牛の国④ アマソーンの腰帯
エピソード毎に尺の長さがバラバラですみません(泣)
ニコニコと笑顔を撒き散らすサンフラワーと溢れんばかりの殺気を撒き散らす女王。
確かに船の中で「いい考えがある」とは言っていたが、こんな事をするとは聞いてないぞ。
「欲しいものが有ります! もし私が勝ったら、外交の権利を一つください!」
「外交?」
「はい! 私は人魚たちと仲良くしたいです!」
いやいやいや。
情報と感情が追いつかない。
それは私の望みだ。
つまり、私との約束を守る為に自分の母親に喧嘩を売ったと言う事なのか?
馬鹿かお前は!? 私などほんの二週間前に会ったばかりじゃないか。
「……その願いがどう言う意味か分かって言ってるんだろうな?」
「はい! だから力ずくで叶えにきました!」
「勝算はあるのか?」
「ハンデをください! ここにいるフェンとシゲミ、そしてそこにいるシャオエンの四人で!」
「シャオエン?」
その目が私をジロリと睨む。牛の中で見た目が人間の私はよく目立つ。もう後には戻れない。腹を決めよう。
「牛の王よ。力ある者が法律。国を奪う訳じゃない。お前たちの法に合わせてやるんだ。これ位のハンデはいいだろう?」
ああ、上手く話を合わせられた私を褒めてやりたい。
「フ、フフ、ハハハハハ! 面白い! 皆の者! 今からワシとサンフラワーで決闘を行う!」
「うおおー! 姫様の挑戦じゃー!」
盛り上がる観客席。
私は船の乗れない間だけ仕事を貰えないかと話をするだけだった筈。
どうしてこうなった。
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牛獣人を凌駕する圧倒的な力。
有無を言わせぬ圧倒的な圧力。
覇王。暴王。邪気の塊。
「サンフラワー、喧嘩を売ったのはそっちじゃ。加減はせんぞ」
ミーノス王国の王、デイジー・ミーノス。
そんなものが私たちの前にやる気満々で立っている。
「お嬢ー! ワシらの仇を取ってくれー!」
「デイジー様は散々戦ってヘロヘロじゃー!」
観客席から無責任に煽る牛たち。
「サン様俺帰りたい」
「ヴァー……」
やる気を無くす護衛たち。
「大丈夫! 私たちならお母様に勝てる!」
「キュー!」
やる気満々のサンフラワーとロウゼキ。その自信はどこから来る。
「まあ、打ち合わせた通りに行こう」
上手く行くかは分からない。だがやるだけの事はやろう。
「ところでサンフラワー、食事は摂ったか?」
「はい! 豆を牛乳で煮たものを食べました!」
「ふむ……豆は星々エメラルド。夜空に輝くお星さま」
何か詩的な事を言い出した、この女王。
「ミルクはキラキラ天の川。夜空を分つ星の海」
言葉とは裏腹に指をポキポキ鳴らしている。
「ここは天幕。星なき夜空。だが、仮初の星空を……お前のゲロで作り出す」
最悪だ。途中迄いい感じだったのに。そして、実の娘であろうと手加減はしない事がよく分かった。
そしてゴングが鳴った。
と同時に女王がフェンの肩をがっしり掴んでいる。
「フェンよ。お前のお陰でサンフラワーは夜も気兼ねなく眠れる。その忠信感謝に耐えぬ。そりゃ!」
「キャーン!」
女王がフェンの両肩を掴み、そのまま真上に放り投げると、あっと言う間に空を飛び天幕に突き刺さるフェン。
「シゲミよ。お前の皮膚はサンフラワーの盾じゃ。お前の傷がワシの誇りじゃ」
「ヴァー!」
フェンと同じ様にシゲミも天幕に突き刺さる。
フェン、シゲミ、牛さん。仲良く3人並んで足をプラプラさせている。
「無茶苦茶だな」
「これが私の自慢の母です!」
ここ迄一分も経っていない。
「さーて、早くも2対1じゃのう……」
「いえ、お母様、ロウゼキもいます!」
「キュー」
ロウゼキはてくてく女王の元まで行くと、足元で腹を見せ降伏のサインだ。
「ああ、ロウゼキ裏切った!」
私は闘技場の中央で槍を水平に構え、その切先を王に向ける。私の後方にはサンフラワー。
「その槍なら知っとる。シャオエンとか言ったの。何故それをお前が持っとるか、今は聞かん。人魚の王の神具、『神の三叉』。確かに海なら比類なき力を発揮するじゃろう」
その口ぶり。彼女はママに会った事があるのだろう。ならばこの槍の事を知っていてもおかしくはない。そしてその弱点も。
「だがここは地の上。本来の力の1割も発揮出来ん。今のそいつはただの棒っきれじゃ」
彼女はゆっくりと私に向かって歩いて来て―
「そうだ、お前はここで大人しくしとれ」
そのまま私の横を通り過ぎた。私は槍を構えたまま一歩も動かない。
「腐ってもサンフラワーの客人。歯向かわなければ怪我はさせぬ」
戦っていれば間違いなく負けただろう。それは私でも分かる。
「さて、サンフラワー。あとはお前だけじゃ。お前なら知っておるな。ハーキュリア全土で人魚討伐に動き出す事を。これは大陸の意思じゃ。人魚はやり過ぎた」
「いい人魚もいます」
「来月の会議で正式に人魚討伐が決定する。そうなれば、人魚と戦争じゃ。この流れに逆らえば我が国の立場が危うくなる」
「その戦争には牛たちも出すのですか?」
「無論じゃ」
「ならば、私は戦わない方向を探します。その為の時間をください」
しばしの沈黙。
「ワシの答えは―」
「シャオエン! 打ち合わせ通り時間稼いだよ!」
「?……!!」
「良くやった、サンフラワー」
私は槍を水平に構えたまま一歩も動いていない。
そして、女王はもう一歩も動けはしない。全ては打ち合わせ通りだ。
「……何をした?」
「ずっと地上で闘う方法を考えていた。これがその答えだ」
私は女王にタネを明かす。私たちの戦った戦法を。
「海の中ならば大抵の人魚にも負けない。でもそれでは地上にいる守りたい人間を守れない」
彼女を拘束しているもの。その姿がゆっくりと形を見せる。
普段は槍の穂先に飾りの様に付いている物。
「これは私なりの工夫だ。この『神の三叉』と対を成す神具。どこまでも自在に伸び、私の意思でその姿を隠せる、女神の布」
槍の穂先より伸びる無数の布が闘技場を蜘蛛の巣の様に張り巡らし、彼女の体をがんじがらめに縛りつける。
もう彼女の目にも見えるだろう。その真紅の布が。
「なるほど、ワシは、まんまと初見殺しにハマった訳か」
「そう、英雄の功績の一つ『アマソーンの腰帯』。又の名を―」
ママはいつもこう呼んでいた。
「バカには見えぬ布だ」
私の位置からは見えないが、その時確かに女王が笑った気がした。
「逆巻け。『神の三叉』」
無数に伸びた赤い布が女王ごと槍に絡め取られて行く。
それはまるで昨日食べたスパゲッティの様に。
そんな事を思い出したらまた食べたくなってきた。
あれは素晴らしい。あの赤い悪魔さえ無ければ。
そして、あの時のスパゲッティの様にまんまるのかたまりににり、頭だけをチョコンと出した女王がたった一言こう言った。
「ワシの負けじゃ」
用語時点
アマソーンの腰帯 英雄の残した功績の一つ。史実ではどんな用途があるのか分かっていないらしい。




