14話 「冬を走る、街を支える」(後編)
冬コミ当日。
まだ空が明るくなる前。
池巣自動車営業所の車庫には、すでに多くの運転士が集まっていた。
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「寒いですね。」
川村健吾が白い息を吐く。
「でも。」
細野孝太郎は担当車両を見る。
「待っているお客様がいる。」
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冬コミへ向かう人たち。
楽しみにしている人。
遠くから来る人。
大きな荷物を持った人。
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今日一日を楽しみにしている。
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「準備できました。」
大森恒一が確認を終える。
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「こちらも問題なしです。」
山下も報告する。
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細野は頷いた。
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「行きましょう。」
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臨時便出発。
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駅には多くのお客様が待っていた。
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「すごい人数ですね。」
川村が驚く。
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しかし。
細野たちは落ち着いていた。
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乗車案内。
車内確認。
発車前の安全確認。
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一つひとつ。
いつもの仕事をする。
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「足元にお気をつけください。」
「お荷物は周囲のお客様へご配慮ください。」
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川村は丁寧に案内する。
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山下は乗降時の安全を見る。
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大森は道路状況と時間を確認する。
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そして。
細野はハンドルを握る。
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新人だった頃。
想像していなかった景色。
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今。
自分たちが、その仕事を任されている。
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その時だった。
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「細野さん。」
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聞き覚えのある声。
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細野はバックミラーを見る。
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「……藤崎さん?」
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車内にいたのは、藤崎彩だった。
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「お疲れ様です。」
藤崎は笑う。
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「参加されるんですか?」
細野は少し驚く。
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「はい。」
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藤崎は少し照れながら答えた。
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「実は、好きなんです。」
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「好き?」
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「アニメやゲーム。」
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細野は目を丸くした。
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「意外でした。」
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藤崎は笑う。
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「よく言われます。」
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普段の藤崎。
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仕事では冷静。
保険の営業でも頼られる存在。
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でも。
休日には好きな作品を楽しむ一人の女性だった。
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「イベントにも来るんですね。」
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「はい。」
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「こういう場所って。」
藤崎は少し楽しそうに話す。
「普段会えない人たちが、好きなものを共有できるところが好きなんです。」
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細野は微笑んだ。
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「藤崎さんにも、そういう大切なものがあるんですね。」
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「ありますよ。」
藤崎は笑った。
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「細野さんだって。」
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「仕事以外の話、あまりしないじゃないですか。」
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細野は苦笑する。
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「確かに。」
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冬の街を走るバス。
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運転士としての細野。
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そして。
一人の人間としての細野。
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少しずつ。
藤崎は知っていく。
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冬コミ臨時便。
無事終了。
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営業所へ戻ると。
金城が4人を見る。
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「どうだった。」
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細野が答える。
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「責任の重さを感じました。」
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「でも。」
山下が続ける。
「新人の頃に見ていた先輩たちのすごさが分かりました。」
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金城は頷いた。
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「それでいい。」
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「経験した人間にしか分からないことがある。」
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「次は年末年始だ。」
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12月31日。
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池巣営業所は休むことなく動いていた。
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帰省する人。
家族に会いに行く人。
初詣へ向かう人。
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街が静かになる時間も。
バスは走る。
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「今年も終わりますね。」
川村が言う。
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「そうだな。」
細野は時計を見る。
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新人だった頃。
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右も左も分からなかった。
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でも今は。
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誰かの生活を支える仕事をしている。
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深夜。
年が変わる。
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「明けましておめでとうございます。」
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営業所で新年の挨拶が交わされる。
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金城が4人を見る。
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「今年も頼むぞ。」
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「はい。」
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細野たちは頷いた。
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新しい年。
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新しい仕事。
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そして。
まだ見ぬ経験が待っている。
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池巣自動車営業所の一年が、また始まった。
(第14話 完)




