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人魚大戦  作者: 鮭さん
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ネメアの獅子② 白熊一匹分の牙

プロットの段階では薩摩系だったのに、いざ書いてみたら脳筋女王とキャラが被り過ぎて今の形になりましたアストリアさん。

 ピアノの重量を知っているだろうか。


 形や大きさにもよるが、識者はだいたい口を揃える。


「だいたい白熊一匹分ですな」と。


 白熊とは遥か北、太陽の登らぬ、または沈まぬ地に棲む生き物であり、その強さはオリアナの魔物達に引けを取らない。アザラシが大好きだ。


 いや、今は白熊の話はどうでもいい。


 私は何を話しているんだ。


 つまり、今私の目の前にいる彼女は片手で白熊程の重量もあるピアノを振り回している。


 あり得ない。果たして目の前にいる彼女は人か? 化け物か?


「私は『未確認飛行の人魚』! そんなもので止められるものか!」


 ピアノに食い込んだ巨大な二枚貝がギュルルルルと再回転を始める。


 ザンッ! と、ピアノが真っ二つに割れ二枚貝が旋回しながら空を飛び、時折彼女に向かって来る。


 その都度彼女は半分になったピアノで弾き返し、その攻防が何度か続いていく。


「人間にしては中々だが……この動きを捉えられるカイ!?」


 そう言うと一旦距離を取り、まるで振り子が高速で動く様に激しく左右に揺れていく。


 あまりの速さにまるで無数の貝が空に浮かぶ様に。


「……終わりだ」


 ふと、彼女が絶望を漏らす私の方を向いた。


「危ないから隠れていて」


 無表情に告げるその瞳孔は猫の目の様に縦に大きく割れていた。


 不謹慎にも私はその瞳を美しいと思った。


「……武運を祈る!」


 私は無力だ。加勢すら出来ない。私は必死で距離を取る。


「愉カイ! 痛カイ! 死んでみるカイ!」


 その無数の貝が一斉に襲いかかると、彼女は持っていたピアノの残骸を放り捨て、事も無げに無数の貝の中から本体を見抜き、貝の口を押さえる様に片手で掴んだ。


「まさか! 私の動きを人間の目で追える筈が……」

「……獅子の目は何物をも見逃さない」

「ホタテを舐めるなあ!」


 掴む手を押し退け、閉じていた貝が隙間を作ると無数の真珠が散弾の様に彼女に放たれる。


「マドモアゼル!」


 それでも彼女は微動だにしない。真珠は彼女を直撃したと言うのに。


「……獅子の皮膚は何物をも通さない」


 彼女は無表情のまま、指先に力を込める。


 彼女の指が食い込んで、貝の表面にヒビが入っていく。不利を悟ったのか『未確認飛行の人魚』が命乞いを始める。


「この勝負は引き分けだ! この船は見逃すから引き分けと行こうじゃないか!」


 だが彼女は無表情のまま、冷徹にこう答えた。


「……獅子の爪は何物をも逃さない」


 そして、指先を貝殻に食い込ませたまま、『未確認飛行の人魚』を甲板に叩きつけた。


 貝殻は粉々に砕け、中の人魚は白目を剥いて泡を吹いている。


 彼女は人魚の髪を掴み人魚を叩き起こすと顔を近付け問いかけた。


「ねえ、9年前、ノースポール号の船を襲ったのはあなた?」


 貝を砕かれ攻撃手段を失った人魚が怯えながら答える。


「知らない! そんな船知らないっ!」


「本当に? ……残念ね」


 彼女の声が一段低くなる。


「待って! 探す! その船を襲った奴を探してお前に教えるから!」


「そう。じゃあ、海に帰ってその人魚を見つけたらこう伝えてくれないかしら」


「なんて伝えればいい!?」


「『ネメアの獅子』はお前をどこまでも追うぞ。……って」


 そう言うと彼女は人魚の髪を掴み無造作に海に投げ捨てた。


「またハズレ……」


 ノースポール号沈没事故。

 当時あの事故は新聞を大いに賑わせた。


 悪い意味で。


「その船に知り合いでも乗っていたのかい?」


「どうしてそう思うの?」


「君が乗っていた訳じゃ無いだろう? だって―」


 生存者は全て乗組員や男性の乗客。女性や子供を見捨てた恥ずべき事故として新聞を賑わせたのだから。


 彼女は無表情のまま私を見つめる。


「……まさか貴女もその船に乗っていたのか?」


 彼女がその拳を握りしめると、貝殻の破片は粉になり船の上に舞っていく。


「過去の話は好きじゃない。あんまり思い出したくない」


 紳士として失格だ。これ以上は聞くべきではないのだろう。


 私は彼女を後ろから優しく抱擁しようとしてぶん殴られた。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 川べりに来た。


 港から少し離れた場所にある大きな川。


 川では小さな船が行き来したり、釣りをしたりしている。


 牛の国の王と交わした約束。半年以内に人魚をまとめる事、今日はその第一歩だ。


 各々の手にはメガホン。


「じゃあみんな始めるよー! 名付けて人魚と仲良くしよう大作戦!」


「具体的にはどうするんだ?」


「へへへー。見てて。昨日一日考えたんだから」


 そう言うと、彼女は川に向かってメガホンで呼びかける。


「人魚の皆さーん! 船を襲うのはやめましょー!」


 うむ。これを半年続けろと?


「お嬢ー! 精が出るねえ!」


 釣りをしていた牛たちがサンフラワーに声を掛けた。


「ありがとー! さあ、シャオエンも声出して! 人魚の皆さーん! 仲良くしましょー!」

「仲良くー!」

「ヴァー!」


 私も力一杯呼びかける。


「なかよくしましょー」

「シャオエン、声が小さいよー!」


 これはなんの罰ゲームだ。川に四人の声が鳴り響いた。

ピアノは白熊一匹分!


作中用語及び人物辞典

ノースポール号沈没事故 モデルは『アークティック号沈没事故』

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