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人魚大戦  作者: 鮭さん
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牛の国のサンフラワー④ 人魚注意報

「チクショーめ! 人魚注意報だ!」


「美人め! 人魚じゃなかったらチクショー!」


「俺は人魚より嫁が好きだからチクショー!」


 乗組員が口々にそう叫ぶ。伝書鳩を飛ばす奴もいる。

 既に注意報どころではない、警報だ。だが多分みんなそう言いたかったんだろう。ならば仕方ない。


「みんなー、落ち着いて!」


「船長!」


「サンフラワー様!」


「シャオエンはそこで座ってて」


 ボソッとそう言うとサンフラワーは優雅に人魚の元へ歩いて行く。その両側にはフェンとシゲミ、少し後ろにロウゼキが付いている。


「大いなる海の眷属たる人魚よ。私は牛の国、ミーノス王国の第一王女サンフラワー・ミーノスである」


 いいぞ、威厳たっぷりだ。そして優雅に胸の紋章を手に取ると、


「人魚さん! これを差し上げます! どうかこの海峡を無事に通して貰えませんか!」


 ああ、0点だ。何故最後まで作法を教えない。


「あらあら可愛い王女様、これを私にくれるのかしら」


「はいっ! 通行料です! だからこの海を通してください!」


「素敵。私ピカピカした物が大好き。だってピカピカしてるんですもの」


「じゃあ、」


「でもね、私はこの船のお酒も食べ物も全部好き。このまま漂流させれば船の中身全部私の物。それって素敵だと思わない?」


 人魚は自由だ。好きに生きて好きに死ぬ。我慢出来る人魚など最初から少数派なのだ。


 この交渉は失敗に終わる。


「この船は牛の国の船です。あなたたち人魚の王と、我が王の仲を引き裂くつもりですか?」


 その証拠に奴は右腕を隠している。


「ううん、だから全てが丸く収まる方法を教えてあげる。きっとママ……人魚の王も喜ぶわ」


「その方法って?」


「とっても簡単。この船のみんなに死んでもらうの!」


 そう言うと奴は5本の細長い爪が伸びた右腕をサンフラワーに向けた。


「船長!」


「サンフラワー様!」


「アハハハハハ!」


 ガリイィと金属音の様な物が響く。


「ヴァー!」


 間一髪、サンフラワーをバンザイと持ち上げたシゲミの皮膚は人魚の爪も通さない。


「あらあら、固いわ。流石はトカゲちゃ―」


 その喉元にフェンが噛み付く。


「狼の牙は全てを奪うぞ」


 ここ数日で分かった事だがあいつらは強い。陸の上ならば私など及びもしないだろう。

 少なくとも船上ならば私に出番はない。


「フフ、行儀の悪いワンちゃんね……私は『霧の人魚』。本体ならとっくに逃げたわよ」


「ワフッ?」


 奴がそう言うと辺りに霧が立ち込め、喉に噛み付かれた筈の人魚も形を崩していく。


「フフフ、残念。船の上ではあなた達に敵わないわ」


 恐らく状況は最悪だ。


「だからね、急ぐのはやめたわ。一人一人海の中に誘うの。この霧は決して晴れない。濃い霧の中、足元を滑らせて海の中に招待するわ」


 視界も定かでない中、『霧の人魚』の声のみが響く。


「ミンナオスワリー!」


 シゲミの声だ。あいつ喋れたのか。

 船も船員も下手に動かなければすぐに誰かが命を落とす事はない。ならばやる事は一つ。


「……困った奴だ。働きもせず好きなように歌って暮らして。全く持ってロクでもない奴だ」


 私は首の後ろの髪留めを外し、右手に持つとほんの少し力を籠める。


 形を成せ、『神の三叉』


「なあ、サンフラワー、人魚にも色んな奴がいる。だからその、あんまり人魚を悪く思わないで欲しい」


 相手は船をも沈める海の魔物。今命を狙われたばかりの相手を庇っているのだ。我ながら正気の沙汰ではない。それでも―


「それでも、もし人魚の中に人間と共に歩みたいと言う奴がいれば、私は人間と人魚の架け橋になりたい、勿論獣人達もだ……お前が獣人達を世界中のどこでも自由に歩ませたいのと同じ様に」


 霧の中でも少しづつサンフラワーの顔が見える。


「サンフラワー。その為に、お前の力を借りたい」


 彼女は今どんな顔をしているだろう。もし今の言葉を拒絶されたら私はもう立っていられない。ほんの少しの勇気を持って私はサンフラワーを見つめる。


「いいね……それ、いいね」


 手が震えていた。こんなにも私は緊張していたのか。彼女のオレンジの髪に手を添える。


「だから、ここは私に任せてくれないか」


「シャオエンは戦えるの?」


「あいつは海の王を語った。ママはそんな事では喜ばない」


 サンフラワーが少しキョトンとする。


「……ねえ、シャオエンそれって」


「だから、ちょっと奴を懲らしめてくる」


 そして私は海に飛び込む。この船を脅かす『霧の人魚』の元へ。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 フフフ、ここは冷たい海の中。


 あの船に魔物がいるのは意外だったわ。全然爪が通らないんだもの。


 でも大丈夫。あの霧の中下手に船を動かせば座礁は必至、運が良くても遭難は免れない。


 私は『霧の人魚』。時間は掛かるけど一人一人足元を迷わせ海に沈めて行けばあの船のお酒も宝石も全部私の物。


 素敵、とっても素敵! 飲んで歌って毎日がパラダイス!


 ……人間が海に落ちる音。はい、一名様ご案内。


 早速落ちて人間って可哀想。海の中じゃ自由に動く事すら出来ない。海が少し澱めば1メートル先すら満足に見れない。


 ホラ、空気を求めて上に上がろうと必死にもがいてる。とても無様で可愛らしい。


 せめて苦しまない様、ひと突きで殺してあげるわ!


 ……


 ……


 なにこれ?


 人間だと思って刺したものは船のテーブル。変ね、私がこんなものと人間を間違えるなんて―


 甲高い反響音が聞こえる。どこかで聞いた事がある様な……


(その昔、一人の人魚が地上を願った……)


 !……この声! 反響音に乗って聞こえてくる!


(そいつは、自分の歌と引き換えに人間の足を手に入れたんだ……)


 どこだ! どこにいる!? !!……また反響音! まさか反響測位を使って私の認識を誤認させた? そんな事が出来るのは……


(でもそいつは人間の足を手に入れただけで人間には程遠い。もう人魚の歌も唄えない)


 下か! あり得ない! あり得ないだろ! だってあの槍を持つのは― 


(私は、なんだかよく分からない化け物だ)


 ―海の様な青い髪、青い瞳。手に持つ黄金の槍から反響音が聞こえる。


「……シャオエン……始まりの唄(うたい)人魚」


「かき混ぜろ、『神の三叉』」


 そこにいたのはママの槍を受け継ぎ地上を求め姿を消した最強の唄(うたい)人魚。


 そして、神王の槍、『神の三叉』の穂先が回り凄まじい水流が私を押し流す。


 水流はどこまでも強く、水面を跳ね上げ、私は遠くに弾き飛ばされた。


「欲しいものがあるのなら、ちゃんと働け」


 そんな言葉を最後に受け取って。

登場する用語辞典

神の三叉 物語上に登場する神具の一つ。別称「三叉槍」。


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