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人魚大戦  作者: 鮭さん
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牛の国のサンフラワー③ none plus ultra

 船は和やかな雰囲気だ。


 乗組員達は酒や料理を手に会話に酔いしれ、腕に自信のある者は自前の楽器を手に音楽を奏でる。


「ねえシャオエン、乾杯の後一緒に歌わない?」


 サンフラワーがステージに誘ってきた。


「いや、歌うのは苦手だ。私は聞いている方がいい」


 そう答えるのが無難だろう。船の端で何者よりも狡猾と言われる人狼(ワーウルフ)が海を見つめている。


「フェン、どうしたのー?」


「サン様ー、海の中にね、俺より大きな肉咥えた奴がいたから『肉よこせ!』って叫んだら俺の肉も落としたのー」


 うむ、それは海に映った自分の姿だ。狡猾とはなんだろう。そして、隅の方では何者よりも貪欲と言われる蜥蜴男(リザードマン)が壁に向かって何かをしている。


「シゲミー、壁の隙間にサンドイッチ詰めちゃダメー」


「ヴァー」


 節制のつもりで保存食を準備していたのだろうか。貪欲とは一体。


「ロウゼキー、こっち来い!ソーセージくれてやる」


「カァーッ!」


「ひいっ!」


 そして二本足のタヌキのロウゼキは人間達に威嚇している。やはりあれもタヌキ人間……いや、あれはただのタヌキだ。どうやらサンフラワー以外には一切懐いていないようだ。


「みんな自由だな」


「いざと言う時は頼りになるんだよー」


「ところで気になったんだが、何故牛(ミノタウロス)は乗っていないんだ?」


 彼女はほんの少し瞬きをした。


「あー、牛の国の船なのにそうだよねー」


「言いたくない事か?」


「ううん、理由は単純。フェンやシゲミもだけど、獣人はオリアナ大陸への下船許可が降りないんだ。オリアナで彼等は『魔物』として扱われるから」


「つまらない理由だな」


「みんな雑だけどいい人達なんだよー、雑だけど。ぼんやり歩くから気を抜くとよく足を踏まれるけど」


 何よりも獰猛で血を求め闘い歩くと言われる牛獣人(ミノタウロス)。サンフラワーの目にはどう映っているんだろう。


「私はいつか、牛の国の住人達、ううん、ハーキュリアに住む色んな住人達が自由に世界を行き来出来ればって思う」


 それがたとえ人間と戦う事にになっても?


「それが私の、牛の国の王の娘の務めだから」


 彼女は幼い。だがその決意はこの先もずっと変わらないんだろう。


「あ、実はね、ボイラー室に一人だけ乗ってるんだけど訳ありで皆んなには内緒なんだ。シャオエンも黙っててね」


 まったくもう。


 私と一緒だ。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 そして船が陸地と陸地の間に差し掛かる時、一人の男が壇上に立った。私に散々悪態を付いていた口うるさい奴だ。

 サンフラワー達は私と同じテーブルでサンドイッチをもぐもぐ、シゲミは卵の殻をパリパリしている。


「さあさ、皆さまお立ち合い! 今から我々は『英雄の海峡』を抜ける!」


「いいぞギョフリー! やれやれー!」


 口うるさい男、ギョフリー・クレメンス(頑張って覚えた)が芝居掛かった調子で演説を続けると歓声が上がる。


「海峡の左右で我々を迎える二柱の石像! 皆々様から向かって右手に見えるは『北風の女神』、左手に見えるは『太陽の女神』。『英雄の海峡』が開かれて尚、二人の女神は我々に告げる。none(ノン) plus(プルス) ultra(ウルトラ)……ここが世界の行き止まり、ここより先は何もないと」


 海全体にうっすらと霧が出てきた。甲板の後方は視界がおぼろげだ。


「ここより先を押し通るならなら多大なる困難を覚悟せよと。そう、かつての人類の到達限界はここだった。だがそれも航海術が未熟だった頃の名残、今やここは航海時の観光名所。人類はその叡知と積み重ねでその困難を克服した! この新世界への入口『英雄の海峡』を抜け、人魚の住む『巨人の海』、そしてその先、そこは人狼(ワーウルフ)、蜥蜴男(リザードマン)、牛人間(ミノタウロス)、そして様々な獣人の住む新大陸ハーキュリアだ! 我々の大いなる旅路に!」


 一斉にグラスを掲げ歓声が上がる。


 そして一つのゆっくりとした拍手。皆が音のする後方を振り返る。


「フフ……フフフ……フフフフフフ!」


 モヤが掛かったそこに彼女は座っていた。


「none(ノン) plus(プルス) ultra(ウルトラ)……ここが世界の行き止まり、ここより先は何もない。とてもいい言葉。私はこの言葉が好き」


「おい、誰だあの別嬪さん」


「船に乗ってなかったよな?」


「ワシの娘にならんか?」


 彼女はグラスを傾け、中のワインを口に運ぶ。


「フフ、海の上で飲むワインって素敵。海の中じゃ塩味しかしないんだもの」


 隣のサンフラワーを見ると自分のほっぺをぐにぐにしている。よし、取り敢えず正気だ。これは夢じゃないぞ。私は首の後ろの髪留めに手を回す。


「ねえ、皆さん、貴方達の祖先は何故この海を世界の果てと定めたのかしら? 航海する術を持たなかったから? この先に陸地がある確信を持てなかったから? いいえ、彼らは無知でも愚かでもなく―」


 霧が晴れ皆彼女の下半身に息を飲む。


「ただ恐れたから……この海に住まう人魚を……かの大陸に住まう魔物達の群れを……」


 そこに足はなく、あるのは鱗に覆われた海を泳ぐ為のヒレ。


「人魚注意報じゃー!」


 エレ爺の叫び声が辺りにこだました。



登場する用語辞典

巨人の海 英雄の海峡を抜けた先に広がる大海。モデルは大西洋。

女神の石像 英雄の海峡の両サイドから船を見下ろす様に建てられている二体の石像。モデルはヘラクレスの柱。

ギョフリー・クレメンス 口の達者な水先案内人。モデルはサミュエル・クレメンス

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