↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/146

第九十九話:月城さんのマニュアルはすごい

 水曜日の放課後。


「だからよぉ、そんなので一時的にバズったってしょうがねぇだろ? やめとこうぜ」


「そうだよ、危ないよ」


 なんだろう、隣のクラスの前の廊下が、妙に騒がしい。

 今の声は成瀬さんと……玉田くんか。


「どうしたの? 成瀬さん」


「あ、ひよりちゃん!」


「佐倉も言ってやってくれよ。こいつら馬鹿でさぁ」


「馬鹿とはなんだよ。噂の口裂け女をライブ配信したらさ、一気にインフルエンサーだぜ?」


 坊主頭の玉田くんに反論している、背の高い少年……申し訳ないが、名前を知らない。

 隣のクラスの男子まで全員覚えるのは、僕にはちょっと難しかったから。


 って、口裂け女?


 反射的に辺りを見回す。よし、小春さんはいないな。

 ……小春さんの耳には、『口裂け女』って単語をなるべく入れたくないから、さっさと解散してほしいなぁ。


「やめようよ、文元くん。やっぱりよくないよ。校則違反だし」


 お、成瀬さん。ナイスアシスト。

 名前さえわかってしまえば、こちらのものだ。


「文元くんって、配信者さんなの?」


「え……おう。そうだけど」


「すごいね! いつもはどんな配信してるの? 見せてほしいなぁ」


 興味深そうに……ちょっと憧れるようなニュアンスを込めて言いながら、文元くんに近寄る。

 接近を果たした後は、少し上目遣いに見つめる。


「あ、うん……ちょっと待って……」


 文元くんがスマホを取り出すと、すかさず身を寄せて……画面を覗き込む。

 よし、ここまではマニュアル通り。


「ちょ、ちょっと待ってよ……」


「えー、早く見たいよ」


「そうか? えっと……これ、ほら。登録者も結構いるんだぜ」


 ふむ、登録者数150人。

 多いのか少ないのか、さっぱりわからないが……


「150人って、学年全員よりも多いよね。すごく注目されてるんだね」


 とりあえず、褒める。

 具体的な規模感をイメージしながら。


「だ、だろ? だから俺はもっとさ……」


「いつもはどんな配信してるの?」


「見せてやろうか……?」


「うん!」


 ここで笑顔。嬉しそうな感じで。


 文元くんが少し得意げな顔をしながら、動画の再生をはじめた。

 周囲の少年たちはその様子を見守りながらも、手持ち無沙汰な様子だ。


 ふむ……


 動画の意図が、よくわからない。

 公園の鳩を、文元くんが延々と追いかけている。


 ただ、ひたすらに。


 鳩が逃げる。文元くんが追う。また鳩が逃げる。また追う。

 ……これ、どんな反応をすればいいんだろう。


「どうだ? 300再生もされたんだぜ」


「すごいね。文元くんは、発想が独特なんだね」


「だろ? だから次は口裂け女を配信して……」


「でも、口裂け女を配信って……文元くんがやるにはレベルが低くないかな?」


「レベル……?」


 少し考えるようなそぶりを見せながら、文元くんの目をじっと見つめる。

 周りの声じゃなく、僕の言葉に意識を向けてもらうように。


「うん。だって、噂になったものをただ追いかけるって、誰でも思いつきそうで……ちょっと、普通だなって」


「そ、そうか……? そうかも……」


「お、おい文元。なに言ってんだ」


「文元くんは、もっと独創的な才能がある人だと思うな」


 そう言って、にっこり笑う。

 周囲の声が聞こえないぐらい、僕の言葉が胸に響くように――とびっきりの笑顔で。


「なんだよ。口裂け女、行かねぇのかよ」


「ああ。俺にはもっと、独創的でレベルの高い動画がふさわしいと思う」


「うんうん。文元くんならできるよ。楽しみにしてるね」


 よし。敵首魁の戦意を挫いたぞ。

 中心人物がやる気をなくした以上、あとはしらけて解散するのも時間の問題だ。


 月城さんのマニュアルはすごいな。


 さてそんじゃ、部活に向かいましょうかね。


「行こ、成瀬さん。玉田くん」


「うん……!」


「あ、ああ……そうだな」


「どうしたの? 玉田くん」


「佐倉。俺は、時々お前がちょっと怖いよ」


「ええー……」


 ひどい。月城さんのマニュアルに従っただけなのに。


 しかし――口裂け女か、放置するわけにはいかないよな。

 あの時の雪辱を果たす時が、遂に来たのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。