表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランスポーター✕サービス  作者: カバクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/39

13話 冬の街、近づく距離(前編)

12月。


 池巣自動車営業所の朝は、冷たい空気に包まれていた。


 車庫には、いつものように青と白のバスが並んでいる。


 吐く息は白い。


 それでも、運転士たちはいつも通り出庫準備を進めていた。


---


「寒くなりましたね。」


 川村健吾が手袋を直しながら言う。


「冬だからな。」


 山下恒一が笑う。


「でも、この時期は忙しくなるぞ。」


 大森恒一が予定表を見る。


「クリスマス、年末年始。」


「利用される方が増える時期です。」


---


 細野孝太郎は車両点検を終え、営業所の外へ目を向けた。


 駅前にはイルミネーション。


 商店街にはクリスマスの飾り。


 普段とは違う明るさに包まれた街。


---


 池巣営業所。


 下町を支える営業所。


---


 人が集まる場所へ。


 人が帰る場所へ。


 毎日バスを走らせる。


---


「細野。」


 後ろから声がした。


 振り返ると、金城恒一だった。


「忙しい時期になる。」


「はい。」


---


「こういう時ほど、基本を忘れるな。」


「確認すること。」


「安全を守ること。」


---


「分かっています。」


 細野は頷く。


---


 新人だった頃。


 同じ言葉を先輩たちから聞いていた。


---


 今では。


 自分たちが後輩へ伝える側になっている。


---


 数日後。


 営業所周辺では、クリスマスイベントの準備が始まった。


 駅前広場。


 商店街。


 地域の施設。


---


 多くの人が楽しみにしている冬の行事。


---


「臨時便も増えますね。」


 新人の佐伯直人が言う。


「そうだな。」


 細野が答える。


「でも、やることは普段と変わらない。」


---


「お客様を安全に届ける。」


---


 佐伯は真剣な表情で頷いた。


---


 12月23日。


---


 勤務を終えた細野が営業所を出ようとした時だった。


「細野さん。」


---


 振り返る。


 そこには西園寺美月が立っていた。


---


「少し、お時間ありますか?」


---


「俺ですか?」


 細野は少し驚く。


---


「はい。」


 西園寺は笑った。


「もしよかったら、食事でもどうかなと思って。」


---


 細野は時計を見る。


---


「でも……。」


---


「24日は忙しいですよね。」


 西園寺が先に言った。


---


「クリスマスイブですし。」


「営業所も大変になると思います。」


---


 細野は少し驚いた。


---


「だから。」


 西園寺は続ける。


「その前に少しだけ。」


「細野さんと話したかったんです。」


---


 二人は営業所近くの店へ向かった。


---


 仕事の話。


 熱海旅行の話。


 同期4人の話。


---


「熱海、楽しかったですね。」


 西園寺が笑う。


---


「はい。」


 細野も笑った。


「またみんなで行きたいですね。」


---


 その言葉に、西園寺は少しだけ嬉しそうな表情を見せた。


---


 細野はいつもそうだった。


---


 自分のことより。


 周りのことを考える。


---


「細野さん。」


---


「はい?」


---


「無理していませんか?」


---


「大丈夫ですよ。」


---


 西園寺は思わず笑った。


---


「やっぱり。」


---


「何がですか?」


---


「細野さん、いつもそう言います。」


---


「自分が大丈夫じゃなくても。」


---


 細野は少し黙った。


---


「……ありがとうございます。」


---


 西園寺は微笑む。


---


 この人のこういうところが。


 好きなのだと思った。


---


 その夜。


 藤崎彩と西園寺美月は、別の場所で話をしていた。


---


「23日に誘ったんですね。」


 藤崎が言う。


---


 西園寺は頷いた。


「はい。」


---


「24日は?」


---


「避けました。」


---


 藤崎は少し笑う。


「私もです。」


---


 二人は顔を見合わせた。


---


 クリスマスイブ。


 日本では特別な日。


---


 だからこそ。


 相手の時間を奪いたくなかった。


---


「細野さんらしいですね。」


 西園寺が言う。


---


「はい。」


 藤崎も頷く。


---


 二人は知っている。


---


 お互いが。


 同じ人を想っていることを。


---


 でも。


 今はまだ。


 この関係を壊したくなかった。


---


 12月24日。


 クリスマスイブ。


---


 池巣自動車営業所は、朝から忙しい一日を迎える。


---


 街の灯り。


 帰宅する人々。


 大切な時間を過ごした人たち。


---


 そのすべてを乗せて。


 池巣のバスは走る。


---


 そして。


 翌日。


 細野のもとへ、一通の連絡が届く。


---


『明日、少し食事しませんか?』


---


 送信者は。


 藤崎彩だった。


(第13話・後編へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ