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人魚大戦  作者: 鮭さん
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牛の国のサンフラワー⑤ ハーキュリアへ/閑話 海の底の話①

 英雄の海峡を抜け四方が海に包まれる。


「シャオエン! お前は追放だ!」


 朝からギョフリーがうるさい。こいつにはいつか制裁を加えなければならない。


「どうしたのギョフリー」


「見てくださいサンフラワー様! 今日は晴れているので壁のペンキ塗りを頼んだんです! 楽しんでやればすぐ終わるからって!」


「私は頑張った」


「サン様俺も俺も!」


「ヴァー!」


「キュー」


「ククク……ペンキの白は心の白」


「俺も!」


「俺も!」


「ワシの冥土の土産じゃ」


「はー、成る程成る程。ねえシャオエン、次からはペンキの色は一色にしようね」


 そうならそうと早く言えばいいのに。私がペンキを塗ってたらみんな楽しそうだと混ざってきたんだ。

 お陰でなんだか楽しそうな壁になった。


「まあペンキも勿体無いし後からまた塗り直そうか」


 サンフラワーは話が早い。ギョフリーはぶつくさ言いながら去っていく。他のみんなは身体中のペンキを落としに行った。


 甲板には私とサンフラワーの二人きり。


「……なあ、サンフラワー」


「どうしたのシャオエン」


「私の事は聞かないのか?」


「私の……なに?」


「だからその、、私がその、、」


「言いたくなったら教えて。待ってるから」


 いつかちゃんと話さなければならない。私がこの船に乗った訳も、その理由も。なんとなく気まずくなったので私は話を逸らす。


「そうだ、あっちに着いたらまたすぐ船に乗るのか?」


「んー、船の修繕もあるし、みんなも休ませなきゃならないから次は一月後かなあ」


 聞いておいて良かった。船を降りたら暫く無職になる。こいつのそばにもいれない。これはなんとかしなければ。


「一月か……その間、私に仕事をくれないだろうか……出来ればお前の近くで……」


「仕事かあ……ちょっとお母様に話してみる!」


 よし、これでひとまずはサンフラワーと一緒に居れそうだ。


「……そう言えばお前の国はどうなっているんだ? お前の母親は牛か?」


「人間だよ。牛の国はねー、毎年一回皆んなで殴り合って、一番強い牛がその年の王様に決まってた。野蛮だよねー」


 それは酷い。何よりも獰猛で戦いを求める牛獣人(ミノタウロス)の国ミーノス王国。そのイメージピッタリだ。


「でもお母様が王になってそんな戦いは止める事にしたの。お母様はかれこれ十年以上ずっと王様をしてる」


 うむ、サンフラワーの母親である女王が改革を進め、話し合いで決める国家に変わったと言う事なんだろう。


「だからね、お母様にお願いしてみる。ふふ、楽しみにしていてねー。私にいい考えがあるんだー」


 サンフラワーの天真爛漫な笑みを残して船は一路、ハーキュリア大陸に向かう。


 目指すは彼女の故郷、牛の国、ミーノス王国だ。


 人魚大戦第1話 牛の国のサンフラワー 了


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 セミの美味しい季節に私は生まれた。


 この大陸では幾つかの季節が過ぎ去った後に大量のセミが飛来し、大陸に住む生き物達の胃袋を大いに満たしてくれる。

 それは私にとっても例外でなく、川を伝い海に流れ込んでくるセミ達は幼い私の心と胃袋を鷲掴みにした。


 食べても食べても無くならないセミ。こんな幸せが永遠に続くと思っていた。

 だが程なくセミはいなくなり、私は次のセミの季節を心待ちにした。


 夏が終わり、秋が過ぎ、冬を越えて春が巡り、次の夏になってもセミはやってこない。次の夏も、その次の夏も。川の上流迄出向いてもセミの姿はどこにもいない。やがて私はセミの事は幼い日の夢だったと諦めていく。

 私が少し成長したとある季節、夢と諦めていたセミがまたしても大量にやって来た。

 川から流れ込んでくる赤い目をした絶対旨い奴。幼き日に食べた忘れられぬ味。ここに私は宣言する。


「私は決めた。私はセミと共に生き、セミと共に年輪を刻もう。今日が私の一歳の誕生日だ」


 周りは「何このヤベー奴」って顔をしたが構うもんか。


 月日は流れセミを何度か食べる内に、私より老いた人魚はいなくなり、私を王とする長い治世が続いた。

 子供はいなかったが、若い人魚達は私を「ママ」と呼び私もそれに応えた。


 そうして更に何度目かのセミの季節がやってくる。

 皺も増え、腰痛に悩まされながらも私はまだ健在だ。

 もう「王の神槍」を持ち闘いに出る事もなく、今の私の仕事は幼い人魚達の世話と教育だ。

 海底の岩場に腰を下ろし、好物のセミを大皿に並べれば私は満たされる。

 ここぞとばかりに最近人間が大陸に持ち込んだ葡萄酒の蓋を開け、人間の作ったガラス製のグラスに葡萄酒を注いでいく。

 海の底で葡萄酒をグラスに注ぐ。当然瓶から溢れる葡萄酒は海流に飲まれ海中に綺麗な線を描いていく。グラスの中は殆ど海水のままだがこれがいい。


「私の誕生日と大地からの豊かな恵みに!」


 殆どの塩味と微かな葡萄の香り。


「美味しいわ!」


 大皿のセミは私が食べる間もなく辺りの小魚やタコ等に奪い尽くされていく。

 だが私はそれで満足だ。だってまだ暫くの間はいつでもセミを食べられるのだから。


「……残念ね、あなた達はまだ幼すぎてこの幸せを味わえない」


 目線の先には無数の網目で囲われた無数の揺りかごが海流に揺らされている。

 揺りかごの中で眠る幼き人魚たち。髪の色は様々で赤や黄色や緑、そして紺色の髪が虹の様な彩りを作りあげていく。


「次のセミの季節、あなた達が美しく成長した時に一緒に楽しみましょう……そう、今日で私は十七歳、その私の次の誕生日に」


 揺りかごは揺れる。


 それはまるで海の中のあなたたちを祝福する様に。

作中用語辞典

オリアナ大陸、ハーキュリア大陸 世界には二つの大陸が存在する。「偉大なるオリアナ」と「新しきハーキュリア」 英雄の名を冠する二つの大陸を舞台に物語は進行していく。


赤い目のセミ セミ。モデルは素数ゼミ。閑話の彼女の年齢を調べてはいけない。


物語を読んで頂きありがとうございます。感想など頂ければ嬉しいです。

取り敢えず12話の区切りまで頑張ろうと思います。筆は遅いので迷惑を掛けると思いますが宜しくお願いします。

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