特訓とゴブリン軍団
無事に武器の注文をして、ハンターギルドを後にした一行は、次なる予定を決めていた。ぴぴが言ったように、もう2足歩行が面倒になったのか、ハピはケット・シーモードからただの猫にもどっていた。ぴぴとぷうはまだ化け猫の術を持続するようだ。
「武器が出来るまで、けっこう時間掛かりそうだよね。その間なにしよっか~?」
「そうだな。なにか狩りに行くのもいいし、俺は素手の特訓とかでもいいかな。いままではなんだかんだで軍の魔法攻撃部隊だったから、杖を使っての特訓がメインだったからな」
「じゃあ、特訓しよう。ぷうの土魔法で作ろうと思えば棒くらい作れるでしょ? それに、モンスターゴーレムと戦えば、どのくらいのモンスターとならやれるかも、確かめられそうだし」
「うん、わかった」
「ふふふふふ、敵役の操作は我輩にまかせるですよ」
「ほお、敵役まで作れるのか?」
「うん、ぷうはゴーレムでモンスターを再現できるんだ。強さなんかも本物と大体一緒だよ。そこに指揮官として我輩が加われば、ふふふ、超強い敵役の完成というわけですよ」
「へえ、面白そうじゃねえか」
「じゃあ、決定ね」
そして武器が出来上がるまでの1週間、訓練に励むことにするのだった。場所はもちろん近衛師団の訓練場だ。早く旅に行かなくていいのかと思うが、いいのである。ちなみに戦闘が苦手なハピが、モンスターゴーレムの指揮をして強くなるのかと言う部分に関しては、未知数である。
訓練場に到着した一行は、さっそくぷうの土魔法で武器と敵役のモンスターゴーレムを作り出す。武器はもちろんぷうが剣と盾、ぴぴが槍だ。材料は訓練場の地面の土だ。アオイは武器としてガントレットを注文しているが、あくまでも素手の補助のため、今回は素手による特訓だ。もっとも、なんの能力もない剣や槍ならまだしも、武器職人の技術をつぎ込んだ装備のような複雑なものは、ぷうにも流石にだせない。
対戦相手にはまずは☆5モンスターであるゴブリン将軍が選ばれた。もちろん部下が1万匹ついている。今回はパーティーとしての連携も考えたいことから、ぴぴ、ぷう、アオイの3人対ゴブリン将軍ゴーレム以下1万の軍勢の対戦だ。ゴブリン将軍ゴーレム達の影の指揮官としてハピが付く。これで、個々の動きこそゴブリンゴーレムとして独立して動くものの、全体の指揮をハピが執ることにより、格段に強くなるというわけだ。
また、特別ルールも設定された。それは、ぴぴとぷうによる武器以外での攻撃禁止だ。これによりぴぴとぷうが自らの爪や牙で攻撃できなくなった。同様にぴぴとぷうの魔法攻撃も禁止である。ただし、補助魔法は使ってもいい。とはいえ、ぴぴが恐竜を襲ったときにみせたような、爆発魔法を足の裏で炸裂させての移動術なんかは、攻撃魔法効果があるため禁止だ。
そして、お互いが向かい合う。アオイは空に浮かび、ぴぴとぷうは地面で武器を構える。ハピは、ボスであるゴブリン将軍ゴーレムを中心におく、密集陣形で構えさせた。アオイという魔法使いがいる以上、範囲攻撃で多大な犠牲を出す可能性のある密集陣形は本来よくないのであるが、今回はあえてその選択をした。なぜなら、アオイがいままでに見せた攻撃魔法の中に、範囲魔法が無かったこと、ぴぴとぷう相手に近接戦で戦うには密集陣形のほうが都合がよかったからだ。さらに、密集陣形の真ん中にボスゴブリンを置くことで、アオイの魔法攻撃をボスゴブリンに防いでもらい、数の利を最大限にいかそうというわけだ。ゴブリン軍団の編成は、アオイの魔法から雑魚ゴブリン含めて守るために、ボスゴブリンは大盾をもち、周囲の攻撃を防ぐことが出来るパラディンタイプのゴーレムだ。そして、ゴブリン軍団の前方5分の2には槍ゴブリンで槍衾を、後半5分の2には遠距離攻撃ゴブリンをそれぞれ配置してある。あまった5分の1は補助タイプのゴブリンだ。これによりバフをかけたり回復したりすることが出来る、まさに完璧な布陣である。
流石に1万匹ものゴブリンゴーレムがいると超目立つし場所もとる。訓練場にたまたま居合わせた近衛のメンバーが見守る中、戦いの火蓋はきられるのだった。
ハピは密集陣形のまま突撃した。ぴぴとぷうが空に飛び立つ前に組み付かないと、槍で武装した陣形前方のゴブリンが遊兵になってしまう。と、同時に、空に浮かんでいるアオイ目掛けて、陣形の後方半分の遠距離攻撃ゴブリンが弓、銃、魔法で一気に攻撃を仕掛ける。走りながらなため、命中精度は悪いものの、数に物を言わせたヘタな鉄砲も数うちゃ当たる作戦だ。
「「「「「ぐぎゃぎゅぎゃ~!!」」」」」
流石ぷうのゴブリンゴーレム、声まで再現するとは芸が細かい。だが、1万匹ものゴブリンが一斉に雄たけびをあげると、実にうるさい。
ゴブリン軍団は密集陣形のままどんどんぴぴ達へ迫っていく。そして、遠距離攻撃ゴブリンの放った攻撃がアオイに降り注ぐ、トータル4000匹からなる攻撃だ。いくら空中にいる小さい妖精族とはいえ、全部はずすことなどありえない。むしろ雑な攻撃ゆえに逃げ場がない。
(おし、これは確実にアオイに当たってる)
ハピはにやりとした。実際アオイは避けようが無かったため、普通に攻撃をバリアで防いだ。ゴブリン軍団は突撃したままアオイへの攻撃の手は緩めない。距離が近くなったこともあり、アオイのバリアにどんどん攻撃が命中していく。もはや攻撃の当たりすぎでアオイがまったく見えないくらいだ。
「さ~ってと、バリアはけっこういい感じだな。腕から出すバリアでも、魔力の流れもスムーズだし、強度も十分ありそうだ」
「うん、そうだね。腕からバリアを出せると、両手が開いて便利そうだよね」
「うん、私もいいと思うよ」
けっこう真剣に突撃をしていたハピのゴブリンゴーレム軍団とは違い、ぴぴ達は実に気の抜けた会話だ。どうやらまずはバリアの検証をしていたようである。確かにガントレットの腕部分にバリア機能の補助をいれると言っていた気がする。
「じゃ、反撃開始だな」
「おらおらおらおらおらあ!」
アオイが左右の手を前後に連続で交互に突き出して、ファイヤーボールを連発する。今回はパーで押し出すような攻撃ではなく、グーで叩きつけるかのように連発してきた。数が多いから細かい狙いもいらなければ、広範囲攻撃なので、左右に曲がる軌道のような、細かい制御もいらないからだろう。
「ふふんっ、こんなこともあろうかと。いけ、パラディンゴブリン、ファイヤーボールを全部受け止めろ!」
パラディンゴブリンは左手に装備された巨大な盾をアオイ目掛けて持ち上げる。そして、シールドバリアを展開した。シールドバリアは、密集陣形のゴブリン軍団全体をまるで傘のように覆った。そして、アオイのファイヤーボールがパラディンゴブリンのシールドバリアに激突した、次の瞬間。
どどどどどどか~ん!
普通にファイヤーボールが地面に着弾した。パラディンゴブリンのシールドバリアには、綺麗に穴が開いていた。どうやらシールドバリアには、ファイヤーボールを爆発させる程度の強度も無かったようで、やすやすと貫通していた。いろいろあったものの、☆6ハンターのアオイの攻撃力は、☆5ゴブリンを再現したゴーレムには荷が重かったのだろうか、あるいは、シールドバリアの範囲を広げすぎたからだろうか、真実は不明だ。これは、要検証である。
とはいえ、アオイの攻撃で被害を受けたのは、ゴブリン軍団の後ろ半分だけだ。前半分の槍部隊は、ぴぴとぷうに譲るらしい。ぴぴとぷうも、空を飛ぶことはせず、地面で迎え撃つ気まんまんだ。
ぴぴとぷうは背中合わせでかっこよく戦う、というようなことをする気はまったく無いらしく、普通に離れて立っていた。ハピのゴブリン軍団はほぼ真四角の密集陣形の後ろ半分がやられたとはいえ、前衛部隊はほぼ無傷だし、パラディンゴブリンもいまだ健在だ。もともと前衛部分のみなら、横陣隊形になっていた。そのため、当初の予定通りそのまま突撃して横陣の腹でぴぴとぷうを捕らえて、両翼を閉じるように囲って包囲しようとする。
ぴぴとぷうの使った化け猫の術は、本来の能力からかなり力が低下する。その低下率は化け猫の術の得手不得手にもよるが、あまり得意じゃないぴぴとぷうなら、100分の1以下だろう。1mはある妖精の体も、猫としての体を変化させて妖精の体を作っているのではない。猫の体はおそらく妖精の体の中央でびよ~んと伸びをしている姿勢でいるか、小さく丸まっているかしているだけだ。そして、猫の体の周囲に魔力で粘度のように作られたのが、この妖精の体のはずだ。そのため、本体の入っている場所はともかく、それ以外の部分の防御力は特に低いはずだった。
そしてついにぴぴとぷうとゴブリン軍団がぶつかり合う。雑魚ゴブリンも1mくらいの身長なため、ぴぴとぷうと同じくらいの背の高さだ。だが、ぴぴの槍が150cmなのに対して、ゴブリン達の持っている槍は2mあった。ハピはリーチで負けないようにぴぴの槍プラス50cmの長さにしてあったのだ。圧倒的な密度の槍衾、しかもリーチも50cmも長い、負ける要素はなかった。おまけにパラディンゴブリンもぴぴにぶつけることにした。ぴぴはなんだかんだいってぷうの母猫なので、ぷうを攻撃するとぴぴが怒るのだ。ぴぴとぷうとやりあうときは、ぴぴから倒す。これが鉄則なのであった。
槍を前方に向けて構えて突撃するゴブリン達に対して、ぴぴは思いっきり槍を横に振った。振り方は槍の振り方というよりも、野球のバットスイングだ。と同時に、槍が伸びた。正確には土の槍の先端、穂先の部分から、本来の穂先よりはるかに長い火の穂先が出現し、それがゴブリン達をなぎ払った。一撃で密集していたゴブリン達がすぱっと切り裂かれてしまった。
「え、ぴぴ、それルール違反じゃない?」
「ううん、ルール違反じゃないよ。なんで?」
「だってそれ、どう見ても攻撃魔法だよね?」
「違うよ、槍の技だよ」
「ううう」
思わず抗議したハピであったが、確かに武器に火をまとわせたり、雷をまとわせたりはゲームやアニメでもよくある定番の技だ。剣の技や槍の技といわれれば、それまでであった。しかも、今回の技は確かに槍の技っぽい技であった。ゲームによっては剣こそ持っているものの、剣の技の要素ゼロに近い遠距離攻撃すら少なくなかった。むぐぐぐぐ、おのれ武器技め。リーチを生かしてぴぴの槍の射程外からちくちくやるという、ハピの目論見は完全に崩れたのだった。
一方ぷうのほうもなかなかひどい戦いが繰り広げられていた。ぷうの武器は1mの片手剣と丸い盾である。リーチならゴブリンの槍が圧倒的に上であるが、先ほどの素振り時にも見せていたシールド投擲をさっそく使っていた。回転しながら思いっきり盾を水平に投げ飛ばす。盾はゴブリン達を容易く切り裂いていく。なんで盾でゴブリンが切れるのかとハピは疑問に思っていたが、どうやら盾のふち部分に、金属魔法で即席のブレードを取り付けているようである。そして、あいかわらず魔法の紐のようなものでぷうと盾はつながっているのだが、その紐がひどい。紐に当たったゴブリン達も、盾に当たったゴブリンなみにすぱすぱと切れていった。もはやハピに勝ち目は無かった。というか、剣にこだわっていたように思えたぷうだったが、剣なんて一回も振ってない。盾を投げて、紐でぶんぶん振り回しているだけだった。
ほどなくしてハピの操るゴブリンゴーレム軍団は全滅した。ボスであるパラディンゴブリンゴーレムも、いつの間にか切り捨てられていたのか、巨大な盾ごと真っ二つだった。攻撃が雑だったこともあり、ゴーレムのコアは残っていたため、魔力さえ流せば復活できるものの、いくら魔力を流しても、このやられっぷりではしょうがない。ハピは大人しく負けを認めるのだった。
「ううう、我輩の負けだね」
「負けって言うか、☆5ゴブリン達は、私達の動きのチェック用の標的ってかんじだったしね」
「そうそう、最初から勝負じゃ無かったよ~」
「そうだぜ、☆5なんて俺1人で勝てる相手だしな」
どうやら勝負ですらなかったようだ。確かに、勝ち目なんてなさそうだった。
「うん、この格好でもけっこう動けるね」
「だね。わたしも満足かな」
「ええ~、ちょっとまってよ。ぷう、次はもっと強いゴーレム出してよ。今度こそ我輩が勝つよ!」
「はっはっは、じゃあ、俺が相手になってやるよ」
「いいだろう、受けて立つ!」
ぴぴとぷうが満足する一方、妙なテンションになっていたハピなのであった。そしてアオイはまだまだ物足りないようだ。




