閑話 海の底の話③
「ママ大丈夫?」
「死んじゃわない?」
「死ぬ? すぐに死ぬ?」
「ママ、最期に食べたいものはある?」
子供たちが心配そうに私を覗きこむ。
先日久々に牛の王の所に挨拶に行った。引退して次代の者に王位を譲るとの事なのでその労いも兼ねてだ。
牛の王の屋敷の裏庭には私専用の池が有り、近くの川迄泳いで行けば牛の王が「さかなのーー!!」と出迎えてくれる。
後から鳥の王もやって来て、夜遅くまで昔話に花が咲いた。楽しいひと時を過ごさせて貰ったよ。
問題はね、会いに行く時はそれなりに見栄を張らなきゃいけない。
人魚はいつまでも若く美しく。
アイツらの夢を壊したくないだろ?
だから私は力を使う。
その反動がこれさ。年は取るもんじゃないね。若作りした後はいつも暫く動けない。
ホンの200年程若返らせるだけなのに困ったもんだね。
「ママ死なないでー」
「お前たちの成長した姿を見る迄死ぬ訳にはいかないよ」
この子は相変わらず泣き虫だね。私はニケの髪を優しく撫でる。
「ママをこんなにくたびれさせて! リカが牛の王に文句言って来る!」
この子はいつも後ろ脚をブンブン振り回す。この前はサメを退治していたね。
「リカのハイキックでノタノタにするんだから!」
「およしよ、オリカオルカ。古馴染みだ」
それに彼らは英雄12の功績の一つ、『クレーテーの牛』の末裔たち。数少ない仲間だ、大事にしなきゃならない。
「見栄なんか張らなきゃいいのに。ママがヨボヨボでも友達なら喜んでくれるのよ?」
アプリコットはどんどん弁が立ってきた。でもね。
「人魚が見栄を張らなくなったらお仕舞いさ」
私を言い負かすには100年早いよ。矜持を知るにはまだまだ年を取らなきゃね。
そして問題児。
シャオエンがいつも通り目をキラキラさせながらやってくる。この子は好奇心の固まりだ。
「あのねあのね、海の底にね、岩の割れ目からピンク色の煙が出てる所があるの」
ほう、それで?
「ママ温泉行きたいって言ってた」
うん、それで?
「ママをそこにぶちこめば元気になるんじゃないかな」
「うん、それは温泉じゃない、海底火山だね」
「ママ元気にならない?」
「うん、多分死ぬね」
シャオエンがガックリ肩を落とす。
「岩の割れ目にママを頭から挟めようと思ったのにー」
私を燻製かなにかにするつもりかね。
この子たちにはちゃんとした知識を与えなきゃいけない。さて、今から授業を始めようかね。
「いいかい、お前たち。温泉はいいものだよ」
「「「「おんせんはいいもの」」」」
私の言葉を復唱する子どもたち。全くなんて可愛いんだろう。
「温泉に浸かりながらお酒も美味しい」
「「「「おさけおいしい」」」」
「海の水とは違って体がポカポカになる」
「「「「からだぽかぽか」」」」
「お肌もスベスベになる」
「「「「うそ、わたしこんなにきれい」」」」
「体から不思議な力が湧いて来る」
「「「「これがわたしにひめられたちからっ」」」」
「そこに皆んなで種族の分け隔てなく入るのさ。そうすれば皆んな仲良くなれる」
「「「「きゃー、えっち。ここはおんなゆよ」」」」
……どこでこんな言葉を覚えたんだろうね。
まあいいさ。遠く迄行ける位大きくなったらこの子たちも牛の国に連れて行こう。
牛の国の屋敷の裏庭にある池、温度は低めだがあれも立派な温泉だ。
あそこに浸かると力が増幅する気がする。
ハーキュリアの地脈は竜の棲家と言われている。
恐らくはそのせいなんだろうね。
その為にまずは身体を整えないとね。
「「「「べつにあんたとこんよくをきたいしたわけじゃないんだからねっ」」」」
……誰かこいつらに仕込んでる奴がいるね。
心当たりは一人しかいないけど。




