正義の青④ 初めての温泉
戦いが終わるとすぐ女王が戻って来て「座れ…」の一言で有無を言わさずみんな庭先に正座する事になる。
私やサンフラワーたち、アストリア、女王の後ろに着いて来た牛が3人、そして知らないおっさんが一人。
このおっさんは誰だ?
そして牛たちはカタカタ震えながら独り言を呟いている。
「お肉は嫌モー……」
「俺は美味しくないモー……」
「焼かないで……」
死刑宣告を待つかの様な3人。お前らは一体何をしたんだ。
「ワシは途中から見ていたが、遊びにしてはおイタが過ぎんかのう?」
転がったピアノの腰掛け上から見下ろす牛の国の女王の取り調べにサンフラワーが元気よく答える。
「はい! お母様の指示のお陰で、こんなにも庭がボロボロなのに誰も大怪我を負いませんでした!」
成る程、サンフラワーがあの石を使ったのは女王の指示だったのか。道理で手際がいいと思った。
「それは結構。で、サンフラワー、この始末をどう着けるつもりだ?」
それはそうだ。全焼こそ逃れたものの、木々は薙ぎ倒され、先代王を型どった銅像は引っこ抜かれ、物置き小屋、フェンの家、何から何まで滅茶苦茶なのだ。これで怒らない方がおかしい。
「それはですねえ―」
「すみませんでしたあ! うああああ! このウォーニー・ワトソンが目を離した隙にっ!」
言い訳を探すサンフラワーの横で謝りながら号泣しているおっさんが暑苦しい。
「ワトソンうるさい。サンフラワー様の話を遮らない」
「私がお前に停泊許可の先触れを頼んだばかりにいい!」
そう言えばそうだった。アストリアは船の停泊許可を貰いにこの屋敷迄きていたんだ。
「アストリア・レオーネとかいったの。おつかいも満足にこなせぬか」
「僭越ながら」
アストリアが女王に意見する。
「私はそこにいるシャオエンに戦いを挑まれましたので、牛の国の流儀に従いました」
まさかの私への流れ弾。
「はい! シャオエンが決闘を挑んだのでその場を提供しました!」
「うん、オレも見てた」
「ヴァー」
「キュー」
しかも私に全員責任を押し付けようとしている。いや、これは事実だ。決闘を挑んだのは私で庭で暴れたのも私だ。
「と、皆が言っておるがシャオエン。事実か?」
女王の背中にドス黒いオーラが見える。今日は私の命日だろう。
「はい、私がやりま―」
「我が国で弁償しますからあ! しますからあ! うあああああ! この『赤シャツ』ワトソンの名に賭けてええ!」
私の言葉を遮りこの暑苦しいおっさんが全面謝罪する。
どうしよう、この暑苦しいおっさんが格好良い。
「ふん。木や倒れた親父の銅像を元に戻せばそれでいい。当然お前たちも手伝ってくれるじゃろ?」
「「「はい! 勿論です!」」」
牛たちは声を揃え首をドナドナブンブン上下に振る。なんだか彼らが可哀想に見える。
「まあ、こんなもんかの。サンフラワー。何か言いたい事はあるか?」
「はい! お陰でアストリアさんと仲良くなれました」
「この子たち持ち帰っていいですか?」
「ダメじゃ……と言うかお前ら粉だらけじゃ。裏庭の水浴び場で汚れを落としてこい。少しぬるめじゃが、温泉もあるぞ」
「……温泉?」
温泉とは温泉か? ママが言ってたあの……
「どうしたのシャオエン?」
体ポカポカ、お肌スベスベとママが喜んでいたあの……
「サンフラワー! 今すぐ温泉に行こう!」
思わずサンフラワーの手を握る。どうしよう、これは楽しみで仕方がない。
「うん! アストリアさんも! 一緒に入りましょう!」
サンフラワーの差し出す手をアストリアが握り返す。その顔はいつもの無表情のまま。それでもその手はしっかりと握っていた。
「ミーノス王! 男湯はありますかああ!」
「ない!」
「うああああああー!」
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「温泉の水をいい感じに、『プロメテウス』」
いつもの様に青白い火柱が上がり温泉の水がお湯になっていく。
「「「せいや、そら、おー!」」」
「パスキャマラード!」
玄関の方ではおっさんと牛たちの張り上げる声が聞こえる。恐らく銅像を立て直しているのだろう。
そして私は服を脱ぎ初めての温泉に足を踏み入れる。
……ああ、これはダメだ。人をダメにする。
「水を、お湯にするだけでこんなにも変わるものなのか……」
海が全部お湯になればいいのに。心の底からそう思った。
ああ、いろんなものが体から漏れていく。
目の前にはサンフラワーとアストリアも温泉に浸かっている。
「アストリア、改めて言うが、私は元人魚だ。歌と引き換えに人間の足を貰った」
「シャオエン、私それ初めて聞いたかも……薄々そうかなとは思ってたけど」
そう言えばサンフラワーにも言ってなかった気がする。
「まずは私と言う元人魚を知って貰おうと思った……何も知らないならまずは私をと……だから今話した」
「後悔はしてない?」
アストリアがそんな質問をする。きっと自分に重ね合わせているのだろう。
「分からない。でも、地上に出て経験する新しい事が私には楽しい。今も温泉と言うものに出会えた。きっと私は果報者だ」
「そう、良かった。シャオエン、少しあなたが羨ましい」
アストリアが力を手に入れたのは復讐の為だ。きっと楽しむ事すら否定して来たのだろう。
そんなアストリアにサンフラワーが後ろから抱きつく。
「楽しみましょう! 私たちと今こうしてる事は嫌ですか?」
「…嫌じゃない」
「でしょ、それでいいんです! ねえ、アストリアさんは何かやりたい事はないですか?」
「一つだけある」
「それは?」
「今はあなたたち二人と、クレープを作りたい」
そう言うとアストリアはほんの少し微笑んだ。
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私たちは庭でクレープを作る。トウモロコシの粉をかき混ぜたり、生クリームを作ったり。サンフラワーは生地を焼く気満々だ。
私の横でアストリアが生クリームを作りながら私に聞く。
「一つだけ聞かせて」
「なんだ?」
「人魚が今の様な力を持ったのはここ10年と言われている。私の船が襲われたのもその頃。何か心当たりはある?」
それは間違いなくあれだ。
「心当たりと言うか、原因は一つだな」
「何?」
「人魚が力を持ったのは……『人間の歌』を覚えたから」
一人の人魚が、一人の人間に出会ったからだ。
人魚大戦第4話 正義の青 了
これにて第4話終了です!
閑話 海の底の話④を挟み第5話「始まりの唄人魚」に移行します!
感想、評価など頂けたら嬉しいです。
読んでくださりありがとうございます、
追記 5話タイトルを「始まりの唄人魚」から「黒の鬼」に変更しました。




