↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚大戦  作者: 鮭さん
20/33

第4話 正義の青① 地上の北極星

今回は不快なシーンが有ります。

閲覧する方はご注意ください。

 オリアナ大陸とハーキュリア大陸を往復する旅客船『ノースポール号』。


 ある者は新天地での希望を求め、またある者は新しい商売の販路を求め、そしてある者は人に手(・)付(・)か(・)ず(・)の土地を求めハーキュリアを目指していた。


 私の家族もそのうちの一組だった。


 オリアナでの凶作の傷も癒えぬまま、わずかな土地を頼りに一生を終えるなら、ハーキュリアに出来た新しい国の小さな村を治めてみないかと言う叔父からの提案に父は乗り、家族共々移り住む事になった。



 この時代、どこにでもある話だ。



「アストリア、君のそのサファイアの瞳。それは『正義の青』と言うものだよ」


 いつも片眼鏡を掛けていた叔父はオリアナにいた頃私の家庭教師もしていた博識な人間だ。


「正義とは動かざる者の事だ」


 その叔父が私の為に文献を漁り、長い時間を掛けて一つの答えに辿り着いた。


「空に極星有り。星々はその周りを巡る」


 私には生まれながらに与えられた加護がある。


「地に天秤有り。人々はその周りを巡る」


 どの様な力かは分からない。でも、叔父の話から察すれば、どうやらそれは人々を治める力らしい。


「分かるかい? 正義の天秤を持つ者は決して動かない。何故なら世界の中心にいるからね」


 人々の中心に立つ力らしい。


「君はやがて、多くの人間をまとめ、その頂きに立つだろう。その為に我が弟、君のお父さんを説得したんだよ? 若い国の多いハーキュリアなら王にだってなれる」


 正直叔父さんの話は私にはどこか別の世界の様に聞こえる。


「何度でも言うよ。君の瞳は美しい。アストリア・リベルタス」


 でも、私の瞳を褒められるのは嬉しい。


 特別な力なんて無くたって、私の宝石の様な瞳は大事な宝物なのだから。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


「ハハハ! 難しくて解らん!」


 船の中の子供たちだけが集まる部屋で彼女は笑う。

 この船に乗って出来た同じ年の友達。


「でも、君が天秤をかざすのなら私はその王の持つ剣になろう!」


 彼女の名前はレオナ。彼女の家族も私たちと同じ様に新天地を求めこの船に乗って来た騎士の家の子。

 彼女は私と違い、幼少の頃から剣技に明け暮れていたらしい。


「いいか、皆の者! 今から我が王がお前たちの為にピアノを弾く! こころして聞くがよい!」


 レオナの事は殆ど知らない。好きな食べ物も、好きな色も。でも、一緒にいると楽しい。彼女といると私まで明るくなれる気がする。

 なにより船の中では子供たちの面倒を見る人気者だ。


「わーい!」

「ねえねえ、お星さまの曲弾いて!」

「フォレストの新曲は知ってる?」


 子供たちが船の中で退屈しない様に本や玩具が置いてある。


 そして、一台のピアノも。


 私は子供たちに声を掛ける。


「……みんな一緒に歌う?」


「「「わーい!」」」


 そして私のピアノでみんなが歌う。


 退屈な船の楽しいひと時。


 ここは、一筋の希望にすがり、故郷を捨て新大陸に夢を馳せる者たちの船。


 だから私はピアノを弾く。


 せめてこれからの不安をひと時でも忘れられる様に。




 その、子どもたちの歌声に奇妙な歌声が交じる。




 人ならざる者と分かる恐ろしい声。


 それなのに、聞かずにはいられないとても美しい声。


「「「きゃー!」」」


 衝撃と共に船が大きく揺れた。


「みんな大丈夫!?」


 レオナが皆んなに声を掛ける。


「アストリア、君は子供たちを頼む!」


 怪我をしている子がいないのを確かめ大人たちを呼びに外に出て行った。


「私も―」


 レオナの後を追って外の様子を見に行こうとすると、部屋の外から大人たちに止められる。


「どうやら貨物船と接触したらしい。怪我をした子がいないなら君たちはここで待っていなさい。親が迎えに来た時にはぐれるといけない」


「でもレオナが!」


「いいからここで待つんだ」


 そう言うと、部屋の外から鍵を掛け、私たちに待機を命じる。


 嘘だ。


 だって確かに聞いたもの。


 あれは人魚の歌声。


 ……外はどうなっているんだろう。レオナはなんで戻って来ないんだろう。父さんと母さん、それに叔父さんは?


 銃声のような音も聞こえる。


 私は怖くなって耳を塞いだ。



 長い時間の後、子供部屋のドアが開く。


「パパ、ママ!」


 子供たちの両親が入って来た。


 酷い怪我をしている人もいる。それでも、子供たちの前では精一杯に笑顔を見せる。


「さあ、私の坊や。ここで救助船が来るのを待ちましょうね」


 少し遅れてレオナが戻って来た。顔に殴られた様な痕が見える。


「レオナ、その顔!」


 それでも彼女はケラケラと笑う。


「なあ、アストリア。君はやがて王になるんだろ? ならばお願いがあるんだ」


 そう言って横に座り私の手を握る。


「私を君の剣にさせて欲しい。せめて最後の一時だけでも君を守りたい」


 それって……


「この船は沈む。私は父の様に騎士として死にたい」


 彼女はケラケラと笑う。


「私は……」


 船が大きく傾く。


 程なく子供部屋が浸水していく。


 嫌だ。暗い。冷たい。苦しい。


 私はここにいる皆んなを助けたい。


 皆んなとまだ一緒に生きたい。


 レオナと一緒にいたい!


 ……


 ……


 海に沈んだ子供部屋の中がほのかに光る。


 海水で満たされた部屋の中に数十の小さな星が浮かんでいた。


 ほのかに光るのは星の光だ。


 その星たちはレオナを抱きしめた私を中心にゆっくりと周る。


「これは、なに?」


 その星たちに触れると一瞬に様々な記憶が私に入って来る。


 海上に現れた黒く大きな獣の様な手がこの船を襲う光景。


 我先にと限られた救命ボートに乗り込む船乗りたち。


 銃を手に力をかざし自分だけが助かろうとする貴族たちと銃に撃たれる私の両親。


 抗議するレオナを殴りまだ余裕のあるボートに乗り込む片眼鏡の男。


 私の心は崩れ落ちる。


 私が声にならない叫び声を上げた時、上も下も、過去も未来も、光も闇もない空間。


 私は突然そこへ放り込まれた。


「私の事を呼んだかい?」


 扉の様なものが開き、その老婆はゆっくりと入ってくる。


「あなたは誰?」


「そうさね、私の事は魔女―『ハーキュリアの魔女』とお呼び」


登場人物辞典

アストリア・リベルタス 生まれながらに『正義の青』と言う加護を持つ少女。その力は両目のサファイアの瞳に宿る。名前の由来は女神アストライアーより。

正義の青 世界の中心にい続けると言われる加護。別名「王の天秤」。能力は智の集積であり、集積された智は星の様に加護の所持者の周りを巡る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。