森と出口
お待たせいたしましたぁ!
「なぁセルマ、これってやばいやつじゃないか?」
「うん、とってもやばいやつだね」
オルトロスと対峙しながら、呑気なことを言い合う俺たち。少しぐらいの現実逃避は許してくれてもいいと思う。
「グルルルルルッ」
今にも飛びかかってきそうな雰囲気を出しているオルトロスさん。二頭の口からよだれが溢れてます。
睨み合いを続けながらゆっくりと近づいてくるオルトロスからゆっくりと後ずさりする俺たち。
「セラム、魔法で処理できないのかよ」
「無茶言わないでよ、僕はあくまで魔源の集合体なんだ。君に魔力は与えられるけど僕個人は魔法を使えないんだよ」
まじかよ、なんてこった。
この危機をどう回避するか考えていると、不意に事態が動く。
オルトロスが俺に向かって飛びかかってきたのだ。
「ガゥ!」
「うぉあっ!」
慌てて後ろに飛んでオルトロスの突撃を避ける。俺を仕留められなかったことに苛立ったオルトロスはその勢いのまま俺に突進してきた。
俺はそれを視界の隅に捉えながら踵を返して走り出す。
こうして俺とオルトロスの命をかけた鬼ごっこが始まるのだった。
「うぉぉぉぉ!」
「グルァッ!」
森の中を全力で走り続ける。途中何度か飛びかかられたがすんでのところで回避できている。というのもーーー
「左に飛んで!」
「よしきた!」
ーーーセルマに逐一教えてもらっているからなのだが。
「いつまで続けりゃいいんだよ!」
「もう少し!もう少しで森から出られるから!」
セルマの言葉を信じてひたすらに走り続ける。するとようやく森の先に光が見えてきた。
「見えた!」
「うぉっしゃぁ!」
全速力でその光に飛び込む。するとようやく森から出ることが出来た。
疲労と安堵でへたり込みそうになるのを必死に抑えて周囲を確認する。オルトロスが森から出てこないとも限らないと思ったからだ。
「うぉぉ…」
そこには俺の立つ街道を挟むように草原が広がっていた。心地の良い風が優しく頬を撫でてくる。
「これはすごいな…森もそうだけどこんなに自然が広がっているのは初めて見た」
「ふふ、感動してるみたいだね」
俺の横にふわふわと浮いているセルマにからかわれ、恥ずかしさを隠しながら話を逸らす。
「オルトロスは?」
「大丈夫、彼の縄張りから出たからね。森の外までは追ってこないよ」
「そうか」
セルマの言葉に一安心していると、街道の先に街が見えた。なかなか大きいな。
「取り敢えずあそこに行くか。何かしらの情報が欲しい」
「そうだね、僕も全然外に出れなかったから今の世界情勢がどうなってるかわからないし」
セルマの返事を聞きながら街道を歩き始める。
「はぁ〜…走り過ぎて疲れちまったよ、街に入ってゆっくりしたい」
「そうだねぇ〜…君のお友達も探さないといけないしね」
少し歩いたところで、不意に後ろを振り返った。
「ん?どうしたの?」
「いや、なんとなくな」
始まりの場所だし、感慨深い物でもあったのだろう。そう思いなおし踵を返そうとしたところで足が止まる。
聞きたくない声を聞いた気がしたから。
「まさか…」
きっと気のせいだと、俺の聞き間違いだと思いたくて。
けどそれは、甘い幻想だったんだと理解させられてしまう。
薄暗い森の入り口からぬるりと伸びてくる獣の足。先ほど幾度となく俺の命を刈り取りに来た足だ。
「嘘…」
セルマも異変に気が付いたのだろう。小さく信じられないといった声を発していた。
森から伸びてきた足が一歩また一歩と歩みを進め、やがてその足の持ち主が姿を現わす。
先ほど命懸けの鬼ごっこを繰り広げた。黒い双頭の犬、オルトロスが。




