↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランスポーター✕サービス  作者: カバクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/55

23話 「それぞれの想い」(第4編 答えを探して)

三月も終わりに近づいていた。


 池巣自動車営業所。


 桜のつぼみが膨らみ始め、春の訪れを感じる季節。


 しかし。


 細野孝太郎の心の中には、まだ整理しきれないものがあった。


---


 西園寺美月。


 藤崎彩。


---


 二人から伝えられた想い。


---


 どちらも。


 軽い気持ちではなかった。


---


 仕事中は、いつも通りだった。


 ハンドルを握る。


 お客様を安全に届ける。


 仲間と笑う。


---


 しかし。


 ふとした瞬間。


 二人の言葉が頭をよぎる。


---


『私は、細野さんが好きです。』


---


『私も、もう逃げません。』


---


 細野は小さく息を吐いた。


---


「難しい顔してるな。」


---


 声を掛けたのは山下恒一だった。


---


「山下さん。」


---


 山下は缶コーヒーを差し出す。


---


「飲め。」


---


「ありがとうございます。」


---


 細野は受け取る。


---


「悩み事か?」


---


「……。」


---


 細野は少し迷った。


---


 しかし。


 山下は長く一緒に働いてきた先輩でもあり、同期のような存在でもある。


---


「大切な人から。」


「気持ちを伝えられました。」


---


 山下は驚かない。


---


「そうか。」


---


「二人とも。」


---


 細野は続ける。


---


「どちらも大事な人です。」


---


「だから。」


「簡単に答えを出したくないんです。」


---


 山下は静かに頷いた。


---


「それでいい。」


---


「適当に決める方が失礼だ。」


---


 その言葉に、細野は顔を上げる。


---


「結婚して長いけどな。」


---


「相手を選ぶっていうのは。」


「好きって気持ちだけじゃない。」


---


「一緒にいて安心できるか。」


「支え合えるか。」


---


「そういうことも大事だ。」


---


 細野は黙って聞いていた。


---


「山下さん。」


---


「はい。」


---


「ありがとうございます。」


---


 山下は笑う。


---


「同期だからな。」


---


「困った時くらい相談に乗るよ。」


---


 少し離れた場所では。


 大森恒一がその様子を見ていた。


---


「山下さん。」


---


「何だ?」


---


「珍しく良いことを言いましたね。」


---


「珍しくは余計だろ。」


---


 二人のやり取りに。


 細野は思わず笑った。


---


 その日の帰り。


---


 細野は一人、駅まで歩いていた。


---


 春の風。


---


 街灯に照らされる道。


---


 考える。


---


 西園寺と過ごした時間。


---


 初めて会った時。


 熱海で笑った夏。


 台風の日に一緒に働いたこと。


---


 藤崎と過ごした時間。


---


 新人だった頃から見守ってくれたこと。


 自分の弱さを理解してくれていたこと。


---


 どちらにも。


 大切な思い出がある。


---


「俺は……。」


---


 答えを急ぐことはできない。


---


 でも。


---


 逃げることもできない。


---


 翌日。


 営業所。


---


「細野さん。」


---


 声を掛けたのは川村健吾だった。


---


「はい。」


---


「大丈夫ですか?」


---


 細野は少し驚く。


---


「何がですか?」


---


 川村は笑う。


---


「分かります。」


---


「僕も。」


「大切な人のことを考える時間が増えたので。」


---


 細野は笑った。


---


「川村。」


---


「幸せそうだな。」


---


「はい。」


 川村は照れながら頷く。


---


「桜井さんと話していると。」


「自然体でいられるんです。」


---


 その言葉に。


 細野は少し考えた。


---


 自然体でいられる相手。


---


 支え合える相手。


---


 自分にとって大切なもの。


---


 まだ答えは出ない。


---


 でも。


---


 少しずつ見えてきた気がした。


---


 夕方。


 営業所の車庫。


---


 細野は並んだバスを見る。


---


 新人だった頃。


 先輩たちの背中を追いかけていた。


---


 今は。


 後輩たちが自分たちを見ている。


---


 仕事も。


 人生も。


---


 簡単な答えなんてない。


---


 だからこそ。


---


 自分で考えて。


 自分で選ぶ。


---


 細野は静かに空を見上げた。


---


 春はもうすぐそこまで来ていた。


---


 そして。


 池巣自動車営業所には。


 新しい年度と。


 新しい物語が始まろうとしていた。


(第23話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。