第九十四話:魔法少女 佐倉ひよりVS生首ドリブル
「あのほんとに、帰ってくれない?」
「どうして? 協力すると言ったわ」
困った。
夕暮れのグラウンド。
沈みゆく夕陽を眺めながら『生首ドリブル』の出現を待つ予定だった僕を、白峰さんが離してくれない。
……協力ったって、今から始まるのは化け物退治なんだけど。
「あのね。本当に危険だし、怖い思いをすることになるからさ、お願いだから帰ってくれない?」
「危険なら、ますますひとりにするわけにはいかないわ」
ぬあー、完全な善意。
極端な人だなぁ……
「……わかったよ。でも、本当に危険だから、白峰さんは見てるだけね?」
「嫌よ」
「嫌かぁ……とりあえず、静かにしててね」
「わかったわ!」
わかってない。実に元気な返事だ。
うーん、困った。
今日は完全にプライベートで、マジカル・フィールドがない。
さくっと倒して、さくっと帰るつもりだったんだけど。
そんなことを考えているうちに陽も沈み、あたりはすっかり薄暗くなっている。
グラウンドの隅で息をひそめ、じっと様子を窺っていると……やがて、グラウンドの逆側に『人影』が現れた。
ボールかなにかを蹴っているように見える。でも、薄暗いのもあって、ここからではよく見えない。
もしかすると、こっそり特訓に来たサッカー部員かもしれないし……さすがに確認もせず襲いかかるわけにはいかないよね。
「ひっ……」
「白峰さん?」
「……首が、ないわ」
「ああ、やっぱり? ありがと、助かったよ」
「そ、そう……?」
「白峰さんって、目がいいんだね」
「と、当然よ。わたくしは高貴な血を引く美しきダンピール。暗いところでも遠くまではっきり見えるわ」
そりゃぁ便利だ。
そんな能力があれば、夜中に目が覚めてトイレに行く時、小指をぶつけてうずくまることもないだろう。
「じゃ、ちょっとだけ待ってて」
「え?」
「マジカル・チェンジ」
魔法少女の姿に変身。
即座に『空』を蹴って飛び出すと、1秒もかからずに『生首ドリブル』の間合いに入った。
うへぇ……近くで見るとマジで最悪だ。
本当にこいつ、生首でドリブルしてやがる。それも、血まみれの。
気持ち悪いから、とりあえず蹴る。
僕の足が生首を捉えた瞬間、それはものすごい勢いでグラウンドの反対側まで吹っ飛んでいった。
すると――『生首ドリブル』が、首なしの身体をばたつかせながら、慌ててそれを追いかけていく。
ふむ。敵に背中を見せるとは。
実を言うと、今日は試してみたいことがひとつあった。
グリーマルに教えてもらって、僕は自分の中にある『魔力』をはっきりと認識することができた。
でも、それによってひとつの疑問が生まれたのだ。
これって、本当に『魔法』にしか使えないんだろうか?
魔法少女の魔法というのは……呪文を言葉にすることで、魔力に指向性を与えているだけなんじゃないだろうか。
魔力というのは――魂の力だ。
それはきっと、もっと自由なはずで――
うまく操作すれば……
僕は、器用だ。
とても器用なので、魔力をこんな風に……うん、できそうだ。
イメージを、形に。
『ボール』に向かって走っていく後ろ姿へ狙いをつける。
そして――手を振った。素早く、何度も。
僕のイメージによって実体化した、魔力の刃。
不可視の『それ』に背後から切り刻まれ、バラバラになって、『生首ドリブル』は――塵と化した。
「よし、できた」
グラウンドで『魔法』なんかを使えば、練習どころではない状態になってしまう。
もちろんそれでは本末転倒だから、小回りの利く攻撃手段が欲しかったのだ。
若干の達成感に満足していると――ふと、なにかの気配を感じた。
気配の方へ目を向ける。グラウンドの中央に……ニンジャがいる。
……サプライズニンジャだ。
『生首ドリブル』と僕の戦力差が、ニンジャを呼び寄せたのだろう。
でも、襲いかかっては……こない。
ピューイさんが言うには、サプライズニンジャはコンプライアンス意識が高いから、子供と国家権力には攻撃を仕掛けないらしい。
それを聞いた時はなんだそれと思ったけど、そういえば小春さんもサプライズニンジャの出現を喜んでいた。
子供そのものである魔法少女から見れば、シンプルに『ピンチになったら助けてくれる存在』みたいな認識なんだろう。
そのサプライズニンジャが、こちらをじっと見ている。
なんだろう。攻撃するべきかどうか、迷っているんだろうか?
やめてよね。僕は子供だよ。
小学生を殴るのは、コンプライアンス的にどうかと思うよ。
しばらくこちらを観察した後――ニンジャは消えた。
しゅしゅしゅって感じで、目にもとまらぬ速さで。
「お、終わったの……?」
あ、白峰さん。すっかり忘れてた。
おっかなびっくりといった様子で、こちらを見ている。そりゃそうだろうけど。
「うん、終わったよ。これで気兼ねなく練習ができる」
「……その服、なに?」
これは魔法少女の衣装ですよ、お嬢さん。
改めて聞かれると、ちょっと恥ずかしいんですけど。
なので、変身を解除する。光がはじけて、いつもの制服姿に戻った。
「戦う時、ああいう感じになるんだよ」
「そうなのね……あの黒ずくめは?」
「……サプライズニンジャだよ」
「なにそれ……」
ほんと、なんなんだろうね。
僕にもわからないよ。




