ネメアの獅子⑤ 強さと正しさ
気を抜くとシゲミやロウゼキの霊圧が消えるのをなんとかせねば。
ちゃんといます。
書ききれなくてすみません。
「姿を成せ、『神の三叉』」
髪留めに手を当て槍本来の形を顕現させる。
いきなりケンカを始めると言うのだ。サンフラワーもさぞや慌ててるだろうと思いきや、帰って来た答えは意外だった。
「ねえ、シャオエン、これは正式な決闘でいいのかな? ……止めると思った? ここは牛の国だよ? 意見の対立があれば力でねじ伏せろ。私もお母様にそうしたでしょ?」
そう言えばそうだったな。要するに気の済む迄やれと。話が速くて助かる。
「ああ、構わない」
「だそうです。レオーネさん、この勝負受けますか?」
「私には理由がない」
「理由ならあるぞ。私はお前が気に食わない」
私がそいつ―アストリアを挑発すると、
「そんな理由でいいなら―」
アストリアは先ほどまで弾いていたピアノに向かい手を添えると、ピアノの足を掴み軽々と持ち上げる。
「私も最初に会った時からアナタが気に食わない……アナタは人? それとも人魚?」
私を見つめるアストリアの瞳はサメの様に縦に伸びている。
やる気満々じゃないか。
「私に勝ったら教えてやる」
こうして、私とアストリアの決闘が始まる。
「大丈夫! 怪我しそうになったら私たちが止めるから!」
一番の不安の種を残して。
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屋敷の庭のまん真ん中。
私とアストリアが距離を取り向かい合う。
「アナタを、泡沫に帰す」
「人魚が泡になるなんて聞いた事がない」
サンフラワー達は被害が及ばぬ様に屋敷の2階から眺めている。
「二人とも大きな怪我しないでねー! それじゃあよーい、始め!」
その言葉と同時にアストリアが前傾姿勢で突っ込んで来る。
「逆巻け、『神の三叉』」
私は予め庭の木の頂上に這わせた『アマソーンの腰帯』を手繰り上空に逃げる。
アストリアはブレーキを掛ける様にピアノを大きく振りかぶり地面に打ちつける。
「ああ、俺の家!」
その勢いでフェンの犬小屋が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「……甘い」
アストリアはピアノを打ちつけた反動そのままに反転すると、私が頂上にいる庭の木を薙ぎ倒す。
「キュー!」
木の穴から大量のドングリやらメダルやらが出て来た。ここはロウゼキの巣だったのか。
「そこ」
更に私が飛び移った物置き小屋を破壊する。
「ヴァー! ヴァー!」
物置き小屋からは農具やらなにやらと一緒にシゲミの脱皮した皮も大量に飛散していく。
私は今屋敷の屋根の上。
「アナタが上に逃げるなら、逃げ場が無くなる迄全て叩き潰す。その屋敷も例外じゃない」
「……それは困るな」
私は屋根から玄関のリヤカーに飛び移る。私にはお前なんかより女王の方が数倍は怖いのだから。
ああ、それにしても本当に腹が立つ。
「もう上には逃げないの?」
人魚にもいた。
相手のことを知りもせずに人間など全て滅んでしまえばいいと言っていたバカな奴が。
「ああ、このまま屋敷を破壊されるのは敵わない」
アイツを見てるとそれを思い出す。それが本当に腹立たしい。
「ならばそのリヤカーから降りて来て」
そして、戦っていて分かったが、コイツは回避も防御も一切しない。
「それともリヤカーごと叩き潰される?」
ただ真っ直ぐに私に向かってくる。
まるで命を投げ打つ様に。
「いや、私はここでいい」
当たり前だが、普段こんな戦い方はしないだろう。それこそいくつ命があっても足りない。
つまり私をナメている。
「トウモロコシの袋が大量にあるここがいい」
その油断が命取りだ。
「かき混ぜろ、『神の三叉』」
私はトウモロコシの粉袋に『神の三叉』を当てて一気にかき混ぜる。
白い粉塵が一気に舞いアストリアの視界を奪う。
そして『アマソーンの腰帯』を蜘蛛の巣の様に張り巡らせ、アストリアを四方八方から拘束していく。
武器にしていたピアノも網に掛かった。これでアストリアに勝ち目はない。
その筈だった。
「あなたたちのやりたい事は解る……みんなが等しく仲良く出来れば、それはきっと素敵な事だと思う。うん、それはきっと、とても正しい事だと思う」
朧げな視界の中、異音がする。
「でも、それじゃあ、船と一緒に沈んだ人たちの魂はどこに行くの?」
何かを根本から引っこ抜く様な音、木々の倒れる音、そしてそれらを引き摺る様な音。
……蜘蛛の巣を支えごと引きずってるのか。
「私は、正しさを捨てて力を手に入れた」
視界が晴れてくれば、根本より引き抜かれた木々や銅像、そしてピアノの全てを引きずりながら私の元へ歩いてくるアストリアが見える。
「力の名は『ネメアの獅子』。英雄12の功績の一つ」
参ったな。こいつは、とんだ化け物だ。
「私は正義など……いらない」
人魚大戦 第3話 ネメアの獅子 了
アストリアの異名 『ピアノ使い捨て女』『ピアノの破壊者』『ピアノ業者の手先』
大体一度の戦闘で一つのピアノを駄目にします。
これにて第3話終了です。
海の底の話③を挟んでアストリア編後半、第4話『正義の青』に移行します。
1話5エピソード、海の底の話1、閑話が入ったり入らなかったりのルーティンで行こうとは思ってます。なるべく一話毎のボリュームを均等にしていきたいです。
感想や評価等頂けたら嬉しいです。




