七十二話:勇者『日向咲』VS魔王軍七大将軍『双頭竜王ドルガ』
敵は、魔王軍七大将軍の一角。
『双頭竜王ドルガ』
巨大な身体から伸びた2本の首が、それぞれ大きく息を吸い込む。
片方の口内には赤い炎が渦巻き、もう片方からは白い冷気が漏れ出していた。
『それ』が吐き出された瞬間――地面を蹴って、横に跳んだ。
暑いのも寒いのも、どっちも苦手。
ちょうどいいぐらいの気温が私は好きだ。
着地すると同時に、前に出る。
ドルガの右側へ回り込み、振り下ろされた前脚をくぐり抜ける。
狙うのは、氷のブレスを吐き出している方の首だ。
どちらかというと、寒い方が苦手だから。
「それっ!」
剣を横薙ぎに振り抜く。
硬い鱗を断ち切り、そのまま太い首を跳ね飛ばした。
まずは1本。
そう思った直後、落ちた首が急速に輪郭を失い、無数の黒い影となって広がった。
影は次々に立ち上がると、小さな竜の姿に変わる。
なるほど。それぞれが独立した魔物ってわけだね。
だから『竜王』ってわけか。ずるいなぁ。
ドルガが後ろに下がり、魔物の群れが襲い掛かってくる。
数が多いな。一旦そっちを片付けないと。
「マジカル・チェンジ」
光が身体を包み込み、姿が変わる。
小学生ぐらいの『魔法少女』の姿に。
「ライトニングストーム」
倍化した魔力で『魔法使い』の最上級呪文を唱える。
上空から無数の――魔物たちよりも多くの稲妻が降り注ぎ、渦を巻く。
影から生まれた魔物たちは次々に渦に飲み込まれ、黒い煙を上げながら消し炭になっていった。
……よし、変身解除。
ドルガへ視線を戻すと、切り落としたはずの首がすでに再生を始めていた。
切断面から肉が盛り上がり、骨が伸び、鱗に覆われていく。
やがて、さっきまでと変わらない竜の頭が私を睨みつけた。
まずいな。聞いていた通り、何度でも再生するタイプだ。
『同時に首を落とすのが、奴を倒す唯一の方法じゃ』
なんて、村のおじいさんが言ってたけど……うーん、どうしようかな。
同時かぁ。
こういう時、ソロというのはちょっとだけ不利だね。
ドルガの2つの口から、再び炎と氷が溢れ出す。
よし、決めた。
再生するなら、何回でも切り落とそう。
無限なんてものは、この世に存在しない。
魔法の存在するこの世界だって、同じだ。
銀の武器でしか殺せないと伝わる魔物だって、バラバラにすれば最終的に生命活動を停止する。
さて、本当は……何回再生できるのかな?
――5回だった。
「馬鹿な……」
ドルガの巨体が大きく揺れ、崩れ落ちた。
「たったひとりの……人間に……?」
2本の首は、力なく横たわっている。
再生するたびに目に見えて動きが悪くなっていたから、やっぱり見た目や伝承に惑わされるのは、よくないね。
「ひとりじゃないよ」
そうだ。
私ひとりで倒したわけじゃない。
ドルガがこの砦を攻め滅ぼした時、幾人もの勇敢な戦士が命を落としたと聞いている。
砦の中には、今も戦いの痕跡が残っていた。
砕けた鎧に、折れた剣。
焼け焦げた盾と……いくつもの、炭化した――『人だったもの』
傷そのものは塞がっていても、その人たちが与えたダメージは確かに蓄積されていた。
そうじゃなければ、私はもっともっと苦戦していたはずだ。
もしかしたら、私の魔力や体力の方が先に尽きていたかもしれない。
末席とはいえ、『七大将軍』の名は伊達じゃない。
私が最後の一撃を与えただけ。
この勝利は、ここで戦った全員のものだ。
『パラッパッパー!』
『パラッパッパー!』
レベルが上がった。それも2個。
さすがは七大将軍。
経験値だってたいしたものだ。
経験値が入るのは、敵を倒した直後だ。だから、私には死んだふりが通用しない。
経験値が入らなければ、まだ生きている。経験値が入れば、死んでいる。
わかりやすくて助かるね。
どっちみち、油断なんてしないけど。
私は剣を下ろし、息を吐いた。
『魔王軍七大将軍・双頭竜王ドルガ』打ち取ったり。
「おお……?」
ドルガの死体のそばで、なにかがキラキラと輝いている。
近づいてみると、そこには大きな箱が落ちていた。
見る角度によって輝き方が変わり、まるで虹みたいな光を放っている。
これって、アレだよね?
すごいすごい!
虹色の宝箱だ!
……なに?
虹色の宝箱を知らないの?
これはね、伝説級の災厄を滅ぼした冒険者パーティに、神から与えられる恩寵なんだよ。
普通の魔物や、ただ強いだけの魔物を倒しただけでは現れない。
大勢の命を奪い、国や世界を脅かすような災厄を滅ぼした時にだけ現れるとされる、特別な宝箱。
つまり……これで私も、神に認められし英雄ってわけ。
まあ、勇者なんだから当然なんだけどね。
それでも、実際に虹色の宝箱を見るのは初めてだ。
中身は……なにかな?




