17話 「新しい路線、新しい一歩」(前編)
二月初旬。
雪もすっかり解け、池巣の街には少しずつ春の気配が近づいていた。
池巣自動車営業所では、朝から職員たちが一枚の掲示物の前に集まっていた。
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『令和○年度 春季ダイヤ改正・路線改編について』
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「もうそんな時期か。」
山下恒一が腕を組む。
「一年って早いですね。」
川村健吾が感心したように言う。
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細野孝太郎も掲示板へ近づいた。
「結構変わるんですね。」
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停留所の新設。
運行時刻の見直し。
一部区間の経路変更。
利用状況に合わせた運行本数の調整。
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大森恒一が資料を見ながら口を開く。
「利用者数の分析結果を基に改正されていますね。」
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「さすが大森。」
山下が笑う。
「そういう資料読むの好きだよな。」
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「仕事ですから。」
大森は真顔で答えた。
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そこへ金城恒一がやって来た。
「お前たち。」
「今日から路線改編の研修が始まる。」
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「研修ですか?」
細野が聞く。
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「改編は毎年ある。」
「だが、お客様にとっては今日から新しい路線だ。」
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「運転士が迷っていたら、お客様はもっと困る。」
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「だから事前に徹底して覚える。」
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「はい!」
四人は声を揃えた。
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会議室では、新しい路線図が配られた。
大型モニターには改編後の路線図が映し出される。
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寺島主任が説明を始めた。
「今回の改編では、草49系統と上31系統も一部時刻を見直す。」
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「朝の通勤時間帯は増便。」
「昼間は利用状況に合わせて調整。」
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細野は真剣にメモを取る。
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「停留所名も変更があります。」
大森が気づく。
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「そのとおり。」
寺島は頷く。
「案内放送も変わる。」
「間違えるなよ。」
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研修後。
四人は営業所近くの休憩スペースで資料を見直していた。
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「覚えることが多いな。」
山下が頭をかく。
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「新人の頃を思い出します。」
川村が笑う。
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「確かに。」
細野も笑った。
「最初は路線図を見るだけで必死だった。」
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その時だった。
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「細野さん。」
声を掛けてきたのは、西園寺美月だった。
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「お疲れさまです。」
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「お疲れさまです。」
細野も笑顔で返す。
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「路線改編、大変そうですね。」
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「覚えることが多くて。」
細野は苦笑した。
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「でも。」
「こういう時こそ、運転士さんが頼りになります。」
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西園寺の言葉に、細野は少し照れたように笑う。
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「ありがとうございます。」
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少し離れた場所では、藤崎彩がその様子を見ていた。
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「……。」
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西園寺も藤崎の存在に気づく。
二人は目が合う。
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小さく会釈を交わす。
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互いの気持ちは分かっている。
だからこそ、仕事の場では何も変わらない。
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しかし。
二人の胸の中では、少しずつ細野への想いが大きくなっていた。
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一方、細野はそんなことにはまったく気づいていない。
頭の中は、新しい路線図でいっぱいだった。
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春のダイヤ改正まで、あとわずか。
池巣自動車営業所では、新たなスタートへ向けた準備が着々と進んでいた。
(第17話・後編へ続く)




