閑話 みんな大好き粉塵爆発
肩の力を抜いて作りました。
肩の力を抜いて読んでください。
若い世代の牛さんは訛りが少ない牛さんも結構います。
俺の名はボルガン。牛の国でトウモロコシの粉を販売している牛獣人。
そしてなにより粉塵爆発を愛するナイスガイだ。
「いいかボルガン、俺たち製粉業者は何よりも火を恐れにゃならん。粉は燃える、とんでもなく燃える。ホンの種火で大爆発じゃ。だからこれを見て粉塵爆発の恐ろしさを学ぶんじゃ」
親父はそう言って粉の量を調整した爆発を俺に見せてくれた。
「芸術だ……」
俺は恐ろしさより、その炎の美しさに心を持っていかれた。
そして俺は傷んだり廃棄になったトウモロコシの粉を貰っては、日々粉塵爆発に明け暮れた。
え? 生き方を反省しろって? おいおい、反芻なら毎日してるぜ?
爆発に最適な粉の量、密閉空間の威力。
その研究の成果を活かしてデイジー様に挑んだ事もあったっけ。
「(爆発で)いつもの2倍のジャンプ力! (爆発で)いつもの2倍の回転! (爆発で)いつもの3倍の突進力を加えれば―」
「こんの、セルフバーベキューがぁ!」
「ギエー!」
全く歯が立たなかったよ。ありゃあ、人間にしとくには惜しい女だ。
まあ、そんなこんなで今日もトウモロコシの粉を売りながら裏では粉塵爆発の研究に勤しむ。
それが俺、ボルガンだ。
ある日の事、デイジー様の一人娘サンフラワー様から注文が入った。
サンフラワー様と言えば、ついこないだデイジー様に決闘を申し込み、ハンデを貰ったとは言え見事勝利した。
俺も客席で試合を観ていたがあれは燃えたね。
一緒にいた青い髪の人間の女が見えない布を使ってデイジー様をぐるぐる巻きにしたんだ。
その時に使っていた槍。恐らく何かの神具なんだろうが、あれは撹拌に最適だ!
そう思ったらついサービスしたくなってね、リヤカーにトウモロコシの粉を山盛りに乗せたはいいが動かせない。
どうしたものかと悩んでいると、そこにとんでもない女が現れた。
お屋敷までの道を教える代わりにこの荷駄を運んでくれると言う。そしてそいつは本当にそれをやり遂げた。
人間の姿をしていながら、縦に伸びた肉食獣の瞳に粉の山を軽々と運ぶ無尽蔵の力。
驚いた。あいつは『ネメアの獅子』の功績持ちだ。
英雄の功績。このハーキュリア大陸に生まれた者に与えられる加護。
これは様々な形で与えられる。
例えば俺たち牛獣人は『クレータの牛』の末裔と言われ全ての牛がその加護を持っている。
鳥の国の一族も同様だ。
他にも力のみを授かり生まれて来たりする者もいれば、英雄と対峙した神話の時代の生き物がそのまま下天するケースもある。
遠い昔には複数の功績を重ね掛けして生まれた奴もいたそうだ。
だからあの女を見た時はビビったさ。
ハーキュリアに生まれた者に与えられる加護。それを『人間』が所持しているんだせ?
つまりこの先、今まで俺たち獣人のみが所持していた加護が、ハーキュリアで生まれた人間にも与えられるって事だ。
実際そんな奴が既に何人もいるんだろう。
大陸の北の方には人間だけの国がチラホラあるんだからな。
すると俺の店に牛が一人血相を変えて飛び込んできた。
「おい、ボルガン! デイジー様の屋敷でお前のトウモロコシを運んだ女が喧嘩を始めたぞ!」
なんてこった! 闘技場で見たあの青い髪の女があの槍を使って喧嘩したら辺り一中粉だらけになるじゃないか!
そんなの絶対大爆発だよ!
見なきゃ絶対後悔する。これは野次馬に行かなきゃならない!
牛だけど野次馬!
屋敷の近くに来るとパン屋のオイゲン、砂糖菓子屋のバッカスもいる。愛すべき粉塵爆発仲間だ。
俺たちは爆発に巻き込まれず、尚且つ屋敷の中が良く見える時計台に登り戦況を見つめる。
屋敷の二階ではサンフラワー様と護衛の二人が見守っている。
そして先程道を聞いてきた女と闘技場にいた女の二人が戦っていた。既に庭はボロボロ。あまりに激しい戦いに息を飲みながらも俺たちはある期待に胸を膨らませる。
そして青い髪の女がリヤカーの上に登るとその時はやってきた。
「かき混ぜろ、『神の三叉』」
青い髪の女が槍を使いトウモロコシの粉を撹拌する。俺たちは大興奮だ。
「やったぜ、屋敷がトウモロコシの粉で真っ白だ!」
「焼けー!! 焼けー!!」
「神具使いと功績持ちの闘い! そして粉塵爆発! こいつは堪らねえ!」
「ほう、功績持ちとな。あのピアノ女はなんの功績かは分かるかのう?」
いつの間にか増えた野次馬が俺に話しかける。
「『ネメアの獅子』さ! あの肉食獣の瞳と、無双の剛力! 俺の見立てに間違いはないね!」
「ワシとどっちが強いかのう?」
聞き覚えのある声に振り向くとそこに女王様が立っていた。
「デ、デイジー様!」
「全くあのひまわり頭は一体何をやっとるんじゃ」
まずい! 爆発が見たくて野次馬をしてたなんて知られたら俺たちはデイジー様の晩御飯として食卓に上る!
「女王様! 今舞い上がる煙はトウモロコシの粉です! 万が一に火が着けば大爆発を起こし大変危険です! 今すぐサンフラワー様に避難を!」
頑張れ俺! 俺たちは爆発が見たくて眺めてたんじゃない! 爆発を心配して眺めていたんだ! そう、女王に信じて貰わなければ!
「焼けー! 焼けー!」
オイゲン、うるさい! こっちを見ろバカ!
「まあよい。今の話が本当ならお前らの事は後じゃ……おい、フェン。ワシの声が聞こえたらこっちを見ろ。よし、聞こえるな。ならば今から言う事をサンフラワーに伝えろ」
女王はボソボソと屋敷の護衛に話しかける。俺は護衛の耳の鋭さに驚き、更に女王の下した指示に耳を疑う。
やがて話を終えると女王は俺たちにこう言う。
「お前ら爆発が観たいんじゃろ? よく観ておれ。面白い物が観れるぞ」
信じられない……でも、今言った事が本当なら死んでも見たい!
やがて戦いの決着が迫る。空から一筋の槍が降ってくる。
「今じゃ」
槍が銅像と接触し火花を起こす。
次の瞬間大爆発が起きる。
だが起きる筈の火球も爆風も起きない。
それどころか炎の壁が屋敷を取り囲み、長方形真っ直ぐに青い炎が巻き上がる。
まるで「これが本物の炎だ」と言わんばかりに。
あの時女王はこう言った。
「その煙は火が着けば大爆発を起こす。だからもし火が着いたなら、お前の炎で上書きしろ」
それはきっとサンフラワー様に言ったに違いない。あのお嬢にこんな力があるなんて。
俺たちが今までやって来た事って一体……
呆然と眺める俺たちを尻目に女王はこう言い放った。
「さて、後始末をせんといかんのう」
炎は垂直に登り続ける。俺はオイゲンとバッカスに今の率直な想いを伝える。
「俺、今日で粉塵爆発卒業するよ……」
親父、俺は今日、炎の恐ろしさを初めて知ったよ。
みんなで粉塵爆発の蘊蓄を楽しく語る話にする筈だったのにどうしてこうなった……




