↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランスポーター✕サービス  作者: カバクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/55

23話 「それぞれの想い」(第1編 恋の始まり)

三月最後の日曜日。


 池巣自動車営業所は、休日らしい穏やかな空気に包まれていた。


 春休み期間ということもあり、路線バスを利用するお客様は多い。


 運転士たちは、それぞれの担当路線へ向かい、安全運行を続けていた。


---


 その日の夕方。


 川村健吾は、待ち合わせ場所へ向かっていた。


「……。」


 珍しく少し緊張している。


 普段は落ち着いていて、誰に対しても優しい川村。


 しかし今日は違った。


---


「食事に行くだけですよね。」


 そう自分に言い聞かせる。


 それでも。


 いつもより少しだけ服装を気にした。


---


 待ち合わせ場所。


 先に来ていたのは桜井七海だった。


「川村さん。」


 川村に気付くと、笑顔になる。


「すみません、待ちましたか?」


「いえ。」


 桜井は首を横に振る。


「私も今来たところです。」


---


 二人は近くのレストランへ向かった。


---


「こうして二人で話すのは初めてですね。」


 桜井が笑う。


「そうですね。」


 川村も微笑む。


「営業所では仕事の話ばかりですから。」


---


 二人は食事をしながら、様々な話をした。


 仕事のこと。


 休日の過ごし方。


 これからの目標。


---


「川村さんは、どうして運転士になったんですか?」


 桜井が聞く。


---


 川村は少し考えてから答えた。


「人の役に立つ仕事がしたかったからです。」


「バスって、ただ移動するだけじゃないと思うんです。」


---


「通勤する人。」


「学校へ行く人。」


「病院へ向かう人。」


「それぞれの大切な時間を預かっていると思っています。」


---


 桜井はその言葉を聞いていた。


 やっぱり。


 この人は優しい。


---


「川村さんらしいですね。」


---


「桜井さんも同じだと思います。」


「え?」


---


「営業所に来たばかりなのに、皆さんのことを一生懸命考えています。」


「そういうところ、すごいと思います。」


---


 桜井は少し驚いた。


 まだ自信があるわけではない。


 でも。


 ちゃんと見てくれている人がいる。


 それが嬉しかった。


---


 食事が終わり。


 二人は店の外へ出た。


 春の夜風が優しく吹いている。


---


「今日は楽しかったです。」


 川村が言う。


「僕もです。」


---


 少しの沈黙。


---


 桜井は覚悟を決めた。


---


「川村さん。」


「はい。」


---


「私。」


「川村さんのことが好きです。」


---


 川村は驚いた。


---


 でも。


 嫌な気持ちはなかった。


---


 初めて会った日のこと。


 営業所で話した時間。


 少しずつ知った桜井という人。


---


「ありがとうございます。」


 川村はゆっくり言った。


---


「僕も。」


「桜井さんといる時間は楽しいです。」


---


「これからも。」


「一緒にいられたら嬉しいです。」


---


 桜井の表情が明るくなる。


---


「はい。」


---


 二人は笑った。


---


 翌日。


 池巣自動車営業所。


---


「おはようございます!」


 川村が出勤してくる。


---


 いつも通りの挨拶。


 いつも通りの笑顔。


---


 しかし。


 山下恒一はすぐに気付いた。


---


「……。」


---


「川村。」


「何かいいことあっただろ。」


---


「え?」


 川村が首を傾げる。


---


「顔に出てる。」


---


「山下さん。」


 細野が笑う。


「分かるんですか?」


---


「分かるよ。」


 山下は胸を張る。


---


「俺も結婚して長いからな。」


---


「人の幸せそうな顔くらい分かる。」


---


 大森恒一も頷く。


「確かに。」


「川村さん、いつもより表情が柔らかいです。」


---


「大森さんまで……。」


 川村が照れる。


---


「何かあったんですか?」


 細野が聞く。


---


 川村は少し迷った。


 でも。


 同期には伝えたかった。


---


「実は。」


---


「桜井さんと、お付き合いすることになりました。」


---


 一瞬。


 静かな時間が流れる。


---


「そうか。」


 山下が笑う。


---


「おめでとう。」


---


「ありがとうございます。」


---


「大切にしろよ。」


 山下は優しく言った。


---


「仕事も大事だ。」


「でもな。」


「帰った時に待っていてくれる人がいるっていうのは、人生で大きいからな。」


---


 既婚者である山下だからこその言葉だった。


---


 大森も微笑む。


「おめでとうございます。」


「仕事との両立は大変ですが、支え合える相手がいるのは素晴らしいことです。」


---


 細野も笑う。


「良かったな、川村。」


---


「ありがとうございます。」


 川村は嬉しそうに頭を下げた。


---


 その様子を少し離れた場所から見ていた藤崎彩と西園寺美月。


---


「良かったですね。」


 藤崎が言う。


---


「はい。」


 西園寺も微笑む。


---


「川村さんには、幸せになってほしいです。」


---


 二人は静かに笑った。


---


 誰かの恋が始まった春。


---


 しかし。


 まだ答えを待っている想いもある。


---


 細野孝太郎。


 藤崎彩。


 西園寺美月。


---


 それぞれの気持ちは、まだ胸の中に残っていた。


(第23話・第2編へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。