13話 「冬の街、近づく距離」(後編)
12月24日。
クリスマスイブ。
池巣自動車営業所は、朝から慌ただしい空気に包まれていた。
駅前のイベント。
商店街の催し。
イルミネーションを見に来る人々。
普段とは違う利用者の流れ。
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「今日は忙しくなりますね。」
川村健吾が運行表を確認する。
「そうだな。」
細野孝太郎は頷いた。
「でも、やることは変わらない。」
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「安全に届ける。」
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点呼を終え、それぞれ担当車両へ向かう。
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細野の担当便。
車内には、家族連れ。
学生。
仕事帰りの人。
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楽しそうな会話が聞こえる。
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「次は、○○です。」
細野はいつも通り案内する。
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しかし。
イブの日だからこそ、注意することは多い。
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歩道を歩く人。
信号を待つ人。
写真を撮るため立ち止まる人。
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いつも以上に周囲を見る。
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夕方。
駅前はさらに混雑していた。
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「すごい人ですね。」
新人の佐伯が驚く。
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「だからこそ落ち着くんだ。」
細野は言う。
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「混んでいる時ほど、焦ったら駄目だ。」
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その言葉を、佐伯は真剣に聞いていた。
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夜。
最後の便を終える。
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営業所へ戻ると、仲間たちがいた。
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「お疲れ。」
山下が声をかける。
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「無事終わりましたね。」
大森も笑う。
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「忙しかったですけど。」
川村が言う。
「こういう日の運転って、やっぱり特別ですね。」
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細野は頷いた。
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「誰かにとって大切な一日だからな。」
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クリスマスイブ。
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多くの人の思い出を乗せて。
池巣のバスは走り続けた。
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12月25日。
クリスマス当日。
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勤務を終えた細野のスマートフォンが震える。
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『今日は少し時間ありますか?』
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藤崎彩からだった。
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待ち合わせ場所へ向かうと、藤崎が待っていた。
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「メリークリスマスです。」
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「メリークリスマス。」
細野も笑う。
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二人は落ち着いた店へ入った。
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「昨日は大変でしたね。」
藤崎が言う。
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「はい。」
細野は頷く。
「でも、無事終わってよかったです。」
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「細野さんは。」
藤崎は少し考える。
「いつもそうですね。」
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「忙しくても。」
「大変でも。」
「自分より周りを見る。」
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細野は苦笑する。
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「そんな大したことじゃないですよ。」
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藤崎は小さく笑う。
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「それ。」
「西園寺さんも言っていました。」
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細野は驚く。
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「西園寺さんが?」
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「はい。」
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藤崎はグラスを置く。
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「細野さんのそういうところ。」
「きっと、みんな好きなんだと思います。」
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細野は少し照れた。
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「ありがとうございます。」
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その後。
二人は仕事以外の話をした。
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休日の過ごし方。
好きな食べ物。
これからやってみたいこと。
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細野は気づく。
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藤崎とこんな話をするのは初めてだった。
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いつも営業所では。
仕事のできる人。
頼れる人。
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そう見ていた。
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でも今は。
一人の女性としての藤崎を少し知った気がした。
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一方。
別の日。
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藤崎と西園寺は話していた。
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「どうでしたか?」
西園寺が聞く。
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藤崎は少し笑う。
「楽しかったです。」
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「そうですか。」
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二人は笑う。
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相手の時間を否定しない。
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それでも。
気持ちは譲らない。
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そんな不思議な関係だった。
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そして。
年末へ向かう池巣営業所では、次の準備が始まっていた。
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「細野、山下、大森、川村。」
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金城恒一が4人を呼ぶ。
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「次の仕事について話がある。」
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4人は顔を見合わせる。
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「何でしょうか?」
細野が聞く。
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金城は資料を机に置いた。
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「冬コミ臨時便だ。」
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4人の表情が変わる。
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「冬コミ……?」
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金城は頷いた。
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「今年、その担当が池巣営業所に回ってきた。」
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4人はまだ知らなかった。
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新人だった頃。
遠くから見ていた大きな仕事。
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それを。
今度は自分たちが担当することになることを。
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(第14話へ続く)




