19話 「新しい挑戦」(前編)
二月も終わりに近づいたある日。
池巣自動車営業所では、いつものように朝の点呼が終わり、運転士たちがそれぞれ担当路線へ向かっていた。
担当路線は毎日変わる。
細野孝太郎たち同期四人も、その日の運行表を受け取り、それぞれ出庫していく。
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一方その頃。
西園寺美月は、保険会社の本社ビルを訪れていた。
「失礼します。」
会議室へ入ると、営業部長と人事担当者が席に着いていた。
「西園寺さん。」
「本日はお時間をいただきありがとうございます。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
西園寺は少し緊張した表情で頭を下げる。
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営業部長が一枚の資料を差し出した。
「今日は、大切なお話があります。」
西園寺は静かに資料へ目を落とす。
そこには、
『営業企画課 配属候補者』
と書かれていた。
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「西園寺さん。」
「あなたを四月から本社営業企画課へ異動させたいと考えています。」
思わず顔を上げる。
「……私が、ですか?」
「はい。」
「営業成績。」
「営業所との信頼関係。」
「企画提案。」
「どれも高く評価されています。」
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突然の話だった。
嬉しくないわけではない。
しかし、西園寺の胸には別の感情が広がっていた。
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「少し……考える時間をいただけますか。」
営業部長は優しく頷いた。
「もちろんです。」
「これは人生を左右する異動です。」
「納得した上で返事をしてください。」
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その日の夕方。
西園寺は池巣自動車営業所へ戻った。
営業所では藤崎彩が書類を整理していた。
「あれ?」
藤崎が顔を上げる。
「今日は本社でしたよね?」
「はい。」
西園寺は少し笑った。
「実は……相談したいことがあるんです。」
藤崎は表情を引き締めた。
「何かあったんですね。」
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営業所近くのカフェ。
二人は向かい合って座る。
西園寺は静かに本社での出来事を話した。
「営業企画課への異動ですか。」
藤崎は驚きながらも微笑んだ。
「すごいことじゃないですか。」
「そうなんですけど……。」
西園寺は窓の外を見つめる。
「池巣営業所を離れると思うと、素直に喜べなくて。」
「ここが好きなんです。」
「皆さんと仕事をする毎日が。」
藤崎は優しく頷いた。
「その気持ち、よく分かります。」
「でも。」
「だからこそ、美月さんが選ばれたんですよ。」
「営業所で積み重ねてきたことが評価された証拠です。」
西園寺は小さく息をついた。
「もう少しだけ、考えてみます。」
春は、新しい出会いだけでなく、新しい挑戦も運んでくる。
西園寺美月は今、大きな決断の前に立っていた。
(第19話・後編へ続く)




