王都ハンターギルド北門支部
みんなの武器を入手し、狩りの準備がやっと整った。というわけで、さっそく狩りに行こうという3人であった。
「それじゃ、狩りに行きたいね」
「おう、なにか狩りたいモンスターいるか?」
「おいしいのがいい~!」
「美味しいモンスターか、だとしたら、美味い牛がいるぜ。北門から出た先、河が西に大きく曲がる場所があるんだけどよ。その北側が定期的に河が氾濫するせいで、いい草原になってんだよ。そこにいる牛系のモンスターがすっげえ美味いぜ。低ランクのやつならそこらの店で普通に食えるんだが、上位ランクのやつとかは、高級店ですらなかなか食べれねえ。さらに、今は魔物の時代だからな、もしかすると更に上位のすげえのがいるかも知れねえぜ」
「じゃあ、それ行こう」
「うん、おいしそう~」
「じゃ、まずは王都ハンターギルド北門支部に行くか」
「「お~」」
「あれ? そういや、ハピはどうしたんだ?」
「ハピはおいしいもの探してるんじゃない? 特にチーズとお酒はモンスター倒しても入手できないし」
「別行動なのか?」
「うん、ハピは後方支援だからね。補助系の魔法も使えるとはいえ、基本的には戦いに来ないよ。今回は私の後ろにぷかぷか浮いてるあのお家の中に、食料とかいっぱい入れてくれてるみたい」
「それに、本来はわたしとぴぴでさえ、一緒に狩りはしないもんね」
「うん、いつも別々に狩りを楽しむよね。それで、お互いの成果で勝負するのが定番かな」
「猫は単独で狩りをするとは聞いてたが、まじで単独なんだな」
「私とぷうとですら、若干狩りのスタイルが違うからね」
「うん、わたしはとことん待つけど、ぴぴは比較的早くから飛び出して、追いかけるよね」
「なるほどな~」
一行は今まで居た王都ハンターギルド本部から、北門支部に移動した。本部があるのは南西にある行政区、北門支部はその名の通り北門にある。妖精の国の王都は、総人口2000万の巨大な街だ。移動はけっこう大変であった。
「あの猫の乗り物には乗らないのか?」
「あれはハピが移動に飽きないように作ったものだからね、わたし達だけなら、走ったほうが速いでしょ」
「まあ、確かにあの乗り物を街中でかっ飛ばすわけにはいかないか」
「そういうこと」
ぴぴとぷうは走り、アオイは飛んだ。アオイも☆6ランクということもあり、移動速度は十分に速かった。そのため、けっこう短い時間で北門支部に到着した。北街道はフラワーリバーを挟んで左右に通っているため、北門も河を挟んで2箇所ある。当然北門広場も、河の左右に存在している。ただ、その2つの広場は、巨大な橋でつながっているため、どちらの門からも、アクセスはスムーズな構造だ。そして、王都ハンターギルド北門支部は、河の東側の北門広場に場所に堂々と建っていた。ぱっと見た感じでは、大きさは本部と同じくらいで、4階建てくらいの建物に見える。本部同様、北門支部も木をそのまま建物にしたような建築物、ツリーハウスで出来ていた。
「ちわ~」
からんっ、からんっ。
「ようこそ王都ハンターギルド北門支部へ」
大きな扉を開けて、3人は建物に入っていく。王都ハンターギルド本部は事務処理等がメインの仕事で、ハンターが直接来るような場所ではなかったために、どこにでもありそうな役所の受付といった構造だったが、北門支部はハンターが依頼を受けたり、達成の報告に来たりするだけのことはあって、内装が大分違っていた。
まず、ギルドに入ると正面に依頼書のボードがあり、いろいろな依頼書が貼られているようだ。そして、右側には各種受付が、左側には酒場があった。職員はともかく、ハンターはあまりいないようだ。今日は朝から武器をもらいにギルド本部へ行き、お昼ご飯を食べてからこの支部に来たため、いまはお昼過ぎの時間帯だ。多くのハンターは仕事をしに、街の外へ行っている時間だから人が少ないのは、ある意味正常な証だ。
アオイの気の無いあいさつに丁寧に返事をしてくれたのは、受付にいた妖精族だった。
「じゃ、まずは酒場に行こうぜ」
「え、いきなりお酒飲むの?」
「私達お酒飲まないんだけど」
「ああ、ちがうちがう。別に酒を飲みたいわけじゃないさ。まあいいから付いてきな」
ぴぴとぷうは黙ってアオイについて行き、酒場の椅子に座る。酒場のテーブルは4人掛けの四角いテーブルが、たくさんある。至って普通の外食屋さんといった雰囲気だった。
「ギルドカードをテーブルの上に出して、依頼書確認って念じながら魔力を通してみな」
言われるがままに念じながら魔力を流すぴぴとぷう。すると、ギルドカードの上に半透明の板状のものが現れた。
「これがこの酒場のテーブルの機能の一種でな、この半透明の板で、いろいろ検索できるってわけさ。犬大臣のところでも説明があったけど、基本モンスターはすべて討伐報酬がでるんだ。で、このテーブルで見れる情報に、どこにどんなモンスターがいるかとか、間引く頻度が足りているかとか、それによっての報酬の上下なんかの情報がみれるんだぜ」
「へ~、でも、それだと依頼ボードってなんのためにあるの?」
「依頼ボードは特別報酬があるやつがメインだな。なになにの素材がほしいとか、なになにが増えすぎて困ってるとかな。まあ、そういったモンスターを狩ったほうが、金になるし、ハンターランクを上げる際に本来ならハンターランクポイントってのを溜めるんだが、そのポイントにボーナスがついたりするな。まあ要するに、割りのいい仕事がボードに乗ってるってわけさ」
「なるほどね~、今回は牛モンスター狩るって決めてるから、ボードは見ないのね」
「そういうことだな」
アオイはボードをなれた手つきで操作していく。ぴぴとぷうはとりあえずアオイ任せだ。
「お、面白いことになってるみたいだぜ」
「「面白いこと?」」
「ああ、魔物の時代の影響だろうな。馬鹿でかい牛がいるらしい。緊急依頼が出てやがる」
「「おお~」」
「きっと普通のより上手いはずだぜ。さっそく、受付に行って詳細を聞くか」
アオイが受付で詳細を聞こうと立ち上がろうとしたとき、1人の妖精族がこちらに現れた。着ている制服からして、受付担当の妖精族のようだ。というか、北門支部にアオイがちわ~、といいながら入った際に、きちんと返事を返してくれた人だった。
「もしよろしければ、私がこちらで説明いたしましょうか?」
「助かるが、いいのか?」
「ええ、今はごらんの通り暇ですし、手が空いているときは、ここのテーブルで説明することもよくあるのですよ。そもそも、本来このテーブルは酒場のテーブルではなく、会議用のテーブルですから、まったく問題ありません」
「そうか、それじゃあ頼むぜ」
受付妖精の説明によると、この牛モンスターの肉は、王都の食肉として非常にありふれた食べ物であるとのことだ。大きさによってランクがわかるものの、一番小さい牛モンスターは☆2ランクだそうだ。そのため、牛狩りが出来たら脱初心者とみなされるくらい、よく狩られているモンスターとのことだ。そして、☆3ランクの牛狩りが出来たら、1人前牛狩りハンター。☆4ランクの牛狩りが出来たらベテラン牛狩りハンターというふうに、なにか一芸に特化するなら、牛狩りに特化しろ、と言われるくらい王都ではよく狩られる、ありふれたモンスター、それが牛モンスターらしい。ちなみにモンスターは自然の産物であるため、いくら狩っても大丈夫だ。必ず一定数湧き出す。地面が熱を持つのと同様、あるいは風が止まないのと同様、あるいは太陽が光るのと同様、尽きる事の無い資源なのである。
そんな牛モンスターなのだが、困ったことがおきたらしい。普段はどんなに強くても、☆5ランクの強さまでしか大きくならない牛モンスターの中に、☆6ランク相当の牛モンスターが現れてしまったということだそうだ。そのため、普段牛狩りで生活しているハンター達が、困っているということらしい。
「そんなに困ってるなら、軍に応援を頼まないのか?」
「それが、軍にもお願いしたのですが、そう簡単に部隊を派遣できないそうです。いまは魔物の時代と呼ばれるほど、各地の魔物の動きが活発になってきています。その影響もあり、通常任務である、街道周辺の魔物の掃討や、東のゴブリンとの戦闘が激化しているらしく、部隊に余裕がないとのことです。その上、牛モンスターは草食で危険度の低いモンスターなので、どうしても手が回らないらしいのです」
「ギルマスとかカリン殿に頼めばよかったんじゃないのか?」
「ギルマスはダメです。あの方は確かに強いです。こと戦闘においては現役時からさほど劣らぬ強さですし、現状でもハンターギルド最大戦力の1人です。ただ、寄る年波には勝てないらしく体力、魔力共に回復力が大幅に落ちているそうで、いざという時のために、無駄に魔力を消費させられないのです。そのため肉食の、もっと危険度の高いモンスターが出た際のギルドの切り札として、平時は温存しなければならないのです。他の元☆7の方も同様ですね。また、現役の☆7ハンターは大抵戦闘狂でして、すでに妖精の国の中の、重要なモンスター領域にて活動中のため、召集することは出来ませんでした。そして、最後の希望であった、良識ある☆7パーティーとよばれる一団がいるのですが、そのパーティーは、現在大陸中央部の危険度☆8エリア、巨木の森の調査でおりません。そして、カリン殿ですが、すでに依頼をしたのですが、倒せませんでした」
「ほう、カリン殿が倒せないほどのモンスターか、俄然やる気が出てきたぜ。だが、話を聞く限り、そこまで切羽詰ってもいないのか?」
「はい、その通りです。ボス牛は巨大で目立つため、避けることは容易ですし、避けて牛狩りをすればいいだけですので、討伐される牛モンスターの数も、減ってはおりません。むしろ、魔物の時代の影響で、ここ数十年間の討伐記録を見る限り、多いくらいです」
「なるほど、間引きが上手くいっている上に草食で危険度の低いモンスターなら、しょうがないか」
「ええ、ですが、私達ギルドとしましても、こんな時代です、いつ不測の事態が起きないか不安なのです。御三方は☆6ランクと見受けられます。是非とも討伐に参加していただきたいと考えております。現在緊急の討伐依頼がギルドから出ておりますので、報酬はかなりおいしいと思いますよ」
どうやら机に出してある3人の☆6ギルドカードを見て、依頼に来たようであった。
「お肉は美味しいんだよね。なら私はいいよ」
「うん、美味しい獲物なら大歓迎だよ~」
「そうだな、俺もばりばり狩りしたい気分だしな。行ってきてやるぜ」
「ありがとうございます。ならば注意点を申し上げてよろしいでしょうか?」
「ああ、頼むぜ」
「まず、牛モンスターの特徴として、攻撃や素早さよりは防御が硬いタイプのモンスターになります。特にボス牛の防御力は脅威的です。カリン殿が、守備力だけなら☆7モンスターでも中位の堅さがある可能性がある、とおっしゃっておりました。その反面、攻撃力やすばやさは☆6モンスター下位程度の能力しかないそうです」
「ほう、カリン殿がそこまで言うとはな。火力か、ちょっと試してみたくなってくるな」
「正直かなり厄介ですね。現に今も、牛狩りパーティーとしては最上位にあたる、☆5パーティーが2組と、助っ人の☆6パーティーの計3パーティーが討伐しようと試みているのですが、成果は無い状況です。折角の魔物の時代、あのボス牛さえいなければ、私達北門支部はもっと儲かっていたはずなのに。あ、こほんっ、牛モンスターの肉は良質な食料です。こんな時代だからこそ、不測の事態に備えて、食料の備蓄を増やさなくてはなりません。また、妖精の国では人気が無いのですが、皮もいい防具の素材になると、エルフやドワーフの国では人気があります。こんな時代だからこそ、種族の垣根を越えて、協力し合っていかないといけませんからね」
若干お金が好きなだけという本音が見えた気もするが、言っている事に間違いはないだろう。3人はこの依頼を快諾する。
「おっし、じゃあ、最後に確認だが、いま依頼を受けてる3組はともかく、俺達は共闘関係じゃないって認識で良いよな?」
「はい、その通りです。もし共闘関係を結ぶ場合、依頼書をもって現地で直接交渉してください」
「共闘関係ってなに?」
「簡単に言うと、複数のパーティーで協力して強力なモンスターと戦おうってやつだな。基本的には他のパーティーが戦ってるモンスターに、横からちょっかい出すのは禁止なんだよな」
「なるほど」
「ああ、ぱっと見苦戦してそうに見えても、例えば罠にかけようとしてるとか、それぞれの作戦があるからな。他の連中がヘタに参戦することによって、倒せるモンスターも倒せなくなることはよくあるんだよ。最悪の場合、罠の不発で負けることだってありえる。まあ、お前らなら介入してもモンスターを確実にしとめられるだろうから、まだましだがな。ちなみに軍でも他の部隊の戦闘中は、勝手に介入しないぜ。お前らも気をつけろよ」
「うん、わかった。私達も縄張りとかで分けて、獲物かぶらないようにするからね。その辺は大丈夫だよ」
「場所は、普通の牛モンスターが出るところで良いんだよな?」
「はい、フラワーリバーが西に曲がるところにある、北側の氾濫原になります。大きいので、探すのはそこまで苦労しないはずです」
「わかったぜ。依頼を受ける必要はあるか?」
「共闘する場合、依頼書がないと話がつかないかと思います。ですが、単独パーティーで倒すのでしたら、特に必要ありません。討伐したボス牛の、魔力体を持ち込んでいただければ、特別依頼の報酬込みで受け取れます」
「そうか、単独でいいよな?」
「「うん」」
「うし、じゃあ行ってくるぜ」
「「行ってくるぜ~」」
「はい、よろしくお願いします」
こうして一行は、初めてのハンターギルドでの狩りに向かうのだった。




