第9話 覚醒の力
◇第9話 覚醒の力
いよいよ覚醒の力を披露する機会がきた。
(ゴーヤ、カレン実験するから協力してくれ)
(いいわよー)
(一対二の実践したい、武器は木剣で頼む。ゴーヤは正面で実戦形式の攻撃でやってくれ、カレンは後方からの攻撃を頼む、風切りや気弾でも弓でも好きな攻撃でいい)
(ユーキはゴーキの対処をお願いする、みんな手加減なしの全力で頼むよ)
ゴーキの長剣を正面に持ち、切先を相手の顔に向けて構える。
ユーキは刀を立てて右手側に寄せ、左足を前に出して構える、剣道の『八双』の構えだ。
二人はにじり寄り間合いに入った瞬間、ユーキが斜めに振り下ろす『袈裟懸け』を繰り出す、すかさずゴーキは右手を刃先持ち変えて受けきった。互いに剣を繰り出しカンカンと打ち合う音が続く。
(互いに、いい動きしてる)
二人の動きが止まりつばぜり合い始めた。
剣戟が止まる、その一瞬の間にゴーキの右手がユーキの胸に当て気衝の技を放った。
剣を受けてからの気衝の発動に無駄が少ない、いい動きだ。
『バーン』と音が鳴りユーキの体は後ろに特大に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたユーキは綺麗に着地した、地面についた瞬間に半回転し、振り向きざまに風切りを放った。『バン』の音と共にカレンの放った渾身の気弾が砕かれた。
(まぁまぁ かな?)
二人が駆けてきた。
「僕の体すごく飛んだ気がします、足の裏が爆発したように感じた。あれ跳躍だ!」
「俺も気衝が効いた感触ない、ユーキは勝手に飛んで行ったように見えたぜ」
「それより、何で後ろ見ないでいきなり風切り出したのか知りたいわ。あれも防いでいるでしょ?」
三人は矢継ぎ早に聞いてきた。解説してやるか。
(二人の攻撃を止まった時、ゴーキが右手をユーキの方に向けそうに見えたからね。気衝を放つ予感がしたんだ)
(気衝が当たる前に足の裏から地面に気衝を放ち、その反動で後方に飛んだ。万が一の保険を掛けて上半身に気装壁も張ったけど上手くいった)
「あれ飛んだように見える。それで飛べるの?・・・・・・飛べるんだ、浪漫感じるじゃん」
(飛ぶは大袈裟だけど、気衝の加減が難しいが背丈の3倍くらいなら跳躍出来るはず。気衝は応用幅が広い。足の負担が大きいけど、素早く動く瞬足や直角に移動とかもあるよ)
「瞬足に直角かー面白そうね、けど飛ぶほど浪漫はないわね、それより私の質問に答えてくれる」
(はいはい。カレンが気弾を放ったの感じていたんだ、だからユーキに教え振り向きざまで風切りの刃を出して切った。同時に左手に気装壁を作って石つぶてを掴む、こっちは俺がやったからユーキは知らないだろうけどね)
左手から石つぶて出して見せた。
「バレてたんだ、ガッテム!」
「僕 全然知らないです、いつの間にか操られているんですか? 不安です」
(そう青い顔をするな!普段はしないから安心しろ。命の危機の時はすかも知れないけど、もしあっても無意識に体が動いてるとでも思って慣れてくれな)
「聞いてると戦いは一対二じゃなく、二対二だよな、いやそれ以上に感じたぜ」
「確かに三人分くらいの動きあるかも。でたらめで予測不能な動きだし、別々に手足を自由に動かせるし、錬気も別々に出せるなんて人類止めてる、もう人の領域じゃないわ」
確かに人の脳に住むなんて人外だよな。
いや、まてまて、そもそも肉体がないのだから、『人』の括りに入れること自体おかしい気もする。
「ユーキ! おめー化けもんだぜ」
「ぼ、ぼくは化けもんじゃない」
キラキラした瞳でカレンが迫ってくる。
「タロー 何なら私の体に来てもいいわよ。結構好きだし、一緒に住むのも悪くない。いい相棒になると思うんだけど、どうかしら・・・」
(う、嬉しいお誘いだけど、同期同調してしまった今では無理だよ)
「何てこった 残念!」
何考えてるだよ、噛んだし焦ってしまったじゃねーか。
女の子と一緒に住むなんて勘弁して欲しい。ちょっと覗くくらい・・・いやいい
実験は成功した、覚醒の方も練度が上がれば自由自在に動けるはず、また楽しみが増えた。
全員招集があり講堂に集まることになった。
壇上に院長ほか責任者が揃っている。
「今日集まってもらったのは年明けの武術大会へ向けて出場順位を決める日の発表です」
「ではヴォーグ教官 説明、お願いします」
「さて順位付けの模擬試験を冬節12月5日に行います。順位が高いほど大会で有利な組み合わせになるのは例年通りです、年少組の14期生以上は大会含め見学にりますが先輩をみて勉強してく下さい」
「模擬試験の科目は「剣装」と「気装・壁」の2つ、成績上位16名が出場権を貰えます。それ以外の人達は本大会の予選にまわってもらいます。残った全員で予選を戦い16名を選出します、本戦は合計32名で勝ち抜き戦を行う予定です」
「参加者は武闘系志望者が多く90名、その他の30名ほどと合わせて120名くらいの参加になる予定してます。予選は、だいたい3回戦を勝ち上がれば本戦出場となるでしょう。模擬試験まで半年ほどありますから剣装と気装壁の鍛錬しっかり強化するよにして臨んで下さい」
「剣装」と「気装」の両方となれば対象は13期生以下からになる。錬気の練習は7歳児から始めるが本格的な訓練は8歳児からになるからだ。これは身体的の問題だ、未熟な体で無理な鍛錬は将来に悪影響が出やすいことが分かっている。しかし訓練1年未満の13期生が経験年数の多い年中者や年長者と戦って勝ち抜くのは難しい。けど年数が多ければ強いとも言えない、錬気は「気合いだ」なんて言ってる指導では練度も上がりにくい人も出くいる。
そこに一縷の望みを期待している。年少組の13、12期生は32人枠に組込むのは難しいだろう。
「それでは普段の実力を発揮できるよう頑張りましょう」
院長の発案で特待生は20名ほど選ばれている。実はユーキ達もそうだったが、ユーキは夜徘徊するようになった後に指定が外れ、カレンも眠り病になった後、ゴーキは何故か一緒に外された。
特待生は14、15期生はゼロだが、他は年齢ごとに2、3名前後を指定している、大半の人間は補助脳持ちが多い。
院長が指定する意味や意図はあるのだろう、ただ、そこに嫌な悪意を感じるているが。
院長は毎月講師を呼んで特待生を個別指導している、つまり英才教育を施している。
特待生の強い連中は仲間同志で12人ほどの集団を作り訓練している。(特待生のときもユーキ達は入ってなかった)
模擬試験でユーキ達が16位内に入るのは厳しい、経験や実力で勝る年長の特待生が上位を占めることになるだろう。
同期の悪ガキのヴィクター、ペーターが話しかけてきた。
「ようー ユーキ元気にしてるか? いつも、いつもの落ちこぼれ3人が集まってるな」
「ヴィクター いつも会ってるだろう。急に何が言いたいんだ」
「なぁーに 忠告してあげようと思ってな。去年の俺様とは違うぜ、年長者に毎日鍛えてもらってるからな、お前なんか目じゃないぞ」
ヴィクターはユーキに何かと突っかかってきた。去年の7歳児の時、模擬戦をする羽目になり結果ボコボコしてやった。実際は余りに弱くて軽くあしらってただけだが、本人はボコボコにされたと逆恨みしている。
「へぇー 凄く強くなったんだ、頑張ってるんだね?」
「お前も大会は出場するんだろう。俺と対戦するときは間違って怪我させちまうかも知れねーから勘弁しろよ、何なら土下座でもしたら手加減してやるぜ。ハハハ」
「ヴィクターよ、元特待生とはいえ、こいつら集まるしか能のない連中だぜ。俺達が本気でやったら手も足もでねーぜ、腕の1本くらいで我慢しときなよ」
「それも、そうーだな ハハハ」
カレンが寄って来て。
「しっ、しっ 邪魔よ!」
悪ガキ達は舌打ちして退散して行った。
「ユーキ 何か言われたの?」
「さぁー 意味不明のこと話してたけど、何が言いたかったのか分からないよ」
悪いことをしたと思っていないユーキは、土下座も腕の1本も全く理解の外だったのだ。
「さぁー練習に行こう」
いつもの第三区教練場に戻って来た、教練場は野球場の3個分以上の大きさもあり、場所の取り合いは起こらないほど広い。悪く言えば、要は普通の原っぱかな。林もあり小川も流れている、宿舎からも遠く訓練する人はまず来ない、だから自由に好き放題にできるのだ。
ユーキ達は人目に付きにくい場所の第三区教練場を練習の場に選んでいた。
「タロー これから如何しようか?」
「模擬試験まで6ヵ月ほどあるけど、目指すなら16位だぜ」
「いやいや アンタ! 現実見えてるの? そんなの無理に決まってるでしょ!」
「そうかなー 頑張れば行けそうに見えるけどな・・・」
「こんなバカに構っていられないわ、タローは何かいい考えない?」
(そうだなー 年長者の実力を見たことないから何とも言えないが、まずは剣装と気装の鍛錬はやって損はないだろう。大会なら格闘術、瞬歩や跳躍の練習も必要かな、長い年月をかけ鍛錬すればするほど実戦で役に立つ技になるし、敵に当たった場合は絶対必要になる)
「わぁーやること増えてるじゃない。 頑張っても優勝する人は決まってるけどねー」
「決まってるのかよ! でも、そんなに、めちゃくちゃ強い年長者いたか? 特待生ABか」
「いないわよバカね。 ユーキとタローに決まってるでしょ!」
「アァー 成程~そうかー 確かに、納得だぜ!」
「えええええー ぼ、僕が優勝するの?」
(おいおい、俺は参加しないぞ)
あと半年あればユーキも成長するだろうから俺と組めば優勝も夢でない。
「えーっ タローは参加しないの、折角優勝出来るかも知れないのに勿体ないじゃない」
(そんな事して目立ちたくないし、まずユーキの為にならないだろう)
「私達だけで戦うなら俄然面白くなってきたわよ、優勝は全然無理でも予選突破は頑張ろうかな。それなら、いーい三人で一番いい成績を争うのってどうかしら?」
「いいね、いいね、俺ものったぜー」
「僕も頑張ろう~」
三人はタローが参加しないことで俄然盛り上がってきた。
(よし 一番頑張った人に何か景品でも用意しようか?)
「えっ タロー そんなこともできるの? 不思議だわ・・・」
(まぁーな 期待していてくれ!)
「オッシャー!」
不思議がるもの無理はない、孤児院でお金を稼ぐ方法はないからだ。小遣いも支給されない。
エゾ商会の孤児院は最低限の生活と将来の職を約束してくれる、その存在は大陸で有名だった。
一般に孤児は雇ってくれない、確かな人物の紹介でもなければまずない。商会や店は普通の平民も雇わない大抵は身内か親戚の人間を頼る、いなければ従業員の身内を頼る。更にいなければ他の商会や店に紹介してもらう。就てのない平民はまず就職できない、孤児なら尚更無理だ。
街に組織だった警察はないため治安は悪い、衛兵や兵士が片手間にやっている。殺人や大事件でもなければ捜査はしない、小さな犯罪の捜査は人員が少ないためやりたくても出来ない事情がある。
領主や国の基本は『自分の身は自分で守れ』の姿勢だ、自分の店も自分で守る必要がある。従業員も不確かな者を雇うはずはない、万が一店のお金や商品を持ち逃げされても捕まえることはできず取り返すこともできない。
平民の子は親の仕事を引き継ぐのが一般的で、他の職に就くとは稀にしかなかった。
それにあぶれた者や流れの者は、剣が使えるなら冒険者ならまだいい方で大抵は傭兵になる。後は港湾や倉庫の荷役人、土方作業員、炭鉱夫などの日雇い労働者になる。
最悪は暴力集団に加わるしかない、更に悪い奴は山賊や盗賊になる者もいる。もう職業といえない状況だ。
この世界は甘くない世知辛い。
エゾ商会の孤児院は特殊だ、農作業はあるとはいえ仕事や文字を教えてくれる。この世界の識字率は平民で10%以下だ、そもそも義務教育の学校がないから当然だろう。商会や店の丁稚すらなれないから仕事も覚えられない。やる気の問題でない。
入所する条件は厳しい、孤児であることは必須だが他にも条件はある。5歳児以下もその1つ、それ以上になると入所は特殊な例を除けばない。まず適正か孤児の身辺を徹底的調べる、稀に偽って入所させよとする輩がでてくる。入所できれば大陸随一のエゾ商会組合に就職できるのだ、よこしまな考えをもつ親はどこにでもいる。みつかれば強制退所になり、エゾ商会組合だけでなく取引関連の商会や店まで働けなくなる。
孤児以外は入所できないが特例もある、孤児院に勤務してる教官や職員の子供は無条件で入所できる。
孤児なのに将来は明るい未来が待っている。なんと素晴らしいことか・・・
よし景品を用意するため、明日からまた頑張ろう。




