後、武器を受け取ったぴぴとぷうとアオイは、武器になれるために、訓練場で練習することにした。各々素振りをしたり、マトを破壊したりと、思い思いに過ごす。ちなみに後方支援要員で、戦闘をする予定のないハピは、のんびりとその様子を眺めているだけだ。そして、しばらく遊んでいると、訓練場にでっかい獅子と、弓をもったエルフが現れた。
「よう、またせたな」
「おひさしぶりです」
「おう、ひさしぶり。カリン殿、さっそくリベンジしたいぜ」
「「「ひさしぶり~」」」
「アオイ、武器のほうはどうよ?」
「すさまじい出来だぜ。めちゃくちゃつええ。見ろよ、あそこの壁」
「壁?」
アオイが指差した壁を見るギルマスとカリンは、固まった。そこには、本来あった結界を突き破り、どろどろにとけたマグマが固まったあとがあった。
「おまえ、なにしてんだよ!?」
「いや、普通にターゲット6だっけ? ☆6のモンスターの防御力があるとかいうマト目掛けて魔法を撃ったら、貫通して壁に当たったんだよ。そしたら、こうなった」
「まじかよ。なんで結界の向こうにある壁が壊れてるんだよ」
「それは知らねえ」
まったく悪びれた様子のないアオイと、その横でドヤ顔全開のドワーフに、ギルマスとカリンはあきれ気味だった。
「それより、カリン殿。リベンジマッチさせてくれよ」
「ええ、いいでしょう」
わずか1週間とはいえ、新戦法を研究し、強力な武器も手に入れた。自信満々のアオイのリベンジマッチが始まるのだった。
「いくぜ!」
「ええ、いつでもどうぞ」
アオイはいきなり全力で空に飛ぶ。100m以上上空に飛ぶことで、カリンの攻撃を防ごうというわけだ。もちろんカリンもただで飛ばせるわけにはいかない。アオイが距離を稼ごうというのなら先制攻撃で撃ち落すまで、直ちに弓で迎撃する。使い技は前回アオイを倒した爆発魔法を込めた矢だ。
アオイはこれを無理に避けることはせずに正面からガードする。ただし、普通に耐えるためのガードではない。銃ゴブリンゴーレムとの戦いで散々練習できた、爆風で後方に下がるガードだ。アオイは予定通り両腕から発生させたバリアでこれをしのぎ、後方上空に距離をとることに成功した。
「ほう」
これにはカリンも少し関心したようだ。前方下方からの攻撃の衝撃を利用して後方上空に退避する。空を飛べる妖精族ならではの防御方法とも言える。
「では、これならどうですかな?」
弓の名手であるカリンが一矢撃って終わりなどということは当然無い。二の矢を発射する。
(この矢はまずいな)
魔力制御の上手なアオイは、敵の使う魔法にも敏感であった。先ほどの矢とは違い、矢に込められている魔法の種類がわからない。瞬時にこれを攻撃系ではなく、拘束系の矢の可能性に気づいたアオイはこの矢を迎撃する。ゴブリンゴーレムとの戦いで、散々ミサイルを打ち込まれたアオイは、なんなくこの矢を迎撃した。本気でのバトルこそ初日だけであったが、その後もゴブリンゴーレムを相手に練習していたのだ。3頭身からくるコミカルな見た目に反して、仮にも☆7のゴブリンキングを倒せる性能のゴブリンゴーレムのミサイルを防げたアオイにとって、元☆7のカリンの矢を防ぐのは、そこまで難易度の高いものでもなかった。
カリンも負けじと次から次へと矢を射るが、両手から魔法を絶え間なく繰り出せるアオイに、弓では連射速度がかなわず、ついにアオイを100m上空まで逃がしてしまうのだった。
「さてっと、今度はこっちの番だぜ。覚悟しな! おらおらおらおらおらあ!」
アオイは上空を高速で飛びまわりながら、次から次へと魔法を連射する。火魔法のファイヤーボールだけでは前回簡単に防がれたため、今回は火、氷、土、雷と、複数の属性の攻撃をランダムに繰り出した。しかも、上空を飛び回りながらも、狙いはあくまでもカリンの真上だ。真上からの攻撃なら前回使用した、地面に設置する水の壁が使えない。そもそも頭上というのは死角であり、急所でもある。
アオイのそんな極悪な攻撃を目にしながらも、カリンは落ち着いてその場からの迎撃を選んだようだった。確かに弓というのは走りながら射るのは非常に難易度が高い。距離を取って仕切りなおせるのならまだしも、上空から魔法を連射するアオイから逃げるのは不可能に近い。しかもここは訓練場、隠れる場所も障害物もない。
カリンは前回同様、3本の矢を片手で番える。前回は地面に刺さった矢から水の壁が立ち上がり、アオイのファイヤーボールを防いだが、今回は上空からの攻撃だ。地面から立ち上がるタイプの防御方法で防げるような攻撃ではない。アオイはカリンがなにをするのか、攻撃をしながらもカリンの一挙手一投足に集中していた。
カリンは3本の矢を空中に三角を描くように発射した。場所はアオイの大量の魔法の射線上だ。だが、3本の矢は大きく外側に外れている。直接迎撃をするわけでもないようだ。アオイはカリンと矢、その両方を油断無く観察していた。
すると次の瞬間。矢が空中に突き刺さった。意味がわからないかもしれないが、空中に突き刺さったのだ。空間系の魔法で空中に矢を刺したとしか思えないが、矢は空中に大きな三角形を描くように突き刺さっていた。そして、矢で描いた三角形の中を埋めるように、矢から水が発生し、水の膜を形成した。
アオイの大量の魔法はこの水の膜でほとんど防がれてしまった。火や雷の魔法は消滅し、氷や土の魔法ですら勢いを大幅にそがれた。
「ははは、すっげえ、まさか空中にも矢をさせるなんてよ」
「ふふふ、元とはいえ☆7ランクですからね、空を飛ぶモンスターとの戦闘経験も、けっこうあるのですよ」
「おっしゃあ、じゃあ、全部防いで見やがれ」
空中に矢をさせる技術はかなりすごいものがあったが、結局は設置型の防御魔法に変わりは無かった。ならやることは1つである。三角の水の膜が無いところから攻撃するのみである。先ほどは頭上、それも真上に近い場所からの攻撃だったため、カリンとの距離を100m以上確実に取りながらも、いろいろな方向から攻撃する。地面すれすれから発射してみたり。斜め45度くらいのアングルから撃ったりと、一方的にアオイがカリンに攻撃を集中させる。
カリンも負けじと矢を空中に撃ちこみ、いたるところに矢の結界を張っていく。新規の結界を張るだけではなく、矢に込めた魔力が切れたのか、水の膜を発せさせることが出来なくなる矢が出れば、そこにすぐさま補充の矢を撃ちこんだ。
そんなカリンの結界の隙間を通すように、アオイは魔法で、カリンは弓で攻撃を繰り出していた。アオイの魔法も、カリンの弓も、ありえない軌道でぐいぐい曲がって相手に襲い掛かる。しばらくの間、そんな硬直ともいえるような状況が続いていたが、今回はカリンが先に動き出す。
「ふしゅううぅ」
精神統一からの渾身の一撃。いままでの矢とは見た目からして材質が違う。そしてその矢と、発射するための弓、それを引くカリンの肉体。そのすべてに込められている魔力量が、いままでとは一線を画していた。
「ちいいっ!」
当たったらやばい。アオイもカリンが弓を番えた瞬間に理解した。アオイも咄嗟に両手をクロスさせ、両腕でバリアを発生させる。
極めて高速で高威力の矢が、一直線にアオイに襲い掛かる。自ら張った結界すら紙切れ同然に貫いて進むその矢は、アオイを捕らえていた。アオイのバリアにカリンの矢が激突し、大きな音をたてる。
がいいいいんっ! びしいっ!
硬質なものにあたるような音と、何かが砕けるような音。2つの音が周囲に鳴り響いた。
「はあ、はあ、はあ、あっぶね~。距離を取ってなかったらやばかったぜ」
アオイは無事だった、バリアを1枚破られ、思いっきり上空に吹き飛ばされたが、無傷で乗り切ったようだ。対するカリンは、この攻撃を防ぎきられたことに少し動揺しているようだった。とはいっても、歴戦の猛者である魔弓のカリンである。余裕な態度ならともかく、動揺等の負の感情が外に出てくるようなやわな鍛え方ではないらしい。動揺してるとわかったのは、ぴぴとぷう、あとはギルマスくらいだろうか。
「じゃあ、今度はこっちの番だぜ!」
そういうと両手を広げ、コンプレッション魔法を発動させた。今回使用する属性は氷だ。莫大な魔力を合体、圧縮させ、コンプレッションアイスアローを作り出した。
「いくぜ!」
アオイは急降下を開始する。自然落下の速度に加えて、羽とグリーブから風魔法で強風を発生させ、どんどん加速していく。カリンもアオイの右手にある氷の魔力の塊が、すさまじい力を持っていることはわかっていた。アオイのこれまでの魔法制御を考えると、猛スピードから投擲をされた場合、避けるのは困難であろう。迎え撃つために弓を構える。
「食らえ~!」
「はああ!」
すさまじいスピードを得たアオイのコンプレッションアイスアローに、カリンの迎撃の一撃が放たれる。カリンが迎撃の一撃に込めた魔力は、先ほどアオイを追い詰めたそれと同レベルのものであった。
ガイイイイイン!
ぶつかり合うアイスアローと矢。もともとの魔力量や魔法の扱いに長けたアオイの全力の一撃。しかも、急降下からの一撃のために推進力に割く魔力の低い、アオイのコンプレッション魔法は、カリンの矢を易々と打ち砕いた。だが、アオイのアイスアローも軌道が微妙にそれていた。このままではカリンに直撃はしないコースになっていた。速度が速度だけに、いまからコントロールして軌道を曲げるのも不可能だ。カリンがそれを確認し、つらそうに次の矢を番えようとしたとき、アオイは秘密兵器を投入する。
「まだまだこれからだぜ! 食らえ、バースト!」
アオイがそう言うと、アイスアローは空中で爆発し、細かい大量の矢に変化した。ゴブリンゴーレムのミサイルに搭載されていた近接信管を真似したのだろう。コースがずれてはいたもの、爆発で強引に向きをかえた大量の小さい氷の矢は、カリンの周辺に降り注いだ。これは普通の矢では防ぎきれない。かといって3本の矢を放ち、結界を作るにも時間がすでに無かった。カリンは大量の小さい氷の矢を浴びて身動き1つ出来なくなっていた。
「は~、は~、正真正銘、こいつで最後だ。カリン殿、勝負をつけようぜ!」
アオイは最後の力を振り絞り、もう一度コンプレッション魔法を発動させる。先ほどのそれと比べると、明らかに威力が弱い。飛び方も誰の目にもわかるレベルで不安定だ。言葉通り、この魔法が正真正銘最後の一撃になるだろう。それに対してカリンは。
「いえ、降参です」
「へ?」
「魔力ももうありませんし、この氷の拘束を解く力すらありません。そして、仮にこの拘束から抜け出せても、もう弓をまともに射ることは出来ないのですよ」
あっけない幕切れだったが、これにて模擬戦は終了であった。アオイが氷の拘束を解除すると、カリンの両腕はぼろぼろだった。
「その腕、どうしたんだ?」
「最後の2射になるのですが、強力な身体強化魔法を使っていたのは気づきましたか?」
「ああ」
「その反動ですよ。限界ぎりぎりまでありとあらゆるパワーを注ぎ込む、そういう技ですからね。現役時代ですら、1日1射が限界、2射以上撃つと体にキタ技ですからね。引退して、まさか模擬戦で2射も使うとは思いませんでしたよ」
「ありがとよ。そこまで全力でやってくれるとはな」
「気にしないでください、好きでやっているだけですから」
こうしてアオイのリベンジマッチは、アオイの勝利で終わるのだった。




