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人魚大戦  作者: 鮭さん
31/35

黒の鬼④ 賢い獣

 庭にトカゲが5匹並んでいる。


「ヴァー」

「ブアア!」

「ヴ」

「ばー」

「ヴァー。へへー」


 一人は本物のシゲミ、残りの四人はシゲミの脱皮した皮を被った女王、サンフラワー、アストリア、そして私だ。

 気を失ったまま屋敷に運ばれたオータと呼ばれた鬼(オーガ)はワトソン、フェン、ロウゼキの二人と1匹に裏庭で身体を洗われている。


「ヴァー」

「少々やりすぎた、反省しておる」

「女王、これを着るのは今日だけです」

「正直あいつを追い出した方が早いんじゃないだろうか」

「私も行けば良かったなー」


 女王の過度なスキンシップで煙を吐いて倒れてしまったのだ。私たちはその原因の肌の露出を抑える為にシゲミの脱皮した皮を着ている。丁度口の部分から顔を覗かせる。中々上手く行かない。


「お前ら露出禁止ー!」


 なによりキヨサンとか言った角を生やした少女が怒りまくっている。ただの少女ではない。彼女はなんと英雄12の功績の一つ「ケリュネイアの鹿」そのものなのだ。

 彼女がオータに力を与え、あのとんでもないスピードを出していた立派な鹿娘なのだ。なので彼女を粗末に扱ってはいけない。


「だがずっとこのままと言う訳にも行かんぞ? 多少アイツにも慣れて貰わんと」


「禁止ったら禁止ー! ぴゃーーー!」


 その鹿娘がまた泣き出した。全て女王が悪い。


「お母様、提案があります!」


「言うてみい、サンフラワー」


「オーガさん、オータさん、オーガさん? が持っていたお米を美味しく炊いてあげましょう!」


 コメとは確か私たちが船に乗せていたものだ。あれは食べ物だったのか。成る程、なんの解決にもなってない気がするが私もサンフラワーの案に乗ろう。


「女王、私は人間を知る為に色々な食べ物を知らなければならない」


「うーん、試しに輸入したもんじゃがイマイチ、ウケは良くないの」


「そこでキヨサン!」


「ぴゃっ!」


「キヨサンは美味しいお米の炊き方を知っていますか!?」


「……知ってる」


「私に教えてください! 私が美味しく作って見せます!」


 さすがサンフラワー、キヨサンも早速懐に入れたぞ。


「……アストリア! 屋敷で一番でかい鍋を持ってこい!」


「持って来た」


「よし、そこに米と水を入れて蓋じゃ!」


「全部完了」


 アストリアのこう言う時は仕事が早い。


「えーっと、えーっと、まず、オータはお米を炊くときは躍り上がる程嬉しいって言ってた」


「輪になって踊れー!」


 女王の号令でトカゲ5匹と鹿娘1匹が手を繋いで鍋の周りを踊る。まるで悪辣な儀式の様だ。


「で、口癖の様にこう言ってた……はじめちょろちょろ中パッパ……」

「「「「はじめちょろちょろ中パッパ……」」」」

「ヴァー」


 私たちもキヨサンの呪文に続く。


「ジュージュー吹いたら火を引いて……」

「「「「ジュージュー吹いたら火を引いて……」」」」

「ヴァー」


「赤子泣いても蓋取るな……」

「「「「赤子泣いても蓋取るな……」」」」

「ヴァー!」


 サンフラワーが首にぶら下げた宝石が輝き出す。


「今の全部、『プロメテウス』!」


 サンフラワーの呪文はいつも雑なのに威力は凄い。いつもの様に私たちと鍋の周りを青い炎が包む。

 タイミング良くそこへツヤツヤになって綺麗になったオータが戻って来た。


「ぴゃーーー!」


「キヨサーン!」


 オータがキヨサンに駆け寄る。丁度サンフラワーの炎も止んだところだ。


「キヨべふっ!」


「アカゴナイテル! フタトルナ!」


 駆け寄るオータをシゲミが張り倒した。

 いや、多分蓋を開けようとしたんじゃないと思うぞ? 確かにキヨサンは泣いていたが。


「……キヨサン、もう蓋開けていい?」


「……いいよ」


 ほら、微妙な空気になったじゃないか。だがこんな事で我らがサンフラワーは負けない。


「オータさん! 宜しければ私たちで作りました! 炊き立てのお米です!」


 そう言ってかパッと蓋を開ける。モワッと蒸気があがり、中を覗けば真っ白い粒が並んでいた。


「……」


 正直もっと感動すると思ったが反応が薄い。


「キヨ」


「なんだ、オータ」


 オータはキヨサンを呼び寄せ耳打ちする。きっと通訳を頼んでいるのだろう。やがてキヨサンが詰まりながらも話し出す。


「牛の国の王よ、心遣い感謝する……行くあても、目的も無い身だ……多くは望まない……俺とキヨの食い扶持を保証するならば……この太田秋刀、お前に命を預ける……俺は国に捨てられた身、一度は死んだ身だ……好きに使って構わない……檸檬を絞ったら追放などと言わなければ……どれだけ破廉恥な格好をしようと構わない……」


 キヨサンが言い終わるとオータは目の前に自身の剣を置き、頭を深く下げる。きっとオータの生まれた国の最大限の礼儀なのだろう。


「……安い命じゃのう」


 オータはまだ顔を上げない。


「いいか、お前を国が捨てたのならその国を見返してやれ! その為に食い扶持程度じゃ返せない恩をこの国に売れ! ワシの目の黒い内はお前の恩にどこまでも報いてやる、返してやる! 牛の国は、意外と懐が深いぞ。そうじゃろ、サンフラワー?」


「はいっ! 檸檬絞り放題です!」


「……だそうだ。オータよ、まずはこいつの食い方を教えてくれ、皆んなで食おう」


 キヨサンが女王の言葉を伝えるとオータはガバッと顔を上げ―


「ふう、シゲミの皮は蒸すのう」

「ベッタベター」

「服が透ける」

「女王、私は温泉に入りたい」


 シゲミの衣を脱ぎ汗だくの私たちを見て再び口から煙を吐いて気絶した。


「ぴゃーーー!」


 キヨサンの泣き声がどこまでも木霊する。


 大丈夫、お米は冷めても美味しい食べ方があるらしい。オータが起きたら皆んなで食べよう。


 なにはともあれ一件落着だ。何か忘れている気がするが気のせいだろう。


「そう言えば、ワキンから預かった通信の神具はどうした?」


 それだ。うむ、後で掘り返しに行こう。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 ここは人間の国のとある街……だったもの。つい数刻前迄。


「お前は! お前は一体何の目的でこの街を!」


 怒りに震える目が俺を見る。最後までこの街を守ろうとする警官の鑑だ。


「そうだな、例え話をしよう。ある島で毒蛇たちに悩まされる人間たちがいた。悩んだ人間は賢い獣にお願いした。『毒蛇を狩ってくれ。お前の強い爪と牙で毒蛇を殺してくれ』と」


 一つの銃声が俺の心臓をぶちぬく。男はやり遂げたと言う顔をしている。


「……賢い獣は賢かった。賢い獣は毒蛇は殺さずに、その島の貴重な鳥たちを殺し始めた。毒蛇を殺せる力はある。でも、もっと楽に狩れる生き物がいる。それなのになぜ人間の為に危険を犯す必要がある?」


 その顔がみるみる絶望に染まる。そうだよな? お前の腕は確かだ。俺じゃ無きゃ殺せていた。


「お前言ったな? なんの為にこの街をと。……そう、何故なら俺も賢い獣だからだ。この大陸を全て自分のものにしたい人間がいる。この大陸の魔物を全て消したい人間がいる。その討伐にわざわざオリアナから俺を呼び寄せる人間がいる。でも、俺は危険を犯して強い魔物と闘うだろうか? そいつの為に」


 俺は警官の頭を掴み顔を引き寄せる。


「目の前に、この大陸で一番弱くてマヌケな獲物がいるのに」


 俺の背中から出る黒いモノ。


 それがアイツが最後に見た光景だ。


 最初の約束だけは守ってやる。


 牛の国にいる、この大陸で一番弱くてマヌケな獲物をまずは二匹……そうしたら……残り全部だ。


 そうすればハーキュリアとオリアナの大戦争が始まる。


 その時は、俺は別の場所でまた弱い獲物を狩りに行くさ。


 俺は、『最悪の魔物』だ。


 人魚大戦第5話 黒の鬼 了

多分マイムマ◯ムじゃないでしょうか。


これにて第5話終了です。

海の話⑤を挟んで第6話「始まりの唄人魚」と「誰でもない唄人魚」へ移行します。

6話で第一部「シャオエンと愉快な仲間たち編(仮)」終了、7話から12話が第二部「牛の国の攻防編」になります。

感想、評価等お待ちしてます。


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