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傾きし国と天魔  作者: アンフィトリテ
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王城奪還案と、SetTransparency(0.0)

さて、ティティウス様は何を試されたのでしょうか?

 新月の闇夜ですら大したものではないと思えるほどの暗闇。

 それに囚われてしまった我は、何度か目を瞬かせ、ゆっくりと己の掌を見ようと試みて、ようやく自分の身体ですら黒く塗りつぶされてしまったかのようになっているのを理解する。

 そう、本当に光がないのだ。

 ここにせめて火種があれば、少しでも明るさを得られるのかもしれないが、それすらも許さぬような圧倒的な闇。

 まるで、冥界のようだと我は思った。


「ま、まさか……姉上の身体を復活させた代償に、もう我の命が刈られてしまったという訳では、あるまいな?」


 空気の流れは澱み、我の発する声以外何の音もしない。

 一瞬で我は、我のよく知る世界から隔絶されてしまったのだと自覚する。

 ほんの今まで、目の前におられたティティウス様の存在も感じられない。

 足元の枯れ草が揺れる気配すらも感じられない。

 こんなことが起こり得るものであろうか?


「(ごくり)」


 唾を飲み干して、足を一歩踏み進めて、我は小石を蹴る感覚を爪先に感じる。

 これは……ここは、先ほどの場所なのか?

 いや、よく考えれば、我の足元は、闇に包まれる前から不動だった。

 地揺れも何も起きておらず、身体が動かされた感覚もなかった。


 つまり、ここは先ほど我らのいた山の中腹の草地のままで、ただ我の周囲が暗闇に包まれているということなのだろうか?


「まさか……」


 我が思い浮かべたのは、先ほどティティウス様が宙に生み出された薄板。

 あの裏側の闇こそが、今我が包まれている暗闇と同じもののように思えたのだ。

 あの薄板で囲まれた空間、いや、もはや結界と言うべきであろうか、そんなものがあるのなら、間違いなくその内側は光なき冥界となるであろう。


 もしや、ティティウス様は、闇を司る悪魔、いや、天魔様なのだろうか?


 ティティウス様がおっしゃられた『プリミティブ』とは、その暗闇の世界と現世を隔絶する結界なのではないだろうか?

 だからこそ、現世のものでは、『プリミティブ』を傷付けることは叶わないのだ。


「そんな最強の結界が、これだというのか?」


 少し落ち着きを取り戻してそう呟けば、僅かに我の声が反響しているのを感じる。

 視覚では、どこまでも広がっているように感じる暗闇ではあるが、どうやらそれほど広くはないらしい。


 そう、ティティウス様は『試す』とおっしゃったのだ。


 別に本気で何かをされようとしていた訳ではあるまい。

 きっとすぐに解いて頂けると……そう信じて、我は手を目の前に空間に伸ばして、更に数歩足を進めた。

 指先に触れる、つるっとした感触。

 あの灰色の薄板と同じ肌ざわりに、我はホッとする。


「んっ!!」


 次の瞬間、暗闇はパアッと解かれ、信じられぬほどの光量に、我は目を細め、顔を背けた。






 アイリャちゃんが平面STLモデル五面で囲まれた世界から帰還する。

 どうやらうまくいったようだ。

 先ほどは、STLモデルと環境オブジェクト間のコリジョンディテクションが働いてしまっていたけれど、今度はそれを外したので、物理破壊なく地面に突き刺すこともできた。


「どう、出られなかったでしょう?」


「は、はあ……」


 不透明でライト配置もない、ポリゴンの裏面に囲まれた世界。

 そんな暗闇から戻ったせいか、アイリャちゃんは周囲が眩しくて仕方がないらしく、目を細めながら周囲を窺っている。

 アイリャちゃんがあの裏面側から出られなかったということは、少なくともNPCとポリゴンの裏面のコリジョンディテクションは作用していて、物理的な閉じ込めが可能という訳だ。

 つまり、王城にいる敵兵たちをこのSTLモデルで取り囲んで捕まえることも可能ということになるだろう。


 うん、我ながらナイスアイデア。


 僕は何とも言えない満足感を覚えながら、アイリャちゃんを眺める。

 すると、こちらを真剣な眼で見つめ返してくるアイリャちゃん。


「ひ、一つ、伺いたい。

 ティティウス様は、もしかすると、この国を暗闇に包むことすらできるのであろうか?」


 あー、今のヤツね。

 単純な平面モデル、ポリゴン数は変えないままでも、構成する頂点座標を巨大にすれば、この国そのものも真っ暗闇に包むことは可能かな。

 複数ユーザーが入っているときにそんなことしたら、レンダリング処理に影響が出るかもしれないけれど……いや、このワールドだって夜くらいあるんだし、空に平面一枚あるくらいじゃ大した負荷にもならないか。


「可能ですよ」


「か、可能であるのか……」


 何顔色をなくして震えているんだろう?


「何なら、アンペラを丸ごと真っ暗にしてみましょうか?」


「ぃ、いやいやいや、遠慮したい!!

 絶対に、遠慮する!!」


 手をぶんぶん左右に振って、すごいリアクション。


「そうですか?

 まあ、いいでしょう」


 あからさまにホッとしてるなあ。


「ほぅ……そ、それで、ティティウス様、そのプリミティブとやらで、王城を何とかして頂けるのであろうか?」


「どうしてそう思いました?」


「なぜなら……我が王城の話をさせて頂いた際に、急にプリミティブを試されたからだ」


「正解です。

 わたしがちゃちゃっとアレで、敵兵さんたちを捕まえてきちゃいましょう」


「よ、よろしいので?」


 なんでそんなに警戒心も露わに訊いてくるのかな?


「いいですよ、それくらい」


「うぅ、かたじけない……。

 あと、伝え忘れておったのだが、王城奪還まで、ティティウス様に姿をお隠し頂くことは可能であろうか?」


 ああ、今の時点でみんなに見られるとまずいというあの話ね。

 普通に“SetTransparency(0.0)”すればいいよね?

 ささっとやっちゃうか。


「はい、これでどうでしょうか?」


「はわっ!??」


 唐突に管理者用アバターを透明にしたせいか、アイリャちゃんが目を見開いて驚いている。

 日本人らしくないオーバーリアクションが楽しい。


「てぃ、ティティウス様、そこに、ぉ、おられるので?」


「いますよ」


「し、信じられぬ……まさか、本当にお姿を透明にできるとは。

 ……いや、最初から、何もないところに現れておられたし……そういうもの、なのであろうか?」


 アイリャちゃんが呆然としながらプルプル震えているのを眺めながら、僕は王城奪還に向けたコードをシェルに打ち込んでいったのだった。






 まさか……姿を隠しておいて欲しいと頼んだすぐそばから身体を透明にされるとは。

 別にそういうつもりで頼んだ訳ではなかったのだが、これならこれでよいのであろうか?

 それにしても、姉上の心の臓が捧げられてから、現実とは思えないことばかりが起こる。

 今も白昼夢を見ているのではないかとばかり思ってしまうのだが、プリミティブとやらが破壊した痕跡はそのままそこにあるのだ。


 そう、この目の前でも、メキメキ、バサッと折れかけたまま残っていた枯れ木が倒れ、その向こうから……ぬぬっ!?

 サンチェロか!?


「殿下っ、王妹殿下っ!!

 ご無事ですか!??」


 直轄兵と共に倒れた枝や幹を取り払いながら、サンチェロがこちらに進んでくるのが見える。


「サンチェロ、我は無事だ」


「はあっ、それはようございました。

 そちらからっ、敵兵は見えませんでしょうか?」


 息を切らしながら、サンチェロが叫ぶ。


「見えぬな」


「そ、そうでございますか!

 いや、こちらは見ての通り、攻撃を受けたところです。

 すぐにこちらにお戻りください」


 ああ、ティティウス様のプリミティブが詰め所傍の林をなぎ倒し、巨石を破壊したからな。

 あれは攻撃としか思われぬであろう。

 考えてみれば、詰め所が大混乱に陥ってもおかしくはない。


 ティティウス様のほんの『お試し』程度でこの事態。

 ティティウス様が本気を出されたら、一体どんなことになるのであろう?


「はあ、はあ、まさか、殿下が少し離れられたところで攻撃を受けるとは!

 殿下はご覧になられましたか?」


 最後の障害になっていた枝葉を直轄兵に片付けさせながら、サンチェロが真っ先に駆けつけてくる。


「ああ、何やら石の板のようなものが飛んでくるのが見えたな」


「やはり、そうでございますか!

 見張りが薄い灰色のような何かが木々をなぎ倒し、岩をも砕いたと報告してきたのですが、薄い訳がございませんな」


 見張りの兵、すまぬ。

 厚みすらあるように思えぬほど薄い何かではあるが、気が触れたと思われそうでとても真実を言えぬ。


「どこから攻撃してきたかも不明ですが、帝国の新たな攻城兵器か何かでしょうか?

 まさか、ここが狙われるとは、すぐに逃げなければ!」


「ははは……」


 街道からこんな山の中腹まで狙えるような攻城兵器があってたまるか!

 そんなものは人の手で作れるものではないのだ。

 実際動かされたのは僅かな距離とはいえ、林の木々を容易になぎ倒し、巨石を砕くなど、天魔のティティウス様であるからこそ、なしえたことであろう。

 まあ、我もティティウス様にお会いしなければ、そんなことができるとはつゆほども思わなかったであろうが。


「はあ、殿下に一人にして欲しいと言われたとはいえ、近傍警護のプエルトが目を離しているとは。

 後で厳罰に処しておきます」


「はあ、プエルトには悪いことをした。

 別に構わぬ、今はそれよりも王城奪還を考えねばならぬであろう」


「よろしいのですか?」


 サンチェロは真面目過ぎるな。

 というか、宰相補佐としては我の上司なのだがな。

 王位継承権やら、王妹であることを気にし過ぎだな。


「よい!」


「ははっ、承知しました。

 何はともあれ、この詰め所は廃棄です。

 すぐに別の場所に移らなければ」


 サンチェロはまた帝国兵に攻撃されると思っておるのか、かなり神経質に周囲の様子を窺っている。

 まあ、ティティウス様がその気にならば、我らを一瞬で全滅できるであろうから、正しいと言えば正しいのかもしれない。


「分かった。

 移動しながらでよいので、工作兵の侵入経路が分かったなら教えてくれ」


 我は一度ティティウス様がいらっしゃるのであろう場所を振り返ってから、サンチェロに告げた。

 本当に頼む、ティティウス様。

 神頼みではないが、王城を何とかして頂けるのであれば、拝み倒したいくらいだ。

 我の魂と寿命がどれほど削られるのかは分からないが、今はティティウス様に全てを委ねたい、そんな気持ちだった。

ベーシックなCG知識で、このワールドにとんでもないことを引き起こそうとしているティティウス様。

本当にうまくいくのでしょうか?

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