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異世界転生で奪われた娘を取り戻すために戦う父親は、魔法少女になって娘の親友の銀髪お嬢様に愛される  作者: 古川智明
第一章:魔法少女になってからしばらくの話

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第八十三話:鼓動の奥に

第八十三話:鼓動の奥に


 『顔のない人影』は……じわじわと数を増やしながら、僕たちの周囲を取り囲み始めている。


 うーん、こういう場合どうするべきか。

 見た感じ人間じゃないと思うんだけど、もし撲殺した後で『実は特殊な仮装をした人間でした』なんてことになったら、非常に困る。


「これ、人間だと思う?」


「違うんじゃないかな。誰かが作った眷属みたいなものだと思う」


「だよね」


 『マジカル・クリエイトアザーワールド』で作り出すことができる、疑似的な生命を持った魔法生物と似たようなものだろうか。

 僕には小動物ぐらいしか作り出せないから、これだけぞろぞろと人間大の生物を作り出せるとしたら、相当な『力』を持った『なにか』がここにはいることになる。


「倒さないの?」


「いやぁ……まだ人間じゃないとは断定できないし、まだ取り囲まれてるだけで襲われてないから……法的にね」


「……たいへんだね」


「うん」


 こんな異世界で取り囲まれて、法律もなにもあったもんじゃないとは思うんだけどね。

 一応ね、一応。


 まぁ、ここはグリーマルの安全の方が優先か。

 もちろんグリーマルは敵だけど……彼女の『パパ』のことを考えると、グリーマルを無事に帰さなければという気持ちになってしまう。


 敵の幹部だけど、邪界人だけど、誰かの大切な娘なのだから。


 そう決めて――『顔のない人影』の1体に、拳を叩き込んだ。

 これくらいの距離なら、僕にとっては隣にいるのとなにも変わらない。


 万が一人間だったとしても死なない程度に手加減しておいたけど……殴った感じは、水袋かなにか、形の定まらないものを殴ったような感触だ。

 いずれにせよ、殴られた人影は――反応する間もなく吹き飛んで、溶けるように消えてしまった。


 ……うん、人間じゃないな。


 そうなればこっちのものだ。

 いい感じに周囲を取り囲んでくれているから、近いものから順番に殴り飛ばして、消滅させていく。


 3分の1ぐらいが消えたところで、ようやく状況を把握したのか、『顔のない人影』たちが一斉にけたたましい奇声をあげ、手を振り上げた。


 でも、もう遅い。


「……ふう」


 1分もかからず、『顔のない人影』は全滅した。

 『もろい相手がたくさんいる』というのは、僕にとっては実に相性が良く……はっきり言って、いいカモだ。


「グリーマル、怪我はない?」


「うん。心配してくれてありがとう」


「いやまぁ……僕についてきてこうなったわけだからさ」


「それはひよりちゃんのせいじゃないよ」


「そうなんだけど、気持ち的にね」


 適当な理由を言っておく。

 『君のパパを心配させたくなくて』なんて、照れくさくてとても言えないからだ。


 グリーマルはそんな僕をじっと見つめてから、不思議そうに首を傾げた。


「ねえ、どうして魔法を使わないの? 魔法少女なのに」


「どうしてって、うーん……僕の魔法は役に立たないからね」


「役に立たないって、どうして?」


「魔力が低いんだよ。殴った方が遥かに強くてさ」


「……本気で言ってるの?」


 グリーマルが、心底不思議そうに言う。

 でも、実際そうなんだからしょうがない。


 僕のレベルは現在『75』で、魔力の数値は『158』だ。

 数値上はまぁ……高く見えるんだけども。


「いやぁ、説明が難しいな……僕の魔力は常人の40倍ぐらいなんだけど……常人の魔力がそもそも無いに等しいから、僕の魔力もたかが知れてるってわけでさ」


「……違うと思う、それ」


「え?」


「だって、考えてみて。『人間』の感情は、それだけでエネルギーなんだよ?」


「……うん?」


「あのね。私たち邪界人は、『人間』の感情を集めて邪魔力に変換するの」


「うん。それは知ってる」


「それはね、『人間』が持つ魔力を、感情という形で集めているってことなんだよ」


「まぁ……そうなるのかな?」


「『人間』は誰でも大きな魔力を持っているんだよ。ただ、目覚めていなかったり、使い方を知らなかったりするだけ」


「……なるほど?」


 ……確かに。


 人間の感情を糧にするのは、邪界人だけじゃない。

 怪異や悪魔なんかもそうだし、他にも色々いるんだろう。


 そういった超常の存在に力を与えることができるわけだから、そもそも人間にそれだけの『力』があるというのは納得できる話だ。

 それが僕のステータスで言う『魔力』と、同じものなのかどうかまではわからないけど。


「ひよりちゃんも、そうなんじゃない?」


「僕も……?」


「うん。ちょっときて」


 言われた通りグリーマルに近寄ると――不意に、ぎゅっと抱きしめられた。


「ちょっ、なに」


「いいから。私の胸に、耳をあてて」


「ええ……」


 いつの間にか、グリーマルのゴスロリ服の胸元が少しはだけていて、直接胸に耳を押し付けられる。

 ちょっとほんとに、やめてほしいんだけど……


 とにかく――どくん、どくんと……冷たい肌の奥からは、人間と変わらない鼓動が聞こえた。


「聞こえる?」


「う、うん……」


「目を閉じて、鼓動に集中して。イメージして」


「イメージって、なにを」


「鼓動を意識して、その奥にあるエネルギーを感じて」


 鼓動の……奥?


 言っている意味がよくわからない。

 でも、とりあえず言われた通り目を閉じて、グリーマルの鼓動に意識を集中してみる。


 人間の鼓動と変わらない、音。

 それよりも、奥に――


「あ、なんだろ、これかな? なんかもやのようなものが感じられる気が……」


「そう。それが私の邪魔力と、魂」


「……うん」


「次は、自分の身体に意識を移して。同じものを探してみて」


「自分の……」


 意識をゆっくりと、グリーマルの冷たい身体から……密着している自分の身体へと移していく。

 自分の、鼓動。

 そこから、さらに深く、深くへ――そうか、これが……


「それが、あなたの魔力」


「……うん」


「限りない『哀惜』に苛まれながらも、それでも『誰か』のために前に進む、気高き魂の力」


「言い過ぎだよ……」


「それを離さないで。そうすれば――」


「うん。試してみる」


 『なにか』がわかった気がする。

 今は『これ』から手を離さないで、やってみよう。


「マジカル・チェンジ」


 グリーマルの冷たい肌から身体を離し、呪文を唱える。

 いつもと同じように光に包まれ――それがはじけて、魔法少女の姿になった。


 でも、いつもとは、決定的に違っていた。


「マジカル・ストーンバレット」


 ステッキを構え、あの役立たずの……石を出すだけの魔法を口にする。

 その瞬間――『世界』が震えたような気がした。


 ステッキの先にいくつか、拳大の石が生まれる。


 あれ、いつもより大きいな。そう思った瞬間――轟音が響いた。


「……え?」


 だいたい、30メートルぐらいの長さだろうか。


 正面の森がバラバラに吹っ飛んで、さっきまで存在しなかった『道』ができていた。

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