12話 小さな手紙、大きな力(前編)
11月下旬。
池巣自動車営業所の朝。
冬の気配が近づき、車庫には冷たい風が吹いていた。
「寒くなってきましたね。」
川村健吾が手をこすりながら言う。
「もう冬ですね。」
大森恒一が予定表を見る。
「これから忙しくなります。」
「冬の準備か。」
細野孝太郎が頷く。
雪。
年末。
そして、多くのお客様が移動する季節。
池巣営業所にとって大切な時期だった。
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その日の昼。
事務所に一つの荷物が届いた。
「所長宛てです。」
事務員が渡す。
封筒を見ると、近くの小学校の名前が書かれていた。
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「あ。」
細野が気づく。
「職業体験の学校ですね。」
寺島主任が頷く。
「そうだ。」
「子どもたちからだろう。」
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封筒の中には、一枚一枚丁寧に書かれた手紙が入っていた。
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『バスの運転手さんへ』
『車を運転するだけだと思っていました。』
『でも、出発前に点検をしたり、お客様のことを考えたりしていると知って驚きました。』
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細野は静かに読む。
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『山下さんのお話で、安全が一番大事だと分かりました。』
『失敗しても、そこから学ぶことが大切だと思いました。』
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山下は少し照れたように笑った。
「俺の話も書いてくれたのか。」
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『大森さんの点検のお話が印象に残りました。』
『見えないところでたくさんの仕事をしていることが分かりました。』
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大森は眼鏡を直す。
「ちゃんと見ていたんですね。」
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『川村さんが言っていた、人に優しくすることを忘れません。』
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川村は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。」
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そして。
最後の手紙。
新人3人へのものだった。
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『新人の運転手さんへ』
『最初は緊張しているように見えました。』
『でも、一生懸命仕事を覚えている姿がかっこよかったです。』
『僕も何かを頑張れる人になりたいです。』
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佐伯、高木、村上は顔を見合わせる。
「自分たちのことまで……。」
高木が呟く。
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金城は静かに言った。
「見ている人は見ている。」
「仕事は、誰かに評価されるためだけにやるものじゃない。」
「でも。」
「こういう言葉は力になる。」
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その日の夕方。
細野たちは休憩室で手紙を読み返していた。
「不思議ですね。」
川村が言う。
「短い時間だったのに。」
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細野は頷く。
「でも。」
「子どもたちは、俺たちの仕事を見てくれた。」
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山下が笑う。
「責任重大だな。」
「変な運転できないぞ。」
「山下さんは特にですね。」
大森が言う。
「おい。」
いつものやり取りに笑いが広がる。
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その様子を見ていた新人3人。
佐伯が言った。
「改めて思いました。」
「運転士って、ただバスを運転する仕事じゃないんですね。」
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細野は頷いた。
「そうだ。」
「誰かの日常を支える仕事だ。」
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池巣自動車営業所。
小さな手紙が。
運転士たちの背中を、もう一度押していた。
(第12話・前編 つづく)




