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第九十七話:元勇者 伊吹蓮の考察

 やっぱり面白いな、日向さんは。

 ぜんぜんわかってなくて、まるで欲というものが感じられない。


 車を運転しながら、さっきまで月城邸で起きていたことを思い返す。


 『スターゲイザー』か。

 あれは――いわゆる『神器』だ。


 鑑定結果の最後に、まるでおまけみたいに添えられていた『破壊不能』のプロパティ。

 あれは、本当に『破壊不能』だ。


 どれくらい『破壊不能』なのかと言えば――仮にこの世界そのものが消滅しても、それだけは残る。

 

 そういう意味での、『破壊不能』

 存在が――世界ひとつよりも重い。


 少なくとも、僕が知る『神器』とはそういうものだ。


 恩寵だかなんだか知らないけれど、一介の『神』がおいそれと用意できるような代物じゃない。


 それだけでも十分異常なのに。


 意思を持つ『神器』

 それが、日向さんが手に取った瞬間に――『自らの主』として認めた。


『それよりこれ、預かってもらえるんですよね?』……だってさ。


「ふふ……」


 本当に、面白い人だ。


 そして――これではっきりした。


 日向咲は、おそらく――『この世界の主人公』だ。


 『主人公』というのは、『世界の中心』のことだ。


 あらゆる事象が、その存在を中心に収束していく。『それ』を成立させるために。


 世界そのものが、その人物のために存在しているのではないかと錯覚するほどの、圧倒的な特異点。

 すべてが、まるでひとつの物語を成立させるために用意されたかのように、その人物の周囲へ集まっていく。


 『運命』の上位に位置する、絶対的な存在。それが――『主人公』だ。


 例えば、『月城澪』

 『世界有数の財閥総帥』にして、『魔術師』

 そして――『日向咲の親友』


 例えば、『松永優里』

 『史上最優の陰陽師』

 そして――『日向咲の所属する部活の元部長』


 例えば、『坂口小春』

 『最強の魔法少女』

 そして――『日向咲が卒業した小学校の在校生』


 例えば、この僕。

 『世界最強の元勇者』


 これだけ特異な存在が、日向咲の周囲に無造作に存在している。

 そんなこと、確率的にあるわけがない。


 世界は広い。


 『東京』がいくら世界有数の大都市だからといって、これだけの特異な存在が同じ地域に集中すること自体がおかしい。


 それだけなら、まだ偶然だと言い張ることもできるかもしれない。

 でも、その全員が……ひとりの少女と深く――あるいは間接的に関わっている。


 偶然にしては、できすぎている。


 特に――『坂口小春』だ。


 一度だけ遠くから見たことがあるけれど、言いようのない『圧』を感じた。

 存在そのものが、周囲の人間を圧倒するような。

 引力にも似た、僕にとって――少し懐かしい感覚。


 そう。かつて僕と共に旅をした、『勇者の仲間』たちのような。


 強いとか、弱いとか。そういう単純な話じゃない。

 その人間がそこにいるだけで、景色が変わるような、存在感。


 『日向咲』がこの世界の中心なのだとすれば、『坂口小春』は――その隣に立ち、共に『なにか』を成す存在だった。


 そう考えるのが、自然だ。

 そして……


 『坂口小春の通う学校に潜む怪物』――『簒奪王ペプラモト』。

 『魔法少女坂口小春』と遭遇するはずだった――『哀惜のグリーマル』。


 日向さんが介入しなければ……つまり、『日向咲』が昏睡状態に陥らなければ、どちらも坂口小春と衝突していた可能性が高い。

 なにごともなければ――彼らは『坂口小春の敵』だった。


 特に、『哀惜のグリーマル』だ。


 彼女は――『異界の姫君』

 神にも等しい力を持つ、ひとつの世界の支配者の娘。

 そんな存在が、その辺の河川敷でうろついているなんて、そんなことが偶然だと考える方がどうかしている。


 なにもかもが、できすぎている。


 なのに――『日向咲』だけが、この世界にいない。


 彼女と繋がっているのは、『日向浩』

 父親である、彼だけだ。


 彼は深く考えていないようだけど、明らかに異常な速度で成長している。

 現在のレベルは『81』だったか。


 もうすぐ――僕のレベルに並ぶ。


 そんなことを考えているうちに、目的地に到着した。

 車を止め、書類を確認する。


 今日の現場は、少しばかりハードだ。


 敵は――『星界の邪神』

 現場は――都心にある、ごく平凡なオフィスビル。


 車を降り、建物を見上げながら、右手を軽く掲げた。


「来い――ピースメイカー」


 呼び声に応え、『神器』がどこからともなく手元に現れる。

 『魔王』を葬り、『破壊神』を貫いた、僕の剣。


 『人類の敵』の活発化。

 『天使』の出現。


 頻発する事件が、『日向咲』を中心として発生しているものなのだとしたら、事態は苛烈さを増していくことだろう。

 そしてこの世界は『主人公』が不在のままで――『それ』と相対することになる。


 それはもしかすると、絶望なのかもしれない。


 でも、この街には僕がいる。

 かつて別の世界で『主人公』だった――この僕が。

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