ネメアの獅子④ トラブル禁止!
川での呼びかけと戦闘を終え屋敷に戻ると玄関の前に牛乳と大量の袋の詰まれたリヤカー。
「あー、届いてるー」
どうやらサンフラワーの注文らしい。
「サンフラワー、これはなんだ?」
「へへー、トウモロコシの粉。今度はねー、クレープを焼いて作ろうと思うんだ」
「料理は禁止だと言った筈だが」
「フルーツ何入れようかなー」
話を聞け。
「いいかサンフラワー、牛の王が不在の今、トラブルになりそうな事は慎め」
「ジャムは酸っぱい方がいいなー」
ダメだ、頭の中がクレープのお花畑だ。
そんなクレープに想いを馳せるサンフラワーの横でフェンが鼻をクンクンさせている。
「ねえ、サン様、中に誰かいる。人間。知らない匂い」
配達の業者ならフェンもそれなりに面識があるだろう。
「不審者か?」
「俺見て来る?」
仮に人間ならば獣人のフェンやシゲミが出て刺激させるより、まだ私が見に行った方がいいのかもしれない。
「まあ、何かあったら私の『プロメテウス』で―」
サンフラワーが赤い宝石を取り出したので、それを制し、
「私が見に行く。サンフラワー、ちょっとここで待っていてくれ。少し様子を見てくる。いいか、くれぐれもそいつを使おうとするなよ? 絶対にだ」
何故そんなにそれを使いたがる。屋敷を炎上させたいのか。
玄関を開けるとピアノの音が聞こえてくる。
そこには、屋敷にあるピアノを奏でる一人の女性。
私の存在に気付くと演奏を止め、感情のない瞳を向けてこう言った。
「……あなた、誰?」
いや、お前が誰だ。
「シャオエン、誰かいたー?」
まあ、敵意や害意は無さそうだ。サンフラワーもいきなりあれをぶっ放す事もないだろう。
ここはサンフラワーに話を任せよう。
「問題ない、ただの不審者だ」
私は外にいるみんなを呼び掛ける。
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「あなたがあの袋運んでくれたんだー」
なんでも、船が人魚の襲撃に遭い、退けたもののそこそこの被害を出したらしい。
「私の名前はアストリア・レオーネ。船でピアノを弾いてた」
船の修繕の為に港の空いている所を貸して欲しいとの事だ。後程正式に船の方から話が来るらしい。
トウモロコシの粉袋は市場で道を聞いたお礼のついでに運んで来たらしい。
恐らくそんな事を言っている。口数が少ないので多少の意訳はあるが間違ってもいないだろう。
でもあのリヤカー、いわゆる牛獣人用だぞ? そこに詰まれた山の様なトウモロコシの袋。
「私、力、強い」
なぜカタコトに。
「解りました! レオーネさん、細かい話は母が戻って来たら任せるので取り敢えずゆっくりして行ってください!」
こっちも丸投げか。
まあ、牛の女王の不在の間トラブルは避けたい。話が無難に終わるならそれが一番だ。下手に拗れて国同士の問題になったら敵わないしな。
それにしても疲れたな。女王不在の間、サンフラワーにトラブルを起こさせない様にする事のなんと大変な事か。
早く女王に戻って来て欲しい。
「ありがとう……お礼の代わりに、私たちがいる間、港に近づいて来た人魚は私が全て駆除する」
……
……今なんて言った?
「人魚は一人も生かしてはおかない」
「それなら大丈夫ですよ、レオーネさん。我が国は、人魚との融和を模索している段階です。だから、もし人魚を見つけても、戦わないで仲良くしていきましょう」
「人魚と……仲良く? 正気?」
「はい! 人魚の中にもいい人魚は必ずいますから! だからそう言った人魚達と―」
「いい人魚などいない」
あざけるわけでも無く、憤慨する訳でもない。
こいつは無表情に、それが当然かの様に言い放つ。
今は女王が不在だ。トラブルを起こす訳にはいかない。
だからなるべく言葉を選ぶ。
「いい人魚もいるぞ? そしてロクでもない人魚も。それは人間と一緒だ」
「……」
コイツは今確かにこう呟いた。『人間と人魚が同じものか』と。
まあ、仕方ないかも知れない。
「……なあ、一つ質問なんだが」
あいつらは今までそれだけやらかして来たんだ。
「仮に、一人の人魚が取り返しのつかない事をしたとする」
人間の事など知りもせずに。
だから逆に聞くぞ。
「その償いに、全ての人魚が滅ぶべきだろうか?」
お前が人魚の何を知っているんだ。
そしてコイツはやはり無表情のまま私の質問に答えた。
「……そうなるべきだと思う」
ある意味予想通りだ。
多分私とコイツは分かち合えない。ならば取るべき道は一つ。
「お前の考えはよく解った。私の名前はシャオエン。アストリア・レオーネとか言ったな。表へ出ろ」
トラブル? 知った事か。
用語解説
トウモロコシの粉 良く燃える。何かのフラグにならなければいいなと思います。




