七十六話:18歳の誕生日プレゼント
「遅くなって申し訳ありません。長引いてしまって……」
日付が変わろうとする頃。
帰宅した月城さんを玄関で出迎えると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
出かけた時と同じ華やかなドレス姿だけど、綺麗に整えられていた銀色の髪には、わずかに乱れが見える。
「いやいや、謝らないでくださいよ。せっかくの誕生日なんですから」
「いーや、私は断固謝罪を求めるね」
「如月さん……」
空気を読まない如月さんが、腕を組んで前に出た。
「せっかくのピザが冷めてしまった。私は強い憤りを覚えている」
「ピザ……ですか?」
月城さんが、きょとんと目を瞬かせた。
なんで言っちゃうかなこの人。
「いや、その……いつものお礼も兼ねて、僕らでも月城さんのお祝いをしたいなと……思いまして」
「どーせごちそうでお腹いっぱいなんだから意味無いよって言ったんだけどねー」
「……是非、頂きたいです」
月城さんはしばらく僕たちの顔を見比べたあと、少しだけはにかみながら、そう言った。
屋敷の奥にある広大なダイニングルーム。
何十人も座れそうな長くて立派なテーブルの端っこに、デリバリーピザの箱と、買ってきた誕生日のホールケーキがちょこんと置かれている。
豪華な部屋の雰囲気とはどう見ても釣り合っていなくて、少しシュールな光景だ。
使用人の人たちに頼めば、もっと豪華な料理を用意してもらえたと思う。
だけど、それはなんだかちょっと、違う気がしたから。
「これは……」
月城さんが、テーブルの上を見つめている。
「……咲が元気だった頃、あの子の誕生日はこうしてお祝いをしたんです」
ピザを頼んで、ケーキを用意して。
誕生日の歌を二人で歌う。
特別なことは、なにもできなかったけれど。
それでも咲は、毎年とても楽しそうに笑ってくれた。
「はい……はい。そう聞いています」
月城さんは、ゆっくりとうなずいた。
もちろん、こんなの月城さんがさっきまで参加していたような、パーティのごちそうとは比べ物にならないだろう。
きっと僕には想像もできないような料理が並んでいたに違いないから。
でも、僕たちが月城さんのお祝いをするなら、着飾ったものより、これがいいんじゃないかと思ったのだ。
「しかも誕生日プレゼントまで用意してある。これを受け取りたまえ」
如月さんが得意げに胸を張り、懐へ手を入れる。
……取り出したのは、見るからに禍々しい人形だった。
黒い布を乱雑に縫い合わせた体に、不揃いなボタンの目。
口元には赤い糸が何重にも縫いつけられていて、頭部には何本か、釘らしきものが刺さっている。
どう見ても、誕生日に贈るような人形ではない。
「これは……人形、ですか?」
月城さんが、明らかに引きながら人形を受け取る。
当然の反応だろう。
「これは呪いの人形さ。夜中に目を離すと勝手に動くんだ」
「……いりませんわ」
「そう言わずにさ」
「……いりませんわ」
「うそうそ、冗談だよ。呪いはかかってないよ」
月城さんは恐る恐る人形を持ち直し、その顔をじっと見つめると、しばらくして……深いため息をついた。
「……いらないですが、もらっておきます」
「そりゃぁよかった。なにしろそれは私のお手製だからね」
わざわざ自作したのか、アレを。
そういえば最近、如月さんが夜中に自分の部屋でごそごそしていたような気がする。
……本当に呪われていないんだろうな。
「僕からは、これを……」
用意しておいた小さな箱を取り出した。
中身はこの間購入した、咲とお揃いのヘアピンだ。
喜んでくれるといいのだけど……
「どうぞ」
少しだけ不安を感じながら……箱を差し出すと、月城さんは呪いの人形を如月さんに押しつけ、両手で受け取ってくれた。
「……開けても?」
「もちろんです」
月城さんは丁寧に包装を解き、箱のふたを外した。
そして、中身を見た瞬間――そのまま固まってしまった。
「その、月城さんにはちょっと子供っぽいかなと思ったんですが……」
「子供っぽいなんて……そんなこと、私……」
こらえきれないように――声が震えて。
顔を上げた月城さんの綺麗な瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちていた。




