黒の鬼② 捕獲大作戦
すみません、5話のタイトル変更します!
前話のエピソードの引きで物語の順番を前後した方がいいとの判断です。
「そいつは鬼じゃの」
翌日、人間街襲撃の一報を受け広間で朝食がてらに女王が語る。広間にはサンフラワーと女王、アストリア、それに私だ。フェンはまだ直したばかりの犬小屋で寝ている。シゲミも表で日向ぼっこ、ロウゼキは先日散らばった木の実やメダルを集め直している。
なので朝食は私たちだけで簡単なものになる。トウモロコシの粉を固めたものに牛乳を掛けたものと小皿が数点だ。
「間違いなくオリアナの怪物じゃ。少なくともハーキュリアに鬼はおらん。見た事もない」
この朝食、一見質素に見えるが中々侮れない。サクサクのトウモロコシが牛乳に触れると柔らかく溶け、少しづつ甘みを出していく。
「お母様、鬼とは一体どんな生き物なんでしょうか」
アストリアは甘い木の汁を少量混ぜているようだが、それではトウモロコシ本来の甘味は味わえない。
「うむ、オリアナ大陸に時折現れると言う怪物。黄金の二本の角に漆黒の体、手には反った剣。人を襲い人を喰らう、人外の怪物。サンフラワーなどが現れたら丸焼きにされてしまうじゃろうな」
なにより牛の国の牛乳は新鮮だ。これだけでもご馳走と言えるのに、そこにトウモロコシが加われば幸せの五角形だ。
「積荷が襲われただけで人間に被害が出なかったのは幸いじゃ。被害を受けた行商の話では怪我人は無し、主に食料を奪われたとの事だからの」
更に小皿には木の実や干した果物迄ある。まさか、これも一緒に混ぜて牛乳に掛けろと言うのか!? アストリアが掛けた! そして私を見て頷く! お前を信じていいんだな!?
「お母様はそれが『最悪の魔物』と思いますか?」
……なんて事だ! 程よい酸味に香ばしさ、私が今まで食べていたものはなんだったと言うんだ!
「解らん。解らんが、被害が出た以上放って置く訳にもいかん」
サクサクとしたトウモロコシが前衛に立ち私の口撃を受け止めると果物が後方から援護射撃をしてくる!
「なにより食い物を狙って襲撃したのなら奴はまた出てくる可能性が高い。熊と一緒じゃ」
牛乳は全体にバフを掛け、とどめとばかりに香ばしい木の実が口の中で心地よい歯応えを醸し出す!
「まあ、ワシ一人でもなんとかなるとは思うが、武器を使うとなると厄介じゃの」
なんて事だ。トウモロコシ、牛乳、果物、木の実……これはまさに完璧な―
「パーティーだ……」
思わず言葉が漏れてしまった。それ程迄に素晴らしい。
「まあ、それが無難じゃの。シャオエンもそう思うか」
ん? なんの話だ? 全然話を聞いていなかった。
「お母様! 私たちがその『黒の鬼』を捕獲します!」
「女王、私は新しいピアノが欲しい。代金はワトソンが払う」
「ならアイツも連れてこい。何かしらの役に立つじゃろ。そうと決まれば善は急げじゃ! ワシがヒョロガリに捜索を依頼する! 居場所が割れたら捕獲作戦を開始する! 皆心して掛かれ!」
なんだか知らない間に話がまとまってしまった。どうも地上の食べ物に夢中になると話を疎かに聞いてしまう。これは改めなければならない。
「シャオエン頑張ろう!」
「あ、ああ、うん」
サンフラワーの呼びかけに曖昧な返事をする。それもこれも地上の食べ物が美味し過ぎるのがいけない。こっそり後でサンフラワーに詳しい話を聞こう。
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女王とあの鳥男にはなんらかの通信手段があるらしい。
数日は掛かると思っていたが、数刻も経たずにもう鬼の居場所が知れた。なので午後には早速捕獲作戦だ。住人の被害が出た以上捕獲は早い方が望ましい。
捕獲メンバーは女王、アストリア、私、そして、
「パスキャマラード! ミーノス王! この私に汚名返上の機会を賜り光栄の至り!」
先日屋敷で号泣していたワトソンとか言う暑苦しい男。今回サンフラワーはお留守番だ。鳥男に散々反対されたらしい。
「グゲゲ! いいか、お前もただ見張って周りに任せろ! 間違っても力試しをしようとかするなよ?」
「あー分かった分かった、そんなにワシが心配か?」
「ゲゲッ! ならさっさと大怪我して引退しちまえ! 俺の国で面倒を見てやるから!」
「ワキンは優しいのう」
「ゲッ!……」
女王が木の板の様な物を持ち、板からは鳥男の声が聞こえる。恐らくあれも神具か何かなのだろう。
程なく私たちは目的地に着く。
「ここで罠を張れ」
木の板から鳥男の指示が聞こえる。私たちは小高い木の根元に食事を置き遠くから見張る。サンフラワーお手製のサンドイッチだ。怪物にくれてやるのは惜しいが仕方がない。
少し待つと真っ黒な風貌の長身黒髪の男がやって来た。だが見た感じ角は生えていない。人違いではないだろうか。
男はサンドイッチを見つけると辺りを見渡す。クンクンとサンドイッチの匂いを嗅ぎ、安全だと判断すると一心不乱にむしゃぶりついた。
「今だやれ」
鳥男の合図に、私は罠を発動させる。
「逆巻け、『神の三叉』」
男の足元に網状に張った『アマソーンの腰帯』で、木の枝に吊し上げる様に見えない布を引いていく。
だが手応えがない。布は発動せず、男は何事もなかったかの様に尚もサンドイッチにむしゃぶりついている。
「あの男、今恐らくあなたの布を剣で切った」
アストリアの目には男が剣を振るった姿が見えていたのだろう。私には見えなかった。目にも止まらぬ早技とはこの様な事を言うのだろうか。しかも見えない布をだ。
「得体の知れない奴じゃのう」
「女王、ここは某にお任せください。オリアナの怪物はオリアナの人間が仕留めますゆえ」
暑苦しい男が気品たっぷりに言う。それなのに胡散臭い。きっとその風貌で色々損をしている男なのだろう。
サンドイッチを食べ終え、両手を合わせている漆黒の男に暑苦しい男が歩み寄る。
「やあやあオリアナの怪物よ! 我こそはオリアナの勇者、ウォーニー・ワトソン! ミーノス王の命を受け、お前を始末する!」
暑苦しい男がクラリネットを構えると、漆黒の男が反応する。
「ゥオ……ゥオニワ、ソト……? フ……」
漆黒の男に黄金の角が生え始める。今まで裸足だった足に青く稲光を纏う靴が浮かび上がる。間違いない、こいつが『黒の鬼』だ。
「フ……フクワウチ!」
何やらよく分からない異国の言葉を話し出す。
これは男の戦いだ。黙って見守るとしよう。
決して参加するのが面倒な訳じゃない。




