煉瓦倉庫(小)と、SetPosition
よく分からないサブタイトルかと思いますが、お読み頂けますと幸いです。
「何、工作兵が山越えして、チルガ方面から入ってきただと!?」
我は、次の拠点へ移動しながら、サンチェロから収集したての情報を聞いていた。
王城に侵入したグスコ帝国の工作兵は、帝国に繋がるガルカ街道ではなく、我が国の北西に位置するセバウア王国と隣接するチルガへのチルガ街道から入ってきたというのか!
これは驚きだ。
いくら西に通じるガルカ街道と、北西に通じるチルガ街道が比較的近い位置関係にあるとはいえ、各街道はサウア山脈の谷間を縫うように作られ、街道間には険しい山々が聳え立っているのだから。
街道から街道に抜けることが無理とは言わない。
とはいえ、二百の工作兵を山越えさせるとは……帝国の工作兵はよほどの精鋭揃いなのだろう。
「はあ、それでやすやすと王都侵入を許してしまった訳か」
「以前からきな臭い動きのあった帝国方面ならともかく、セバウア王国とは比較的良好な関係が続いておりましたからな。
チルガ街道方面の監視は緩んでおりましたし、まさに虚を衝かれたと言えましょう」
しかも、元々国境防備優先の我が国は、国境付近に兵が集中している。
帝国との国境に張り付かせたガルカの兵数が二千、それを助けるために、王都周辺の兵千を送り出したが、それにより王都の警備が手薄になったところを帝国の工作兵にチルガ街道側から攻められるとは!
今やガルカの兵は寝返り、姉上と一緒に向かった兵たちも甚大な被害を受け、敗走中という訳か。
まさに絶望的だな。
「天然の要塞と、胡坐をかいておった結果がこれか」
三大国、どちらから攻められても、国境からサウア山脈の街道に入り、隊列が間延びしたところを山側狙えば、数で勝てぬとも兵法で勝てる。
そのはずであったから、王都、王城にはろくな備えがない。
まだせめて王都の兵が温存できていれば、王都直前の峡谷で狙い撃ちできたものを。
今や王城の兵もどれほど残っているやら。
「まずは王城を取り戻さねば、王都防衛もままならぬか」
「そうでございますな」
サンチェロの表情は硬い。
まあ、当然であろう。
ティティウス様がおられなければ、王城奪還など不可能に近いのだから。
しかし、帝国の工作兵はどうするつもりであろうな?
敗走して戻ってくるとはいえ、王都の兵が戻ってくれば、彼らも精鋭揃いだろうと容易には打ち破れまい。
宝物庫を荒らしてそのまま一度領界か、王都周辺まで逃げるつもりであろうか?
「まあ、彼らの狙いが即位の儀に使う宝物ならば、長居はしまい。
我らは、彼らが王城から立ち去るまで待つしかないであろうな」
「そうでございますな。
しかし……先ほど兵器、帝国の工作兵は、どこから我らを監視していたのやら。
油断はできませんぞ」
「大丈夫だ。
さすがの彼らも東のビルゴ街道側にはちょっかいを出せまい。
何しろ、帝国にも食糧を供給しているソネア王国に通じる街道だ。
我が国にもソネア王国の密偵はいるであろうし、ソネア王国からの商隊に被害が出るような動きはとれるはずがない」
「それは分かりますがな。
最悪の場合、帝国が事前に自国の動きを黙認するようソネア王国と接触していた可能性も否定はできませんからな」
「なるほど」
確かに、国の規模を考えれば、帝国が我がアンパタ小王国を占領したとしても、ソネア王国に喧嘩は売れない。
しかも、食糧問題を考えれば、絶対にソネア王国を敵にまわせないのだ。
それならば、事前に下手に出て、ソネア王国に黙認するよう頼み込む可能性もある訳か。
さすがはサンチェロ、慎重だな。
とはいえ、サンチェロは、ティティウス様の動きは知らない。
ティティウス様のプリミティブがどれほどのものかも知らないのだ。
まあ、我もティティウス様が王城奪還でどのように動かれるかは分からぬが、ビルゴ街道を見張る詰所から拝見させて頂くより他にあるまい。
「殿下、どうされたのです?
先ほどの帝国の攻撃から、やけに落ち着かれているようでございますが」
「まあ、見ていれば分かる。
取り合えず、連絡が付いている王都の警備兵には、捕縛の準備を指示しておいてくれ。
数は最大二百だ」
「……本気でございますか?
捕縛とは、帝国の工作兵を……ということで?」
「ああ」
サンチェロが怪訝な表情で我を見る。
まあ、仕方のないことであろうな。
「それより、王都内に滞在中の各国の商隊は?」
「そちらは……帝国の工作兵を見て、すぐさま逃げ出したようですな。
我が国の商会も、さぞや混乱していることでしょう」
ふむ、他国の商隊は、ビルゴ街道、チルガ街道、カンチャ街道のどれかに逃げ出したのであろうな。
チルガ街道は最悪、撤退するグスコの工作兵と一緒になってしまう可能性もあるが、まあ連中もさすがに他国の商隊にちょっかいは出さないだろう。
しかし、この状態が長く続くと、我が国の食糧事情も一気に悪化しかねん。
ティティウス様、本当にお頼み申し上げるぞ。
我は、心の中で天魔であるティティウス様にもう一度拝み倒すのだった。
僕はアバターを透明化させたまま、“Translate”コマンドで王都アンペラ上空を移動していた。
オケラスのおかげで立体視できるとはいえ、Goggles Earthで都市上空を移動するのと変わらず、恐怖感は全くない。
最初のスカイダイビング体験は、空中でぐるぐる回って少し恐怖感はあったけれど、直線的に移動していると、Googles Earthと変わらないな。
さて、王都アンペラ、ビューワーではなく、オケラスで見てみるとなかなか立派だ。
作り込みがすごい。
石や日干し煉瓦で作られた都市。
屋根が赤茶色で統一されていて遠目には綺麗だ。
目を凝らしてみると、白い壁面に凝った造りの扉や建物の装飾があって、古めの建物は塗料が剥げかけているのがリアル過ぎる。
前に谷田さんからAIの話をしてもらったけれど、やはりAIでテクスチャを自動生成していたりするんだろう。
おっと、こうしている場合じゃないな。
王城だっけ?
街の中央部にある、これか。
元々山に囲まれた土地があるためか、ヨーロッパの城壁都市のような城壁はない。
これは……土塁っていうのかな?
まあ、一部日干し煉瓦も積み上げてある、気持ち程度の二段の土塁に囲まれている。
これじゃあ、越えようと思えば、越えられるよね。
普段なら見張りの兵士なんかに、不審者はすぐ捕まえられちゃうんだろうけれど。
「もう少し近付いてみるか」
シェルで移動ステップを変更しつつ、王城に近付く。
小さな塔がいくつかあり、かまぼこ型の屋根がちょこんとのっている。
赤茶色の屋根瓦は街の方と変わらない。
まあ、でも小さいなお城だな。
せいぜい高くて三階建てくらい。
ヨーロッパとは違う文化圏を感じさせる造りは、社長さんの趣味なんだろう。
何にせよ、僕好みだ。
「お……」
土塁内の広い王城の敷地には、幾人もの人たちが倒れているのが見える。
これは……アンパタ側の兵士なのかな?
うう、僕、こういう血生臭いのは苦手なんだよね。
近寄らずにさっさと捕まえちゃおう。
既にクラウドには、平面のSTLとは別に、以前僕が作った横浜の煉瓦倉庫(小)風のSTLモデルをアップしてある。
まあ、適当に作った代物なので、テクスチャーは貼ってないし、窓も作り込んであるようで穴は開いていないので、内部は真っ暗だ。
どうせならまとめて捕まえられたらいいなあ。
と思っていると、おそらく王様がいそうなお城本体傍にある上から見て丸い形の建物付近に、アンパタの兵たちとは違う鎧を着た兵士を見付けた。
「ふーん、これが敵兵さんかあ」
建物を取り囲んで……これは守っている?
ああ、中で何かをしている仲間の兵士のために建物を確保している感じなのかな?
お城側からアンパタの兵が様子を窺がっている様子も見える。
王城の入口からかなりの兵がやられてしまったのもあって、うかつに手を出せないって感じなのかな?
おっ、丸い建物から敵兵たちがうじゃうじゃ出てきた!
何かを囲って、うん、統率された動きで運んでいる?
一緒に建物を守っていた敵兵たちも動き出した。
どうやらお目当てのものを手に入れたので撤退、という感じなんだろうか?
空から見ていると、敵兵さんとはいえ、きびきびした動きがすごい。
これもAIで動かしているんだろうか?
王城突入で敵兵にも被害は出ているんだろうけれど、本当に二百、百五十人くらいはいそうだ。
さーて、どっちに向かうかな。
おっ、土塁内の広場的なスペースに向かってる。
煉瓦倉庫を配置するにはベストなところだよね。
ぐふふ、じゃあ、早速ピンを置いちゃおう。
平面STLだけでも面白かったけれど、建物のSTL配置したらどうなるか?
僕は、オケラスを一度外し、同期させているビューワで広場に煉瓦倉庫のサイズも確認しながらピンを打つ。
シェルでピンIDに“SetPosition”して……うん、後は“Update”すれば、ワールド内に横浜煉瓦倉庫(小)が出現するだろう。
「よし、いけいけ」
こういう戦い方は、谷田さんたちも想定していないだろうなあ。
まあ、今回は開発中止のプロジェクトってことだし、自重はしませんよっと!
うふふ、敵兵は何も知らずにぞろぞろと広場の方にやってくる。
いいよ、いいよー、ウェルカム!
想定している煉瓦倉庫範囲にほぼ全員が入ったところで、僕はエンターキーを押した。
ボムッ!
「あれ?」
……爆発?
じゃなくて、白い砂埃が立ち上り、出現させたはずの灰色の煉瓦倉庫が隠れてしまう。
そして、捉え損ねた敵兵さん二名が吹っ飛ばされて……転がっていく?
「あ、もしかして……」
しまった……環境オブジェクトとの判定切ってなかったから、何かの物理シミュレーションが働いちゃった?
もしかして、これ、出現した煉瓦倉庫分の空間の空気が押し退けられてって、感じかな?
あははは、やっちゃった。
まあ、今度からは気を付けよう。
ビルゴ街道を監視する詰所へと山の中腹を移動していた我らが、木々の少なくなったところを小走りで移動していたところ、王都からボムッという、とんでもない音が聞こえた。
王都を取り囲む山々からもそのこだまが聞こえ、反響していくのが分かるが、こんな大音響は初めてだった。
「な、何事だ!??」
我の傍にいたサンチェロが激しく動揺しながら、屈み込み王都の様子を窺がう。
兵士たちもサンチェロに続いて身を屈めた
我も、茫然となりながら、王都の方を見詰める。
王都の、王城内から立ち上っていく白煙。
間違いなくティティウス様が何かをなされたのだろう。
さて、一体何が起きたというのか?
「(ごくり)」
我が白煙立て込める王城の方を凝視しておると、サンチェロが周囲を見回しながら
「だ、誰か、王城の方を見ていた者はいないか?」
と大声で尋ねる。
すると、普段斥候をしている兵が手を挙げた。
「わ、わたしが見ておりました!」
「話せ」
「わたしの目が確かならば、王城内より、グスコ帝国の工作兵が集団で出てくるのが見えました」
「何!?」
サンチェロは、グスコの工作兵が王城に何かをしたのかと思ったのだろう。
顔を真っ青にして、斥候の兵の肩を掴む。
「まさかっ、連中は我らの王城を破壊したのかっ!?」
「ぃ、いえ、分かりません。
ただ、工作兵のいた辺りで白煙が上がったのようなのです」
「宰相閣下、け、煙が晴れて……あ、あれは!」
別の兵の言葉に、我ももう一度王城の方を見る。
あれは………!???
「な、なななぁっ!???」
信じられぬ光景に、我は思わず叫び声をあげてしまう。
プリミティブ、灰色の薄板なら見た。
それが最強の結界になり得ることも知った。
だが、あれは何なのだ!???
プリミティブの薄板と同じ灰色の立派な建物が王城の敷地内に建っておった。
普段直轄兵が訓練に使っている平地に、いきなり見たこともない様式の大きい建物が建っておったのだ!!
「な、何だ、あれは………」
我の傍で、サンチェロがすくっと立ち上がり、すぐさま貧血を起こしたように倒れ込む。
傍にいた斥候の兵が支えるが、その兵も、あり得ない景色に言葉を失っているようだ。
一息吐く間もない間に、我が王城よりも立派で横に長い建物が建つ。
常識では決してあり得ないことなのだ。
そう、天魔のティティウス様さえ関わらなければ。
「まさか……」
そして、我はようやく気が付く。
あの建物がプリミティブであるならば、きっとあの中に囚われた者は、我が見たものと同じものを見ているであろうということに。
王城内からグスコの工作兵が消え、あの建物が現れた以上、工作兵たちは、あの冥界のごとき真の暗闇に囚われてしまったということなのだ。
「くっくっく、そういうことであったか」
「で、殿下?」
一度アレの中に囚われたからこそ、ヤツらに少しばかり同情してしまいそうになる。
いきなりあの光なき世界に囚われ、剣を使おうが、岩を投げ付けようが決して破壊できぬ結界内に閉じ込められてしまったヤツら。
ティティウス様がこれからどのようになさるか知らないが、半日もあの中におることになれば、それだけで発狂してもおかしくないだろう。
いや、突然視界を奪われたヤツらは混乱のあまり同士討ちを始めているかもしれんな。
我が王国を滅ぼそうとした連中に一矢報いることができたかと思うと、我は悪魔ような黒い笑いを止められなくなっていた。
はい、自重をやめたティティウス君、まあ今回はテスターではないので、どんどんやらかして欲しいですね!




