11話 受け継がれる技術(前編)
11月。
池巣自動車営業所の朝は、少しずつ冬の気配を感じるようになっていた。
車庫に並ぶ青と白のバス。
吐く息が白くなる日も増えてきた。
「寒くなってきましたね。」
川村健吾が手袋をしながら言う。
「冬が近いな。」
山下恒一が空を見る。
「これから雪の可能性もあります。」
大森恒一が予定表を確認する。
「大森はもう冬の準備か。」
細野孝太郎が笑う。
「準備は早い方がいいです。」
「それは確かに。」
4人は笑った。
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その頃。
新人3人の研修は続いていた。
金城恒一の指導が始まってから、一か月。
3人の動きは少しずつ変わっていた。
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「佐伯。」
金城が声をかける。
「車両を見る時、何を考えている?」
「異常がないか確認しています。」
「それだけか?」
佐伯は少し考える。
「このバスに乗るお客様が、安全に過ごせるかです。」
金城は頷いた。
「それでいい。」
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高木は接客面で成長していた。
以前は元気な挨拶だけを意識していた。
しかし今は。
「お足元お気をつけください。」
「ゆっくりで大丈夫です。」
相手に合わせた声かけができるようになっていた。
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村上は路線への理解を深めていた。
「この交差点は夕方混みます。」
「雨の日は歩行者が増えます。」
以前の経験だけではなく、池巣の街を理解し始めていた。
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細野たちは、その成長を見ていた。
「変わりましたね。」
川村が言う。
「最初は緊張していたのに。」
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「俺たちもそうだっただろ。」
山下が笑う。
「最初はハンドル握るだけで精一杯だった。」
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その日の午後。
寺島主任から連絡が入る。
「年末に向けて、準備を始める。」
「年末ですか。」
細野が聞く。
「ああ。」
「冬は池巣営業所にとって重要な時期だ。」
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下町を走る池巣営業所。
冬になると利用者が増える。
買い物へ向かう人。
通勤する人。
帰省する人。
そして。
雪の日には、普段以上に慎重な運行が必要になる。
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「新人たちにも冬の準備をさせる。」
金城が言う。
「雪の日の運転は、技術だけでは足りない。」
「判断力が必要だ。」
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その言葉を聞いた細野は、以前のことを思い出した。
台風の日。
事故を経験した山下。
様々な出来事を乗り越えてきた。
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夕方。
車庫で新人3人が清掃をしていた。
「まだ覚えることが多いですね。」
佐伯が言う。
細野は笑う。
「俺たちも同じだった。」
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「でも。」
「分からないことがある時に聞ける環境がある。」
「それが池巣営業所の良いところだと思う。」
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夜。
営業所の灯りが消えていく。
金城は最後に新人3人へ声をかけた。
「あと一か月。」
「ここからが本当の勝負だ。」
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新人たちは頷く。
冬が近づく池巣営業所。
次の世代へ、少しずつ技術が受け継がれていた。
(第11話・後編へ続く)




