第九十一話:勇者 日向咲と最強の剣
『パラッパッパー!』
あ、レベルアップ。
最近多いなぁ、勝手にレベルが上がるやつ。
ステータス画面を開き、パパっと『力』にボーナスポイントを割り振って、閉じる。
今のレベルは『79』だ。
……近づいている。
『99』が。あるいは、『100』が。
これまで能天気にレベルを上げて強くなってきたけど、ここまでくると、さすがに『カンスト』を意識せざるをえなくなってくる。
多くのゲームでは、レベルに上限があるものだ。
『99』とか『100』とか、その辺りが一般的なんだけど……ゲームみたいだけどゲームじゃないこの世界では、どうなんだろう。
まあ、考えてもわからないものは、考えてもしょうがない。
レベルを上げればわかることだし、上限が存在するなら、その時はその時だ。
それに、数値の大きさなんて大した問題じゃない。
そんなものはただの目安だ。
だって、どんな相手でも……殺せば勝ちだから。
――こんな風にね。
『パラッパッパー!』
『パラッパッパー!』
声もなく、『魔王軍最強の大魔導師』は崩れ落ち――その身体は、塵となって消えていった。
……これで、レベル『81』
『魔王軍七大将軍・大魔導ダズラール』打ち取ったり。
……魔法使いのくせに、正々堂々戦う奴だった。
でも、1対1で戦うには相性が悪すぎたよね。
私には魔法使いの『魔法耐性レベル2』と、魔法少女の『魔法耐性レベル3』がある。
ついでに、『虹色の宝箱』から手に入れた『精霊の盾』は、あらゆる魔法のダメージを30%軽減してしまう。
それを元々の魔法防御でさらに軽減するわけだから……最上位の火炎魔法も、究極の古代精霊魔法だって、私にとってはそよ風みたいなものだ。
なにより、奇襲に成功して、魔法を使う前に右手を吹っ飛ばしたのが大きかった。
痛みは思考を鈍らせる。
魔法使いほど、奇襲に弱い相手はなかなかいない。
そして、私は奇襲が得意だ。
ほとんど魔法を使うこともできず、苦し紛れに放った無詠唱魔法も私には通用せず……なすすべもなく、『大魔導ダズラール』はただの塵になった。
死んだら終わりなのだ。
だから、殺せば勝てる。
殺されないように、殺す。
最後まで――私は戦い抜く。
家に帰るまでが、私の戦いだ。
おっ、『虹色の宝箱』
ダズラールが消えた場所に、虹色の光を放つ宝箱が落ちている。
これは嬉しい。
嬉しいんだけど――今回の目的は、これじゃない。
『大魔導ダズラール』が、この洞窟に封印したと言われる『神剣ラルクス』。
勇者だけが使うことのできる『最強の剣』
それが、今日のメインターゲットだ。
『神剣ラルクスの封印を解くには、大魔導ダズラールを討たねばならぬ』
おじいさんはそう言ってたけど……
こんな岩剥き出しで住み心地の悪そうな洞窟で、『魔王軍七大将軍』みたいな役職の魔族が、たった1人でずっと剣を守ってるなんて、ちょっとどうかと思う。
部下の1人や2人くらい置けばいいのに。
まあ、そのおかげで奇襲が簡単に成功したから、私としては助かったけど。
虹色の宝箱の中身回収してから、洞窟の奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、景色が突然変わった。
それまでの、洞窟丸出しの無骨な通路から一転して、大理石のようなすべすべした石でしっかり整備された空間だ。
大きな部屋――というより、祭壇かなにかみたいに見える。
その中央。少し盛り上がった石造りの台座に、1本の剣が突き刺さっていた。
……あれが、『神剣ラルクス』かな?
近づいて、じーっと眺める。
最強の剣、かぁ。
最強の剣って話だけど……なんというか、『最強』っていうのはそれ以上がないってことになるわけで、これもレベルと同じでやっぱり頭打ち感がある。
私が普段使っている剣は、安い市販の武器に、魔法使いの上位魔法『クリエイト・マジックウェポン』をかけたものだ。
安いから、欠けても折れてもいくらでも代わりが用意できるし、しかも魔法の効果で切れ味も抜群。
私の『力』を乗せれば、斬れないものなんてほとんどないから、現状で特に不自由はしていない。
扱う刃物を変えることで、それがどれくらい変わるのかはわからないけど、代わりが用意できないワンオフの武器というのはちょっと不便かもしれない。
剣というのは消耗品だ。
『最強の剣』だって、使っていればそのうち欠けたり、折れたりするだろうし――
『勇者よ。失礼なことを考えていますね』
……なに?
頭の中に、直接声が話しかけてきた。
あなた、『神剣ラルクス』なの?
『そうです。失礼な勇者よ』
うぇー、インテリジェンス・ウェポンかぁ。
これまで、魔剣の類は避けてきたんだよね。効果の割に値が張って、やっぱりコスパが悪いし……
戦利品として拾ったこともあるけど、売れば普通の剣が30本は買えるから、そのまま売り払ったんだよねぇ。
特に、インテリジェンス・ウェポンは意味がわからない。
だって、武器がしゃべるって鬱陶しいと思わない?
『鬱陶しいとは、なんということを……』
ほら、鬱陶しい。
勝手に頭の中に話しかけてきて、勝手に憤ってるんだからさ。
『勇者よ、安心しなさい。神剣ラルクスは神の創りし最強の剣。あなたが心配しているように、簡単に欠けたり折れたりはしません』
へぇー、そうなんだ。
頑丈なのはいいことだよね。
『しかも、万が一折れたとしても、翌日までには自動的に修復されます。コスパは良好です』
おー、それなら、武器の損耗をかなり抑えられるね。
経済的に助かるなぁ。
『神剣を経済的な観点で批評する勇者は初めてです』
……ん。
私は、剣の柄へ伸ばしかけていた手を止めた。
今、なんて言った?
『神剣を経済的な――』
いや、そこじゃない。
私みたいな勇者が『初めて』ってことは――前にも勇者がいたの?
『もちろんです』
ラルクスは、それが当然のことであるかのように答えた。
『世界に危機が訪れるたびに勇者が現れ、神剣ラルクスを振るうことで、世界に光をもたらしました』
……そうなんだね。
なら、その『勇者』が『どうなった』かも知ってるよね。
コイツには、色々と話を聞く必要がありそうだ。




