特訓その2と帰って来たゴブリンゴーレム
☆5ランクのゴブリン将軍の力を再現したゴブリン軍団はあっさりとぴぴ達に破られた。ぴぴ達は化け猫の術でどの程度動けるのか確認できて満足したようだが、負けたハピと特訓したいアオイには、ものたりなかった、更なる特訓をすることにした。
「それじゃ~、今度こそ、我輩が勝つ。ぷう、前に使った、銃ゴブリンゴーレムをまた作って」
「は~い」
ぷうは、以前ゴブリンの街を襲撃したときに使った銃ゴブリンゴーレムをまた作った。材料は闘技場の地面の土だ。
「おお、でけえな。3mくらいありそうじゃん。でも、頭でかすぎねえか?」
「そこがかわいいんじゃん、ゴブリンは強くなるほど大きくなるけど、頭部の大きさは大して変わんないせいで、頭身があがっちゃうからね。雑魚ゴブリンを大きくしたこのゴブリンゴーレムこそ、至高のゴブリンなんだよ」
「まあいい、それほど強いかしらねえが、勝負だ!」
「お~!」
こうして、ハピの銃ゴブリンゴーレムとアオイは向かい合う。
「最初に言っとくけど、この銃ゴブリンゴーレムは、☆7ランクのモンスターである、ゴブリン王を倒せる前提でぷうが作ったゴーレムだからね。油断するとすぐやられちゃうよ!」
「大丈夫、油断なんてぜんぜんねえぜ」
「じゃあ、はじめ!」
ぴぴの合図でバトルスタートだ。
まずはハピの銃ゴブリンゴーレムの先制攻撃だ。M14っぽい形の20mmアサルトライフルが火を噴く。発射するのは当然土弾だ。
ダダダダダダダダダッ!
アオイは腕をクロスしてバリアを展開する。アオイのバリアにゴブリンゴーレムの土弾が命中する。アオイのバリアの耐久性は十分にあり、土弾を完全に防ぎきったが、すさまじい衝撃がアオイを襲った。
「ぐうううう」
(なかなかのパワーだな。だが、こうやって反動に逆らわずに後ろに飛べば、ダメージも魔力消費も大分減る)
アオイはゴブリンゴーレムの射撃に無理に立ち向かわず、後ろに吹き飛ばされ、衝撃をいなす。2発3発といわず、数十発の土弾がアオイのバリアを叩いたが、後ろに下がり続けることでこれをいなし続けた。
そして、距離が離れて、土弾の命中精度が落ちてくると、今度はただ受けるだけじゃなく、回避行動を取りながら空を飛び回る。こうなるともうハピの土弾はぜんぜんあたらない。
「はっはっは、そんな攻撃効かないぜ!
「むうううう」
「それじゃ、次は俺の番だな! おらおらおらおらおらあ!」
今度はアオイの番だ。土の弱点といえば水、氷、植物系と相場は決まっていたが、アオイは以前ぷうと戦ったとき同様、氷の矢を選択した。左右の手から鋭い氷の矢が大量に降り注ぐ。ハピもアサルトライフルで迎撃をこころみる。ぷうやアオイが相手の魔法を魔法で迎撃したのを真似しようとしたのだ。だが、ぷうやアオイが相手の魔法を迎撃できたのは、相手の魔法に吸い寄せられるように誘導をかけていたからだ。戦闘職でもないハピに、そんな芸当が出来るはずもない。まぐれ当たりの数発がアオイの氷の矢を叩き落したが、そのほとんどはゴブリンゴーレムに直撃した。アオイはここが攻撃の好機と見るやどんどんどんどん氷の矢を放つ。
しかし、アオイはここで信じられない現実に向き合うことになる。その放たれた矢の数は、百を軽く超え、数百にも及んだにもかかわらず、ゴブリンゴーレムは氷の矢の迎撃のための土弾を撃ちまくることをやめようとしなかったのだ。
「うっがあ~。ぜんぜん当たんない」
アオイの氷の矢を撃ち落そうとがんばっていたハピが、とうとう愚痴りだした。だが、アオイにとっての問題はそこではない。肩からぜいぜいと息をするほどの全力の攻撃をもってしても、ゴブリンゴーレムにダメージを与えられた痕跡がまるでないのだ。
「はあ、はあ、まじかよ、こんだけ攻撃してもダメージなしなのか?」
撃っても撃っても当たらないハピと、撃っても撃ってもダメージを与えられないアオイ、ある意味で拮抗した戦いであった。そんな拮抗状態を打ち破ったのは、ハピだった。
「ふっふっふ、いいこと考えちゃった。モードチェンジ、FIM-92!」
そういうと背中に背負っていたM20っぽい、無反動砲を取り出し、FIM-92っぽい外見に変化させた。もとの材料が土のため、形状はある程度自由に変化できたのだ。そして、ハピが変化させたFIM-92とは、携帯できる地対空ミサイルシステムのことなのだ。いや、実際には発射されるのはただの大型の土弾なので、別に外見を変化させる必要性などないのだが、そこは気分の問題というやつである。
「ファイヤー!」
しゅぽん ぷしゅ~ ぼかん!
そして、アオイに向けて発射した。撃ち出された巨大な土弾を見て高威力だと察したアオイはこれを回避しようと飛翔する。しかし、地対空ミサイルっぽい形の土弾はアオイを追尾し、接近したところで爆発した。
「なにっ、ぐあああ」
いままで直線的な攻撃しかしてこなかったハピの土弾だったが、突然自身を追尾するように曲がってきたため、アオイも驚いた。しかも、接近してきたと思ったら突然爆発したのだ。爆風自体は油断無くバリアをを張っていたこともあり、たいしたダメージではなかったものの、その衝撃でつい吹き飛んでしまった。
ちなみにハピが使っていたときのミサイルは、ありえない軌道でぐねぐね曲がるような、アニメのミサイルのような挙動ではなく、限りなくリアルに近いそれだ。ちょっとだけ曲がって相手に向かっていく程度のものだった。だが、それでも十分にアオイには脅威であった。
実は本来のスティンガーミサイルには近接信管がついていないため、直撃しなければなんの被害も無い。接近したら勝手に爆発するのは近接信管の特徴なのだが、本来は搭載されていないのだ。にもかかわらず、接近していきなり爆発したのは、対空ミサイルなら近接信管でしょっていうハピの思い込みからだ。もっとも、対ドローン用に近接信管付きのタイプもあるらしいのだが。
そして、距離を取られてからぜんぜん当たらなかった攻撃が当たったのだ。しかも相手はダメージはともかく、吹き飛んでいて体勢が悪い。いくら戦闘が苦手なハピとはいえ、ここがチャンスであることくらいはわかった。
「チャンス! 食らえミサイルラ~ッシュ!」
しゅぽん しゅぽん しゅぽん ぷしゅ~ ぷしゅ~ ぷしゅ~ ぼかん! ぼかん! ぼかん!
「くっそおおお!」
銃より射程のはるかに長い対空ミサイル相手では、空中戦が得意な妖精族といえども容易に射程外まで逃げ出せない。アオイは防戦一方になっていた。アオイも一方的にやられるわけにはいかない。氷の矢で土弾の迎撃を試みるが、大きくなっている分頑丈なのか、当たっても壊れる気配がなかった。本物のミサイルなら、進行方向から氷の塊がぶつかれば、それだけで壊れそうな気もするが、ゴブリンゴーレムのミサイルは、ミサイルの形をしたただの土弾だ。耐久性はかなり高かった。
(ちいい、土弾に付いてるあの小さな羽根で方向を制御しているのか。なら)
「おっらあ!」
アオイは土弾の羽部分目掛けて氷の矢を発射した。羽根を凍らせて、姿勢制御を奪おうという考えだ。
ばきん、ばきん
氷の矢がミサイルにあたり、動きを鈍くする。もちろん、土弾を破壊するまでには至らないが、それでも自由には動けないのか、アオイのほうに飛んでいくことは無くなった。これでアオイもまだまだ戦える。連射性能が銃よりだいぶ劣ることもあって、アオイは問題なくハピのミサイルラッシュをさばいていった。それどころか、ゴブリンゴーレムに攻撃できる余裕すら出来ていた。
ミサイルを連射するハピと、空を飛びながらミサイルを迎撃しつつ氷の矢を放つアオイ。いいかんじの勝負になっていたのだが、先に限界を迎えつつあったのはアオイであった。
(このままじゃ、魔力切れで俺が負けるな。勝負に出るか・・・・・・)
アオイはハピの連射の隙を突いて大技に賭けることにした。両手を左右に広げ、左右の手それぞれに氷の魔力を込める。そして、両手を体の前に持ってくると、左右の手で2つの魔力を合体させ、魔力の球を作り出した。さらに手から魔力を流し込みながら、どんどん魔力を圧縮するかのようにぎゅぎゅぎゅっと縮めていく。そして、非常に高濃度に圧縮された氷の魔力の塊が出来上がるのだった。そして、出来上がった魔力の塊を右手で持つと、アオイは突撃した。
「これでおわりだ~!」
気合と共に、全力でアオイは飛翔する。はるか上空から、シュトゥーカのように急降下した。ハピも黙って食らうほどお人よしではない、ミサイルラッシュで迎え撃つ。急降下によりどんどん速度を増すアオイに対して、ミサイルが何発も襲い掛かる。だが、アオイは空いている左手で迎撃したり、腕に張ったバリアで受け止めたりしながら突撃していく。そして、速度が十分に乗り、ハピに回避される心配がないほどに接近をすると、氷の魔力の塊を全力で投擲した。
ハピもこのままだまって食らうわけにはいかない。ミサイルの標的をアオイから氷の魔力の塊に切り替えると、ぽしゅんぽしゅんと連射する。ミサイル、特に対空ミサイルというのはあまり威力が無いのが普通だが、ハピのミサイルはあくまでも土弾だ。威力も十分にあるはずだったが、アオイの氷の魔力の塊はそんなハピのミサイルをものともせずにゴブリンゴーレムに命中した。
氷の魔力の塊はゴブリンゴーレムの巨大な頭部にあたると、瞬時に着弾場所の周辺を凍りつかせた。そして、ゴブリンゴーレムの顔から、氷柱が生えた。さらに、びしっびしっと音をたてて、ゴブリンゴーレムの顔面の一部ごと崩壊した。
「あああ、我輩の銃ゴブリンゴーレムの顔があああ!」
ハピのゴブリンゴーレムではないのだが、ハピにとっては愛機の破損である。いままで外装どころか表層にすらダメージが無かった。それがあろうことか、外装が持っていかれてしまった。これではゴブリンゴーレムのかわいらしい顔が台無しだ。
「くそ、この程度かよ・・・・・・」
アオイは急降下からの氷の魔力の塊を投擲したあと、その勢いを使って上空までもどっていたが、力尽き、空から落下した。魔力が無くなり、意識レベルが低下した状態で空から落ちては、いくら妖精族とはいえ、すさまじいダメージを受ける。ここはぴぴがアオイを救出した。
「まったく、いくら特訓とはいっても、こんなになるまでやらなくてもいいのにね」
「ほんとだね~、時間はまだまだあるから、もっとのんびりでもいいのにね」
ぴぴとぷうはアオイを地面に寝かせると、さくっと回復魔法を掛けて、アオイを起こすことにした。
「うあ、あん? なんだ?」
「「「おはよう」」」
「ああ、おはよって、そうか、ハピに負けて気を失ってたか」
アオイは大きなため息をつくと、かなり落ち込んでいるようだった。
「アオイ、無理しすぎ」
「そうだよ、特訓だからって、後先考えないのはダメだよ~」
「わりい。ついつい楽しくなっちまってな。いや、意地になっちまったっていうほうが正しいかな」
「そうなの? ならいいんだけど」
「どちらにしても、今日はもう終わりだね~。アオイも魔力もうないでしょ?」
「ああ、そうだな、悪い。今日はこれで終わりだな」
「ふっふっふ、まあまあアオイ、リベンジマッチならいつでも受け付けるから、元気だしなよ」
「おう、頼むぜハピ」
「とはいえ、アオイの回復待ちだね。1日じゃ回復しないよね?」
「ああ、悪いがこの状態からだと、完全回復には1週間くらいかかるかもしれん」
「それじゃあ、本気でバトルするのは武器もらってからになるね。それまでの間、アオイの戦い方についていろいろ戦略を練ろう」
「おう、助かるぜ」
「それじゃ、とりあえずご飯だね」
「「「は~い」」」
こうして本日の特訓は終わるのだった。魔力の回復は一晩寝れば全回復とか簡単にはいかない。そもそも肉体だって、酷使したあとは一晩寝た程度では完全回復しない。運動した翌日のほうが筋肉痛でむしろつらいとか、年をとると筋肉痛が数日後にくるとか、そういうのもあるが、完全回復というのは思ったより遅いらしい。フルマラソンを走った後は2~4週間ほどは回復期間が必要という話があるほどだ。しかも今回のアオイは単純な疲労以外にも、外部からの攻撃に対する衝撃を食らったダメージもある。1週間というのはある意味無理やり元通り動ける回復期間だろう。
そして魔力の回復にもっとも大事なのは、自然の魔力の補給である。呼吸で空気中の魔力を取り込んだり、日光浴をして太陽光の魔力を取り込んだり、飲食をしたりと、自然界の魔力を取り込む方法はいろいろある。結局のところ普通に生きていくための補給行動をしているだけで、自然と肉体も魔力も回復するのだ。ただ、肉体の回復に必要なものはたんぱく質だったりビタミンだったりするのに対して、魔力の回復には魔力量の多い食べ物が効果的というだけだ。メイクンの場合、すべての物質がそもそも魔力から出来ているため、どんな食材であっても魔力を保有している。ただ、その魔力保持量に差があるため、魔力の豊富な食材を取ったほうが、魔力が回復しやすいのである。そう、つまり、例のドラゴン肉を食べるのが、一番の近道だったりするのだ。もちろん睡眠も超大事である。
そもそもメイクンでは十分な魔力の補給が出来るか否かが極めて重要である。なにせ、たんぱく質やビタミン等の物理的な栄養素が欠けたとしても、魔力さえあれば、体の中で足りない栄養素を作り出してくれるのだ。特に顕著なのはモンスターだろう。ゴブリン達ですら、水が無い場所でも平然と生きている。これは呼吸や食べ物などから魔力を十分に取り込んでいるため、水を飲まなくてもぜんぜんへっちゃらだからだ。
ちなみにハピのご飯皿や水魔法で出した水に関しては、他人が摂取する分には意味があるが、自分で摂取する分には、まったく意味が無い。それどころか、わざわざ魔法を使う分マイナスですらある。そのため、ハピのご飯皿の場合、食材を加工するタイプの方法なら、用意された食材分だけは当然栄養になるが、自らの魔力ですべてを出した場合、回復はまったくできない。とはいえ、基本的には大丈夫である。なにせ、猫の国でぴぴぷちゃ号に積み込んだ物資は、9割以上食べ物だったのである。
食堂に移動した一行は反省会を行う。
「化け猫の術でもそれなりに動けるけど、やっぱりあんまり機敏に動けないね。特に普段の4足歩行と2足歩行の差は、どうにもしがたいね」
「だね~、せっかく武器作ってもらうことになったけど、雑魚アンド街中用だね」
ぴぴとぷうにとっては、やはり4足歩行がいいようだ。
「やっぱぴぴとぷうにはそう感じるんだね。我輩のゴブリンゴーレムは今日も絶好調だったよ」
「我輩のって、ハピのじゃなくてぷうのでしょ」
「それはそれ、これはこれですよ」
ハピはゴブリンゴーレムがそうとうお気に入りのようだ。
「アオイの最後の一撃、あれはすごかったよね。まさかわたしのゴブリンゴーレムが傷つくとは思っても見なかったよ」
「うん、私も驚いた」
「へへへ、実は秘密兵器ってやつなんだよ。ただ、もうちょい威力がほしかったな。たいしたダメージになってなかった気がするし」
「そんなこと無いよ。あのゴブリンゴーレム、耐久性とか確実に☆7のゴブリンキングより上だからね。それに、ゴーレムだからあの程度って思うかもだけど、ゴブリンゴーレムの壊れた範囲を考えたら、本物のゴブリンキングなら、頭部を完全に凍りつかせて、倒せててもおかしく無かったよ」
「だが、本物のゴブリンキングならガードするだろ? 流石に当たるとは思えないぜ」
「そこは戦い方を工夫するとか、あえてガードに当ててガードを壊しにかかるとかでもいいんじゃないかな~」
「なるほどな、じゃあ、この技を磨いていくかな」
「うん、それが良いと思うよ。それに、急降下攻撃っていうのもいいね。頭上は大抵の生き物の死角だし、魔法の力を推進力に割かずに、威力に振れるからね」
「へへへ、サンキュ」
最後の技をほめられてまんざらでもなさそうなアオイであった。
「ちなみになんだけど、杖を使ったら、もっと威力が出るの?」
「おう、出来るぜ。特にグラジオラス達が使ってたような長い杖ならな」
「そうなんだ」
「ああ、杖も長さや材質でいろんな性能の杖があってな。あいつらの使ってた杖みたいな、威力特化タイプの杖なら、魔力を溜めるのに時間が掛かるが、魔力の圧縮のしやすさなんかがぜんぜん違うんだ。素手よりも威力を出しやすい。ただ、反対にそれ以外の技が使いにくかったりするんだよな。だから、隙が大きくて、1対1にはあんまり向かなくってな」
「なるほどね~」
「それじゃ、明日から武器出来るまでは、まったり訓練しながら回復に努めようか」
「おう」
「「は~い」」




