閑話 海の底の話②
沢山の子供たち。
その中で、あの子はいつも空を眺める。
海の中から、ゆらゆらと揺れる太陽を。
「ねえシャオエン。そんなにおひさまばかりみていたら、おめめがやかれてしまうよ」
仲間の子供達が心配して声を掛けても、あの子はずっと空を眺める。
外の世界をずっと夢見る。
そのシャオエンがよたよたと一生懸命に泳いで私の所にやってきた。
顔をぷーっと膨らませている。何か不満があるのだろう。
「ねえ、ママ。どんなにおよいでもうみのそとにでられないんだ」
ほら、やっぱり。
「それはね、シャオエン。みんなが遠くへ流されない様に私がみんなを布で縛っているからさ」
「ぬのなんか、どこにもみえないよ?」
「そりゃそうさ。なんてったって、バカには見えない布だからね」
そう言うと不思議そうに自分の体をまさぐる。
やがてこの子は見えない布を探すのを諦め、私に懇願する。
「いつになったらおもてにでてもいい?」
「そりゃ、お前たちが大きくなったらさ。でもねシャオエン。海の外には危険な怪物が一杯だよ?」
「きけん?」
「どんな攻撃にも傷一つつかない強靭な獅子、山の様に大きな大猪、昼間なのにお日様を完全に隠してしまう沢山の鳥たち、百の首を持つ殺しても死なない竜。どうだい、怖いだろう?」
でもこの子は怖がらせた筈なのに大きな青い瞳を更にキラキラさせる。
「ママ! わたしそのかいぶつをみてみたい!」
ああ、この子はいつか私の言う事も聞かずに外の世界へ行ってしまうのだろう。
それこそ人間の足でも手に入れたら何処までも遠くに行ってしまうのだろう。
「シャオエンがそとにいったらやだ……やだー」
おやおや、一緒に話を聞いていたニケがぐずりだした。この子は本当にシャオエンが好きだねえ。
「シャオエン、うみのそとにおさかなはいないのよ? おなかがぺこぺこになっちゃう」
アプリコットはとってもおませさん。すぐに背伸びをしたがる。それがとても可愛い。
「ママ! オリカもおおきくなったら、かいぶつとたたかってみたい!」
この子はやんちゃ者。後ろ脚をブンブンさせて私の話を聞いている。
子供の成長は早い。みんな同じ様なものだったのに今では立派に個性が芽生え始めている。
「大きくなったら、何処にでも好きな所にお行き」
こうしていられるのもホンの少し。この子たちは自由に大海原へ巣立って行くのだろう。
すれが私には嬉しくもあり、同時に寂しくもある。
「わかった、わたしもママみたいにりっぱなババアになる!」
おやおや。
……おやおや。
「シャオエン、ババアじゃなくておばあさんよ」
ニケまで。
「さんびゃくねんものってほかのにんぎょがいってたわ」
アプリコット。
……アプリコット。
「わたしはかんおけにあしつっこんだひものってきいたよ!」
オリカ・オルカ。後で詳しく話を聞かなきゃいけないね。
子供の成長は早い。気がつけば色んな言葉を覚えていく。
それがとても微笑ましい。
「どうしたの? ママ」
「かき混ぜろ。『神の三叉』」
「「「「うわー!」」」」
大丈夫。『アマソーンの腰帯』で縛っているから遠くに飛ばされたりはしない。
ほんの少しぐるぐる回るだけさね。
早く大きくおなり。
私はそれを楽しみにしているよ。
「「「「ママー! たすけてー!」」」」




