18話 「想いを包むチョコレート」(後編)
二月十四日の夕方。
一日の乗務を終えた細野孝太郎は、更衣室で制服を着替えていた。
ロッカーの上には、昼休みに受け取った二つの小さな紙袋。
藤崎彩からのもの。
西園寺美月からのもの。
「ありがたいな……。」
細野は照れくさそうに笑いながら、丁寧にバッグへしまった。
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営業所の休憩室。
同期四人がいつものように集まっていた。
「細野。」
山下恒一がニヤニヤしながら近づく。
「今日は景気が良かったな。」
「何の話ですか。」
「分かってるくせに。」
川村健吾が苦笑する。
「山下さん、からかわないでください。」
「いやいや。」
「営業所で女性二人からチョコをもらうなんて、なかなかないぞ。」
細野は頭をかいた。
「仕事でお世話になってるからですよ。」
「そういうことにしておこう。」
山下は笑い、大森恒一は静かにコーヒーを飲む。
「細野さんらしいですね。」
「深く考えていないところが。」
「え?」
三人が笑い出した。
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一方、その頃。
営業所近くのカフェ。
藤崎と西園寺は仕事帰りに立ち寄っていた。
「今日は緊張しました。」
西園寺がカップを両手で包む。
「私もです。」
藤崎は優しく微笑んだ。
「でも、渡せてよかった。」
二人は静かに笑い合う。
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西園寺が少し真剣な表情になる。
「彩さん。」
「はい?」
「私、もう隠すつもりはありません。」
「細野さんのことが好きです。」
店内に静かな時間が流れる。
藤崎は驚かなかった。
熱海で交わした会話から、その気持ちは分かっていたからだ。
「そうですよね。」
藤崎は穏やかに頷いた。
「私も同じです。」
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二人は顔を見合わせる。
気まずさはない。
ライバルではある。
それでも、お互いを嫌いになることはできなかった。
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「勝負ですね。」
西園寺が笑う。
「ええ。」
藤崎も笑顔で返す。
「でも。」
「仕事まで持ち込まない。」
「もちろんです。」
「営業所のみんなは、大切な仲間ですから。」
二人は小さく乾杯した。
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数日後。
昼休み。
細野は営業所の休憩室で、二つの紙袋を開けていた。
一つには手作りのクッキー。
もう一つには、きれいに包装されたチョコレート。
「どっちも美味しそうだな。」
そうつぶやくと、山下が後ろからのぞき込む。
「おっ。」
「食べるなら一個くれ。」
「ダメです。」
「即答か。」
「いただいたものですから。」
細野は笑う。
その笑顔を見て、山下も肩をすくめた。
「まあ、大事にしろ。」
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その日の乗務を終え、営業所を出る頃には夕焼けが街を赤く染めていた。
細野はバッグの中の二つの紙袋を見つめる。
「本当にありがたいな。」
感謝の気持ち。
それ以上でも、それ以下でもない。
今の細野には、まだ二人の本当の想いには気付いていなかった。
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その頃。
営業所の窓から細野の後ろ姿を見送る藤崎と西園寺。
二人は何も言わない。
ただ、同じ人の背中を見つめていた。
春はもうすぐそこまで来ている。
それぞれの想いもまた、少しずつ前へ進み始めていた。
(第18話 完)




