24話 「受け継がれる背中」(後編)
二か月が過ぎた。
池巣自動車営業所。
春の終わりを迎え、車庫には少し暖かい風が吹いていた。
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新人5人は、金城恒一の指導のもとで多くのことを学んでいた。
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運転技術。
路線の特徴。
車両の扱い。
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そして。
一番大切なこと。
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安全を守るという責任。
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「今日で基本教習は終了だ。」
金城が言う。
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新人5人は姿勢を正す。
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「ありがとうございました!」
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金城は少し笑った。
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「まだ終わりじゃない。」
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「運転士は、現場に出てからが本当の勉強だ。」
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「毎日同じ道を走っていても。」
「毎日同じ仕事をしていても。」
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「同じ日は一日もない。」
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新人たちは真剣に聞いていた。
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「だから。」
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「分からないことがあったら聞け。」
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「迷ったら相談しろ。」
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「一人で抱えるな。」
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その言葉は。
かつて細野たちが先輩から受け取った言葉と同じだった。
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その日の午後。
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「細野。」
寺島主任が声を掛ける。
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「はい。」
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「金城さんの教習期間が終わった。」
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細野は頷く。
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「ありがとうございます。」
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「そして。」
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寺島は続ける。
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「ここからは、お前と山下に新人教育を任せる。」
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一瞬。
細野は言葉を失った。
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「俺たちが……ですか?」
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「ああ。」
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「もう、その立場になったんだ。」
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細野は車庫を見る。
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そこには、新人5人の姿があった。
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少し前まで。
自分もあの場所にいた。
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不安で。
緊張して。
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それでも。
先輩たちが支えてくれた。
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「分かりました。」
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「責任を持って担当します。」
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隣で山下が笑う。
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「まさか俺たちが新人を教える日が来るとはな。」
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「山下さん。」
大森が言う。
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「しっかりしてくださいね。」
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「分かってるよ。」
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「俺だって長く家庭を支えてるんだ。」
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「新人教育とは別ですよ。」
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「分かってるって。」
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いつものやり取りに、営業所へ笑い声が広がる。
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翌日。
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細野は新人5人の前に立っていた。
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少し緊張する。
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運転席に座るよりも。
誰かに教えることの方が難しいのかもしれない。
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「最初に伝えておきたいことがあります。」
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新人たちが顔を上げる。
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「運転技術は大切です。」
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「でも。」
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「一番大切なのは、お客様が安心して乗れる運転士になることです。」
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「時間を守る。」
「安全を守る。」
「そして、人を思いやる。」
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「それが運転士の仕事だと思っています。」
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新人たちは真剣に頷いた。
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山下も続ける。
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「あと一つ。」
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「分からないことを恥ずかしがるな。」
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「俺たちだって、最初は何も分からなかった。」
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「先輩に助けてもらったから、今ここにいる。」
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「だから今度は、お前たちの番だ。」
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「はい!」
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力強い返事が返ってきた。
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その様子を見ていた寺島は、静かに笑った。
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昔。
自分たちが見てきた背中。
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今。
その背中を、細野たちが見せている。
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池巣自動車営業所。
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ここはただバスを走らせる場所ではない。
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新人が成長する場所。
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仲間が支え合う場所。
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そして。
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仕事が終わった後も、また帰ってきたいと思える場所。
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季節は巡る。
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新しい運転士たちが加わり。
新しい物語が始まる。
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細野は車庫に並ぶバスを見る。
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「これからも。」
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「よろしくお願いします。」
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誰に向けた言葉なのか。
自分でも分からなかった。
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ただ。
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この場所で。
仲間と一緒に。
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今日も安全を守っていく。
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池巣自動車営業所の新しい一年が始まった。
(エピローグへ続く)




