黒の鬼③ 坊ちゃんと赤シャツ
本日2本目!
1000PV行きました!
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対峙する暑苦しい男ワトソンと黒の鬼。ワトソンが悠々とクラリネットで手をパンパン叩いている。
「ふむ、中々の気迫。その意気や良し!」
鬼は叫んだ後「間違えたかな?」って感じで首を傾げている。
「オリアナの怪物よ、この私の白シャツをお前の返り血で真っ赤に染めてくれよう」
ワトソンがクラリネットを片手に持ち構えた。意外にも様になっている。
「ワトソンはレイピアの達人」
アストリアの言うレイピアがなんの事だか分からないが、それなりの研鑽を積んできたのだろう。
鬼はそれを見てハッとすると剣を地面に置き、その辺から棒切れを拾ってきた。
「ほう、その剣は使わぬと。舐められたものですな」
そして鬼が丁寧に頭を下げる。
「い―」
ワトソンが声を掛けた瞬間、鬼の青色の靴が火花を放ち、既に勝負は決していた。
宙を舞うワトソンのクラリネット。
「ざっ!」
鬼はワトソンの遥か後方、手に持つ棒でワトソンのクラリネットを弾き飛ばした後だった。
「……これはいけない。クラリネットがすっぽ抜けてしまいました。どこに飛んで行きましたかな?」
ワトソンは自分が負けた事にすら気付いていない。女王が私たちの顔を見て問いただす。
「……お前ら見えたか?」
「足から火花が出たと思ったらもうそこにいた」
それしか分からなかった。まさに異形のスピードだ。
「ワトソンのクラリネットを下から跳ね上げた。なるべくワトソンが怪我しないように」
これが見えているアストリアも実際とんでもない。あの時はよく勝てたものだ。
鬼はクラリネットを拾って来てワトソンに渡し、またもや頭を下げる。
「おやおやこれはご丁寧に。では改めて参りましょう!」
ただ一人目の前の鬼の実力に気付いていないワトソンがまたも構える。
鬼は嬉しそうにまたも頭を下げる。今度はあの神速の足は使わない。ワトソンのクラリネットを上手に受け流している。
「ハハハ! 防戦一方では私に敵いませんぞ! そうです! 攻撃こそ最大の防御! 貴方中々筋が有りますよ!」
なんだか二人とも楽しそうに戦っている。なんだか腹立たしいな。
「おい、お前ら。あの二人に全力で石を投げろ。アストリアは鬼に、シャオエンはワトソンに。それもなるべく死角からだ」
何か試したい事があるのだろう。私もアストリアも女王の言う通り石を投げ、アストリアの石は鬼の木の棒で弾かれ、私の石はワトソンに命中する。
「!……伏兵とは卑怯な!」
すまない、それは私だ。ワトソンの苦情に鬼はまたしても首を傾げる。
「見たか? 鬼のヤツ、自然に防御しておきながら、石を投げられた事さえ気付いていない。まるで理不尽は常にそこにあるとでも言うかの様に。どの様な研鑽を積めばあの域に達するのだろうな」
研鑽? つまり目の前の怪物の剣捌きは野生のまま荒々しく襲っている訳ではなく、長い年月を掛け磨き上げた剣術だと言う事だろうか。
「だが坊ちゃん剣法じゃ。防御は神域ながら攻撃に嫌らしさも汚らしさもない優等生じゃ」
女王がニヤリと笑った。
「コイツはとんだ拾い物かも知れんのう」
「ゲゲッ! マズい! そこの二人今すぐデイジーを止めろ!」
不穏な気配を察して鳥男が私たちに命令する。
「遅い! ……ワトソンよ、交替じゃ」
女王の登場に鬼があからさまに動揺する。
「ミーノス王、御冗談を。まだ勝負は付いておりまぼら!」
ワトソンが頭を鷲掴みにされるとそのまま投げ飛ばされた。敵にも味方にも容赦ないな、この女王。
「お前は最初の一撃で既に負けておる。狙われたのがその笛でなく脳天だったらお前死んでおったぞ」
多分ワトソンには聞こえてない。目を回してのびているから。
「さてと、ワシの獲物はこれでいいかの」
先ほど鬼が投げ捨てた剣を拾うと鞘を残し剣本体を遠くに放り投げる。なんだろう、鬼はとてもやりづらそうだ。
「シャオエン、網を張れ」
女王は鬼に言葉が通じないのを見越し、まるで独り言の様に私に指示する。
「お前に剣は不要じゃ。正々堂々と行こうじゃないか」
言われた通りに『アマソーンの腰帯』で網を張る。成る程、剣を遠くに投げたのはまた網を切られない様にする為か。色々考えてるんだな、この女王。
「では始めようかの」
女王が、一歩鬼に近づくと、足元から火花を出し全力で逃げる。
「!!」
だが当然見えない布に引っ掛かり、それ以上は進めない。
「何故逃げる!」
女王が鬼に向かって行くと、更に足元から火花を起こし逃げては網に引っかかっていく。文字通り罠に掛かった獣の様にしっちゃかめっちゃかに網の中を暴れ回っていく。
「シャオエンよ! 網を少しづつ縮めよ! 鬼よ、ワシでは不服か?」
鬼は明らかに顔を背けている。目を閉じ、口をへの字に曲げ、女王を直視するのを拒む様に。それにしても分からない。普通に戦えば女王に勝ち目はないだろうに。
「なあ、なんでアイツはあんなに女王を嫌がっているんだ?」
「女王が嫌なんじゃない。鬼は多分、女性が苦手」
成る程。分からん。アンコウの人魚の様に捕まえてくっ付ける訳じゃあるまいに。
そうこうする内に網は限界迄縮まり、2人がもう密着する所迄来た。
「ホレホレ、もう逃がれる事は出来んぞ……捕まえた」
「うおおおおお!」
女王が鬼を抱きしめると、鬼は白目を剥き、口から煙を吐いて脱力する。鳥男がピーピーうるさいので木の板は地面に埋めた。
「まあ、しゃあないの。こう言う奴もいる」
女王は鬼から離れ頭をボリボリ掻く。不完全燃焼で不満顔だ。
と、鬼の服が膨らみ始め、中からモゾモゾっと何かが飛び出して来た。
「オータをいじめるなあ!」
「キ、キヨサン……」
それは褐色の角の生えた少女。キヨサンと言っていたからそれが名前だろう。
「卑怯者! お前がおっぱいを揺らすからオータが困ってるじゃないか! おせんべいやるから! うああああー!」
キヨサンが丸い板菓子の様なものを出し、ボロボロと泣き出した。鬼は煙を吐き続けている。
取り敢えず、コイツを縛り上げよう。
こうして鬼捕獲作戦は終わった。




