第九十八話:剣だって傷つく
「スターゲイザーねぇ……」
リビングのテーブルに置かれた『スターゲイザー』を見て、如月さんが首をかしげる。
伊吹さんの言う通り、帰ってきた如月さんに相談してみたというわけだ。
「はい。それでこれ……どうしましょう」
「どうしましょうったってさぁ、伊吹くんが言った通りだよ。法的にそれをどうこうする根拠がないんだよね」
「そんなこと言ったって、困りますよ。武器なんていらないし……」
「えー、そういうこと言っちゃう? ちょっとひどいんじゃない?」
「ひどいとは」
「だって意思があるんでしょ? 『いらない』なんて言われたら、その剣だって傷つくよ」
「ええ……如月さん、剣の心まで読めるんですか?」
「んなわけないでしょー。基本的に人間の心しか読めないよ、私は」
そうだったのか。
でも、そりゃそうか。
例えば天使の心が読めるなら、こんなややこしいことにはなっていないわけで……
「なら、わからないじゃないですか」
「わかるよ、それぐらい。自分が言われたらどう思う?」
「どうって……まぁ……はい」
むう、確かに。
わざわざ遠く――かどうかは知らないけど、どこかから僕の手元に来たのに、『いらない』なんて言われたらショックだろう。
『スターゲイザー』に対して、ひどい言いぐさだったのは認めて、反省する必要がある。
「わかりゃいいんだよ、わかりゃ。じゃーそういうわけで、大切に保管してね」
「ええー、そういう結論になるんです?」
「なるよそりゃ。だってそれは君の物で、法的に規制する根拠がない。なら自分で管理するしかないでしょー」
「うーん……しょうがないのか……」
「そんなことよりさぁ、それどういう状況なの? 私を包囲するための陣形なの?」
「そんなわけないでしょ……」
まぁ、如月さんがそう言うのも無理はない。
グリーマルが僕と月城さんの手をいつまでも離してくれないので、さっきからずっと繋がったままだ。
それだけならいいんだけど、なぜか月城さんまで、僕の空いている方の手を握って離してくれない。
要するに、3人で手を繋いで、ちょうど円を作るような形になっている。
なにこれ?
「自然な形ですわ」
なにが自然なのか。
月城さんがなにを考えているのか、さっぱりわからない。
「ふうん。まぁ好きにすりゃいいけどさ。仲間はずれの如月お姉さんは、寂しくお風呂に入ってくるよ」
「またそういうことを言う」
「あー寂しいなー、寂しいなー。一緒にお風呂入ってくれる?」
「入るわけないでしょ」
実のところ、最近は如月さんの魔法に頼ることなく、僕も自力でお風呂に入っている。
最初の頃はいろいろと抵抗もあったけど、肉体的な問題については……まぁ、もう慣れた。
今さら自分の身体を見たところで、特に精神的な負担を感じることもない。
だからって、如月さんと一緒に入浴するかと言われたら、それはまた別の話だ。
そんなことを考えていると、グリーマルが、僕と月城さんから手を離した。
「ん?」
そのまま、とてとてと如月さんの方へ歩いていく。
そして、例によって――ぎゅっと抱きしめた。
「あらあらぁ、いい子だねぇ。うちの子になる?」
「やめなさいよ。グリーマルが本気にしちゃったでしょうが。風呂でもなんでも早く行ってきてください」
「はーい、ママ」
誰がママだ。
ほんとに騒がしいなぁ……
スターゲイザーの件も、なんとなくうやむやにされちゃった気がするし。
というか……
「あの、月城さん。そろそろ」
「なんでしょう?」
「手をですね」
「手がどうしましたか?」
どうしましたか? ときた。
グリーマルが如月さんの方へ行った結果、月城さんに手を握られた僕だけが残った形になっている。
「いや、そろそろ……」
「それじゃ、このまま一緒にお風呂に入りましょうか」
「月城さんまで……変なこと言わないでくださいよ……」
勘弁してほしい。
月城さんまであの人に影響されたら、僕の心が休まる暇がない。
「そうですか? ふふ……私は構わないのですが」
「構うとか構わないじゃないですよ……」
なんか、どっと疲れたなぁ。




