治療とお姫様
お待たせしやした!
「それで蒼眞、何故お前はこんなところに?」
「あぁ、アルとウルが何かを察知したらしくてな。気になって来てみたらあんたらが襲われてたって訳だ」
「「グルル」」
「なるほどな…」
俺の言葉を肯定するように唸るアルとウルを見て、ゲルグは納得するように頷いていた。
「それよりも怪我人は大丈夫なのか?」
さっきの戦闘でバッサリ切られた奴もいたみたいだし、結構ヤバくないか?
「正直、辛いところだ。今は低級回復薬しか持ち合わせが無くてな、応急手当てしかできないのが現状だ。早く街に向かわないといけないが、馬がさっきの戦闘で怪我をして、一匹が死んじまってな…」
説明をするゲルグの声は少し震えていた。自分の隊の部下が死ぬかもしれないのだ。その苦痛は想像に難くない。
「見せてもらえるか?もしかすれば治せるかもしれない」
「……もしや、回復魔法を?」
「そんなところだ」
伺うような表情をしながらゲルグはこちらに視線を向ける。俺はその視線を真っ向から受け止める。
「頼む、何人かは今すぐ治療しないと間に合わない奴もいるんだ」
「おう、全力を尽くすよ」
ゲルグに連れられて怪我人が集まるところへ向かう。向かっている間に頭にある魔法の使い方に目を通す。
えーと、魔法に必要なのは、詠唱・魔源・魔法陣の3つ。段取りはーーー
自分の体内の魔源を大気に存在する魔源に接続して魔法陣を作る。
自分のイメージを詠唱で具体的にしながら体内の魔源に乗せて魔法陣へ放出する。
魔法陣に充分な魔源を貯めたら魔法名を発する。
魔法発動。
ーーーになるわけか。
ん?イメージって事は…。
(もしかして魔法って人によって効果が違うのか?)
『そうだよ、魔法はイメージだからね。大元の魔法陣自体はそれぞれの属性の魔法陣があるから気にしなくていいけど、そこから発動する魔法は人によって詠唱が様々になるからどうしても効力が変わるんだ』
なるほどな、つまり水の魔法陣はセルマに教えてもらったあれがあれば問題ない。あとは俺のイメージが大事って事か。
魔法について色々と説明を受けながら怪我人の元へ辿り着く。
そこは血の匂いが漂う惨状があった。
腹を貫かれた人、胸から腹にかけて大きく切り傷がある人、腕や足が切断されてしまった人。
傷が痛むのだろう、呻き声がそこら中に響き渡る。結構な護衛が負傷していたようだ。馬車から降りてきたのだろう女性達や、比較的軽い傷の護衛たちが必死に声をかけながら介抱していた。
「……なんとかできそうか?」
「…すまん、ここまでとは思ってなかった。なるべく全力は尽くすが…」
「それでいい…頼む」
「わかった」
ゲルグの悲痛な願いの言葉に小さく頷く。自分も少し負傷しているというのに部下のことで頭がいっぱいのようだ。いい隊長さんだな。
なんとかしてやりたい。
「魔書」
俺がスキル名を口にする。すると俺の掌に魔源が集まり、四六判程の上製本が現れる。
其れを手に持つ。すると俺の体から魔源が洪水のように溢れ出した。
「なっ…なんだこの魔源は…」
ゲルグの顔が驚愕に歪む。護衛隊の隊長の顔が歪むほどの魔源。勿論俺がそんなもの持っているわけではない。
では何故俺がこれほどの魔力を有しているかというと、それはスキルである魔書のお陰である。
【魔書】:自分の魔源を用いて魔導体を生成する。魔導体には魔法陣を記録出来る。発動時、使用者の魔力を数倍に引き上げる。(魔法陣の記憶量によって効果が上がる)
そうです。チートです。
因みにさっき使った魔従は。
【魔従】:自分の魔源を刻印として用い、魔獣を帰属させる。魔獣は【紋章】の中に帰す事が出来るようになり、専用の魔法陣によって召喚する事が出来る。
勿論。チートです。
可笑しいなぁ…。俺一般人だよ?こんな強いスキルどうしろってんだよ…。
内心のぼやきを隠しながら、魔導体である魔書に頭の中にある水の魔法陣を送る。すると本の中に水の魔法陣が現れる。
これでいちいち魔法陣を作らなくてよくなるわけだ。
魔書に魔源を流す。さっきから出たり増えたりと分かりやすく存在を主張してくれてるからコントロールもなんとなく出来る。本の中にある魔法陣が淡く輝きだすと、俺は言葉を発する。
「[大いなる水よ、その母なる愛の抱擁にて、我が同胞の傷を癒せ]」
魔導体に魔源を流しながら言葉を紡ぐ。魔書の中にある魔法陣の光が強くなっていく。
「[水の抱擁]」
魔法名を口にすると、魔法陣から大量の水が噴き出す。その水は瞬く間に近くにいるひとや馬車を飲み込む。しまった間違えた。
「なっ!!」
いきなり大量の水が現れたことでゲルグも驚き瞬く間に飲まれてしまう。
俺?勿論飲まれましたとも。
「ぐっ…く…」
「落ち着け、ちゃんと息は出来るから安心しろ」
目を閉じながら息を止めているゲルグに声をかける。
「は…?あ…」
「いきなりで悪かったな、範囲の指定を間違えた」
息が出来ることに安堵しているゲルグに水の中を漂うように近づき声をかける。
「全くだ、思わず死を覚悟したぞ」
安心したように声を出すゲルグ。口から小さな泡が出るのが少し面白い。
「そう言うな、ちゃんと怪我は治してるだろ」
俺の言葉にゲルグが自分の身体を確かめる。
さっきまであった切り傷がみるみると治るのが見えた。
「なっ…なんだこの魔法は…上級クラス…いやそれ以上…」
ボソボソと呟いているゲルグを放置して他の人の傷を見て回る。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…凄いなこれ、みるみる傷が癒えていくぞ。あんたの魔法なのか?」
「まぁな」
深い傷を負った護衛を介抱していた護衛が驚いたように声を上げる。やばい、魔法の選択を誤ったかもしれん。
内心の動揺を隠しながら他のところも見て回る。比較的水の中を漂うようなイメージで作ったから水の中を自由に動けてなかなかに楽しい。
「そろそろいいか」
魔法の解除を念じると、ゆっくりと水が地面に染み込んでいく。これでいきなり地面に叩き落される心配もないということだ。
「ふぅ〜…なかなかにいいんじゃないか?」
『なかなかどころか規格外といっても差し支えないと思うんだけど』
独り言を呟くと【紋章】の中にいるセルマが反応を返してくる。え、そんなにやばかった?
『少なくともこんな規模の魔法僕は知らないよ』
………やらかした。
セルマの言葉に冷や汗を流す。こりゃ何かに巻き込まれるんじゃなかろうな…。嫌だぞそんな主人公みたいな…。
「蒼眞ー」
嫌な想像をしている時に聞こえてくる焦ったような声。振り向くとゲルグが勢い良く走ってきていた。
「お、おう、どうした」
「どうしたじゃないだろう!なんだあの魔法は!あんな規模大魔法師ぐらいしか扱えないぞ!何者なんだお前は」
「落ち着け!取り敢えず落ち着け!」
興奮して捲し立てるようにマシンガントークを繰り出してくるゲルグなんとか宥めようと声を掛ける。
「これが落ち着いていられるか!死に掛けていた仲間が全快してるし!切断された腕がくっついた奴もいる!そんな魔法を使った奴が気が付けばいなくなってるし!」
逆効果だった。
何か助けをと辺りを見回すが、辺りには女性達や護衛達に撫でられているアルとウルしかいない。
ていうかすごく溶け込んでるなあいつら。さっきまであんなに怖がられていたのに。
実は先の魔法の中でアルとウルは悠々と泳いでいたのだ。犬掻きで。
それを見た人達がアルとウルの姿に愛らしさを覚え、魔法が収まると餌を与えていた。それを美味しそうに食べるアルとウルに警戒心が解け、更にはそれを目撃した人が自分もと近づくという事がありいつの間にかアルとウルはみんなのアイドルになっていた。
そんな事とはつゆ知らず、ゲルグの捲し立てにおどおどする俺に救いの手が差し伸べられた。
「落ち着きなさいゲルグ、蒼眞様が慌ててしまっていますよ」
声のする方を見ると、その人は馬車の中から悠々と降りてきている途中だった。
「姫!」
さっきの声に落ち着いたのだろう。ゲルグが声の主を短く呼ぶ。それにしても……姫?
その声の主は、綺麗なドレスを身に纏った。俺よりも歳の小さい女の子だった。だがその貫禄は年下とは思えない迫力がある。何よりーーー
「っ……」
ーーー思わず声が詰まるほどに。整った顔立ちをしていた。
幼い顔立ちに栗色の髪をツインテールにしている事で、綺麗というよりは可愛いに入るであろう容姿。
10人が10人共確実に美少女だと断言するであろう顔立ちは、とてもさっきの迫力を持った人だとは思えなかった。
「お初にお目にかかります。私はグラード帝国第一王女、エシル・グラードと申します」
ドレスの両端をつまみ上げながらお辞儀をする女の子。それよりもーーー。
「お姫様…」
なにやら嫌な予感がする。
そんな事を考えながら蒼眞はその女の子を見つめていた。
名前を考えるのに手こずりました…。
皆様はどうやってあんなかっこいい名前をつけているのでしょうか…。
難しいものです。




