表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランスポーター✕サービス  作者: カバクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/39

第4話「仲間だからこそ」(前編)

朝6時。

 池巣自動車営業所。

 いつもなら、新人4人の声が響いている時間だった。

「おはようございます!」

 細野孝太郎、川村健吾、大森恒一。

 いつもの3人は揃っていた。

 しかし。

「……。」

 山下恒一だけは、いつもの笑顔がなかった。

「山下。」

 細野が声をかける。

「大丈夫か?」

「……大丈夫。」

 そう答えるものの、目はどこか遠かった。

 昨日。

 山下は独り立ち後、初めての単独乗務で事故を起こした。

 狭い道路。

 慎重になりすぎたハンドル操作。

 そして、タクシーのドアミラーにバスの車体を接触させてしまった。

 幸い、けが人はいない。

 しかし。

 運転士にとって事故とは、車両の傷だけではない。

 自分自身の心にも大きな傷を残す。

 午前6時30分。

 乗務前点呼。

 運転士たちが整列する。

 前に立った男性が口を開いた。

「おはようございます。」

「安全推進担当、矢野誠です。」

 矢野誠。

 52歳。

 事故担当も兼任する池巣営業所の安全の要。

 見た目は30代にしか見えないほど若々しく、爽やかな雰囲気を持っている。

 しかし、安全に関する話になると表情が変わる。

「昨日、接触事故がありました。」

 営業所内が静かになる。

 山下は下を向いた。

「幸いにも、けが人はありませんでした。」

「ですが、事故は事故です。」

 矢野は続ける。

「皆さんにお願いがあります。」

「事故を起こした人間を責めるだけでは、安全は作れません。」

「原因を共有し、次に起こさないこと。」

「それが大切です。」

 山下は顔を上げた。

「報告する勇気。」

「向き合う勇気。」

「それも運転士に必要な力です。」

「本日も安全運行をお願いします。」

「はい!」

 営業所全員の返事が響いた。

 点呼が終わった後。

 寺島主任が新人4人を呼んだ。

「紹介する。」

「指導担当助役の金城さんだ。」

 そこに立っていた男性。

 白髪が少し混じった髪。

 落ち着いた雰囲気。

 だが、どこか親しみやすい笑顔。

「金城恒一です。」

 59歳。

 指導担当助役。

 運転士歴約40年。

 無事故・無違反を長年続け、その功績から国土交通大臣表彰を受賞した、池巣営業所が誇るベテランだった。

「すごい人なんですね……。」

 川村が小声で言う。

 すると金城は笑う。

「いやいや。」

「ただ長く運転していただけだよ。」

 そう言った直後。

「ちなみに昨日は靴下を左右逆に履いてきたけどね。」

 沈黙。

「……。」

 大森が眼鏡を直す。

「今の発言は必要でしたか?」

「必要だよ。」

「人間らしさだから。」

 営業所に笑いが起きる。

 細野は思った。

(本当に表彰された人なのか……?)

 しかし。

 午後。

 事故検証の時間。

 金城の雰囲気は変わった。

「山下。」

「はい。」

「ここで何が起きた?」

 道路を見ながら聞く。

「左側を意識しすぎました。」

「右側の確認が遅れました。」

 金城はうなずく。

「そうだな。」

「でも、一番の原因はそれだけじゃない。」

 山下を見る。

「焦りだ。」

「遅れたらどうしよう。」

「迷惑をかけたらどうしよう。」

「その気持ちが、確認を雑にする。」

 山下は黙って聞いていた。

「運転士はな。」

「時間を守る仕事だ。」

「でも、安全を犠牲にして守る時間なんてない。」

 矢野も記録を確認する。

「今回の事故は、誰にでも起こる可能性があります。」

「だからこそ、経験に変えましょう。」

 山下は深く頭を下げた。

「はい。」

 帰り道。

 細野は金城を見る。

 さっきまで冗談ばかり言っていた人。

 でも今は、誰よりも真剣に後輩と向き合っている。

「金城さんって……すごいですね。」

 藤崎が答える。

「そうですよ。」

「普段はあんな感じですけど。」

「安全に関しては、営業所で一番厳しい人です。」

 細野はバスを見る。

(いつか……)

(俺も、あんな運転士になりたい。)

 夕方。

 終業点呼。

「本日の運行、お疲れさまでした。」

 矢野が言う。

「ヒヤリハットがあった方は報告してください。」

「小さな気づきが、大きな事故を防ぎます。」

 今日も一日。

 池巣営業所のバスは無事に戻ってきた。

 営業所を出る時。

 山下が言った。

「俺、もう一回頑張る。」

 細野は笑う。

「当然だろ。」

「同期なんだから。」

 4人が歩き出す。

 その後ろから声が響く。

「おーい!」

 金城だった。

「明日寝坊したら、運転以前の問題だからな!」

 山下が笑う。

「金城さんが言います!?」

 営業所に笑い声が響いた。

 事故の苦しさ。

 仲間の温かさ。

 そして、安全を守る責任。

 新人4人は少しずつ、本当の運転士へ近づいていく。

(第4話・前編 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ