盗賊団と護衛軍
美しい毛並みを持った双頭の狼を前に、俺とセルマは驚愕した表情を浮かべて固まってしまった。
「えっ…あれ…お前ら、さっきのオルトロスか?」
「「グルル…」」
「綺麗な毛並み…」
セルマは目の前にいるオルトロスの毛並みに目を奪われているようだった。
「えーと…アル、ウル、だよな?」
「「ガウッ!」」
名前を呼んでもらえたのが嬉しかったのか、二頭は大きく吠える。
「これって…進化…なのか?」
「多分…僕も初めて見るから…」
あー、そういえばこいつ森から出たことないんだっけ。
「まぁ、気にしてもしょうがないか。改めてよろしくな、アル、ウル」
「よろしくね!」
「「ガウッ!」」
こうして、俺とセルマに新しい仲間ができた。
「さて、これからどうしますか…」
「森から出たんだし…まずはあの街に行く?結構大きそうだし」
「そうだなぁ…取り敢えず行ってみるか」
「ッ…グルルルルル…」
「ん?どうした?」
アルとウルが森から離れたところに視線を向けながら荒々しく喉を鳴らす。森へ続く一本道しかないのはおかしいだろうし、向こうにも街道があるのか?
「あっちになにかあるのか?」
「「ガウッ!」」
俺の問いに頷くように吠える二匹。何かあるか…。
「行ってみる?」
「……そうだな、行くか」
「「ガウッ!」」
アルとウルが体を伏せて吠える。乗れって言いたいのか。
「サンキュ」
お礼を言いながら背中に飛び乗る。飛び乗る意味はないが一度やってみたいと思うのは俺だけじゃないはずだ!
「頼んだ」
「「ガウッ!」」
俺の言葉を合図に走り出す。セルマはいつの間にか俺の後ろに陣取っていた。それにしてもーーー
「おおおおおおお!」
「わぁぁぁぁぁ!」
こいつら早い!まるでジェットコースターに乗ってる気分だ。
「あばばばばばっ」
セルマは振り落とされないように必死に俺に掴まる。腹が締め付けられて少し苦しいです。
「はっはははっあはははっ!」
俺は途中から慣れて笑い始める。怖くて壊れたとかじゃないからな!
少し走り続けて別の街道が見えてきた。そこでは3台程の馬車が大きな盗賊団に襲われていた。馬車の周りには護衛に見える戦士がそれぞれ数人いるが、遠くからでも傷がわかるくらいにボロボロだ。
「マジかよ!アル!ウル!助けるぞ!」
「「ガウッ!」」
アルとウルが走る速度を上げる。さっきよりもさらに早くなるが、目の前のことに集中していた俺には恐怖はなかった。因みにセルマは怖かったのか【紋章】の中に戻っている。
盗賊の一人が護衛を切り捨てる。馬車の中から悲鳴が聞こえた。切り捨てられる現場を見てしまったんだろう。
「不味いっ…アル!ウル!盗賊の意識をこっちに向けられるか!?」
「「ガルゥ!」」
任せろと言わんばかりに吠えた二匹は立ち止まり大きく息を吸うと高らかに遠吠えを行った。
「「ウォォォォォォン!!」」
その声を聞いたすべての人が此方に視線を向ける。そして現れる感情は、混乱。
「あれってオルトロス!?」
「バカ言え!オルトロスがこんな場所にいるか!」
「ですがお頭!」
盗賊団に訪れた混乱と喧騒、護衛達には焦燥や諦めといった表情が見える。
「よし!近付くぞ!」
「「ガウッ!」」
一気にトップスピードに乗ったアルとウルは瞬く間に騒動が起こっている場所に近づいていく。
「うわぁぁぁぁ!」
「逃げろ!逃げろぉ!」
「ちくしょう!もう少しだったのに!」
「お頭諦めてくだせぇ!命あっての物種ですぜ!」
「わかっておるわ!全員撤退しろー!」
俺たちより明らかにスピードは遅いが盗賊団は砂埃を立てながら逃げて行く。ちょうどいい、先に護衛たちをどうにかしないと。
「セルマ!水魔法に回復系あるか!?」
『あるよ!けど蒼眞は魔導体あるの!?無いと魔法使えないよ!?』
「大丈夫!魔導体ならある!」
『えっ!?』
「いいから早く教えてくれ!それと魔法の使い方も!」
『う、うん!はいっ!』
返事が聞こえたと同時に頭にそれに伴う詠唱文が紡がれる。紡がれ終わると同じくらいに俺たちは馬車に到着した。
「ケッ…ケルベロス…」
「くっ!姫を護るぞ!」
「この命に代えても!」
おぉ、怯えてはいるが護衛の仕事を放棄しない、プロだな。怯えすぎて俺に気付いてないけど。
「よっと」
俺がアルとウルから飛び降りると漸く護衛は俺に気が付いたのか俺にも剣を向ける。
「何者だ!」
剣を向けてきた中で一番強そうなやつが問いかけてきた。
「すまん、驚かせるつもりはなかったんだ。何かをする気はないから剣を下ろしてくれると嬉しい」
足が震えそうになるのを抑えながらなるべく単調になるように声を掛ける。
「……そいつはお前の従魔か?」
「そうだ」
魔従の説明に自分の従魔にするってあったから間違い無いだろう。
「……わかった、助かったのは事実だ。おい、剣を下ろせ」
「良いのですか?」
「構わん、責任は俺が取る。お前らは怪我人の治療に当たれ」
男の言葉に他の者達は急いで怪我人の元へ向かう。
案外物分りがいい人で助かった。指示を出していたし、責任を取るって言葉からしても結構上の立場なのは間違い無いな。
「助かる、俺は蒼眞。そっちは?」
「失礼。俺はゲルグ、この馬車の護衛軍を率いている」
これが、召喚された俺のファーストコンタクトだった。




