第三話 ネメアの獅子① レッツ オムレツクッキング!
「かき混ぜろ、『神の三叉』」
槍の穂先がぐるぐる回ると卵の黄身と白味が混ざり合いふんわりとしていく。
「サンフラワー、卵はこんなものでいいのか?」
ハンドサイズに小さくした槍でかき混ぜた卵の入った木のボウルをテーブルに置く。
「うん! 先にベーコン炒めるからそこに置いといてー!」
フェンとシゲミはバケツを構え万が一に備えている。
「いいか、サンフラワー。今はお前の母親も留守だ。決して無茶はするなよ」
これはサンフラワーの訓練だ。断じてただのお料理会ではない。
「ははは、大丈夫大丈夫」
その証拠に万が一に備え、料理は野外で行なっている。先日のポップコーン災害の様な事態に備えバケツに水も万全だ。
「じゃあねロウゼキ、私が声を掛けたらフライパンに卵を入れてね」
「キュー」
海に炎はない。私は炎が苦手だ。だから卵の投入はロウゼキにお願いしている。
「それじゃあ、レッツクッキング!」
竜の鱗で作ったフライパンにベーコンが敷き詰められ、例の赤い石、『プロメテウスの篝火』を手にサンフラワーが呟く。
「ベーコンをカリカリに。『プロメテウス』」
何も起きない。
ふと、サンフラワーのオレンジの髪が黄金色に光った。
次の瞬間、轟音と共にテーブル全体が足元から青い炎に包まれる。
「え!? おま、ちょ!」
「ギャー! サン様燃えたー!」
「ヴァー!」
フェンとシゲミがバケツの水を掛けるも水は一瞬で蒸発する。まさに焼け石に水だ。
「サンフラワー! 大丈夫か!」
「ロウゼキ、そろそろ卵お願いー」
「キュー」
炎の中で平然と料理を続けるサンフラワーとロウゼキ。熱くないのか!?
「オムレツをプルプルに。『プロメテウス』!」
次の瞬間、青い炎は紅蓮へと色を変え、火柱が渦を巻き天へと立ち昇る。
「美味しくなーれ!」
やがて炎が収まると、やはり何事もなかったかの様にサンフラワーはお皿にベーコンとオムレツを乗せ、最後にケチャップをかける。
「出来たー!」
髪の毛が徐々に元のオレンジに戻っていく。
不思議な事に、あれだけの炎に包まれたにも関わらずサンフラワーにもロウゼキにも火傷はおろか焦げ目一つない。
「さ、みんなに切り分けるよー」
これはサンフラワーがあの神具を完全に制御出来ていると言う事なのだろうか。いや、断じて違う。だってサンフラワーだ。
「フェン、シゲミ。五等分にするから小皿は五つね」
彼女は常に全力だ。制御など一切していない。恐らくあの石は使用者に炎の害が及ばない様に出来ているのだろう。
「我ながら上手に出来たー。次は何作ろうかなー」
つまり、今後彼女がちょっとした事にあの石を使う度に災害の様な炎が巻き起こる事になる。
「ねえ、シャオエン。何かリクエストはある?」
とても危険だ。使い所を間違える訳にはいかない。
「サンフラワー、お前は当分料理禁止だ」
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ハーキュリアに向かう船の上。美しい女性の奏でるピアノの旋律が聞こえる。船旅と言うのはこうでなければいけない。
オリアナ大陸に於ける魔物討伐と言えば我がワトソン家に於いて他ならない。
ワトソン家の男子は皆幼少より鋼鉄製のクラリネットを手渡され、全ての音が綺麗に吹けるクラリネットを固い岩肌に叩きつけ鍛錬する。
一年。
また一年。
やがて「ド」の音、「レ」の音と、鍛錬を重ねる度に音は失われ、全ての音が失われた時、魔祓いの武具『撲殺クラリネット』は完成する。
そうして初めて成人と認められ魔物の討伐に赴く事を許されるのだ。
そうやって我がワトソン家はオリアナ大陸で数々の功績を収めてきた。
ハーキュリアで行われる大規模な人魚討伐。その討伐に私が呼ばれるのも当然と言える。
聞くに人魚は歌で人間を拐かすと聞く。
だが、そんなものはこの『撲殺クラリネット』には通用しない。
「パスキャマラード!」
この一振りで全てを解決して見せる。
次の討伐、この白シャツを赤く染め上がるのは無法を働く人魚の血だ!私はこの『撲殺クラリネット』を高々と天に掲げる。
「正義を我が手に!」
突然ピアノの音が止んだ。
私の高揚が演奏の邪魔になっていたのなら謝罪せねばならない。
「マドモアゼル。何かお気に召さなかったかな?」
か細く、どこか儚げな彼女は呟く様に答える。
「……来たかしら」
来た? それは人魚の事だろうか。
海面を眺めると確かにいる。大きな二枚貝が口を開け、中にはやはり美しい女性。その姿は女神の様だ。私と目が合うと恥じらう様に二枚貝の口を閉じた。
だが見た目に惑わされてはいけない。奴らは航海の安全を脅かす人魚。この手で打ち滅ぼさねばならない。
「ハハハ! これは幸先がいい。ハーキュリアへの手土産に人魚を一匹血祭りにあげごぶべばっ!」
何か重い鈍器の様なもので殴られた衝撃を受け私は弾き飛ばされる。油断した! これが人魚の攻撃か!?
「……邪魔」
違う! 私が殴られたのは今の今までピアノを弾いていた彼女にだ!
しかもピアノで!
これは悪夢に違いない。
ピアノには二枚貝が抉る様に刺さり、そのピアノを軽々と片手で持ち上げた彼女が立っている。
あのまま立っていたなら、私はあの二枚貝に首を切り落とされていたのだろう。
「私を助けてくれたのか?」
その私の問いに、彼女はたった一言こう答えた。
「……これは、私の獲物」
彼女の名はアストリア・レオーネ。
この美しき女性に、私の自信とプライドは粉々に打ち砕かれた。
第三話開幕です!
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「美味しくなーれ!」
燃え! 燃え! ギューン!(火柱の立ち昇る音)




