七十一話:月曜日は憂鬱
月曜日というのは、憂鬱なものだ。
「おはよー、ひよりちゃん」
「うん、おはよ」
教室の自分の席につくなり、机に突っ伏した僕に小春さんが声をかけてきた。
「あれ? なんか疲れてる?」
「あ、だいじょうぶだいじょうぶ」
「ふうん……?」
疲れている。
日曜日は前日に起きた襲撃事件と誘拐騒動の後始末で丸々潰れ、今日は朝から部活の朝練。
いくつか頭の痛い問題も抱えているし、さすがに心身ともに疲れてしまった。
小春さんは鋭い。
慌ててごまかしてしまったけど、変に隠すような態度は逆効果な気がする。
「嘘です。ちょっと頑張りすぎたかも」
「そうだよね? 大会が近いのはわかるけど、無理しちゃだめだからね」
「……うん」
朝練のせいだと思ってくれたみたいだ。
ごまかしていることに変わりはないんだけど、少しだけ気分が軽くなる。
チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
さて、頭の痛い問題の1つめはこれだ。
要するに、昨日は宿題をする前に寝てしまった。
先生ごめんなさい。
そして、昼休み。
「佐倉ひより。今日の放課後、時間を作りなさい」
「ごめんね。月曜日はちょっと……」
「なんでよ!?」
頭の痛い問題の2つめは、昼休みに話しかけてきたこの少女だ。
白峰愛理朱さん。学校ではアリスちゃんと呼ばれ、取り巻きを連れ歩いているこの少女。
「白峰さん。月曜日はひよりちゃん、部活の後に習い事があるから……」
成瀬さんがすかさずフォローしてくれた。
いつもありがとう、成瀬さん。
まぁ、本当は習い事じゃないんだけどね。
月曜日の夕方は部活と『魔法少女の活動』があるから、基本的に遊べないのだ。
白峰さんには、どう接するのが正解なのか正直わからない。
月城さんが色々とうまく話してくれたらしく、僕の秘密を漏らすなんてことはないと思うんだけど……学校でどう対応するかは僕に任せるとのことだ。
「ひよりちゃん。いつの間に白峰さんと仲良くなったの?」
「うん。土曜日にちょっとね」
「ふぅん……?」
小春さんがなにかを考えている。
なんだろう、怖いな。
女子の人間関係、難しすぎませんか。
そして、放課後。
部活を終えた僕は、人気のない河川敷で、ひとりの少女と並んで座っていた。
「それでね、それでね……ソリタスさんがひどいの」
「そっかー。ひどいねそれは」
「まだ言ってないよ。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「……そう?」
頭の痛い問題の3つめは、この少女だ。
『哀惜のグリーマル』を名乗る、邪界人の少女。
週1の魔法少女活動で、『孤独のソリタス』の次に現れたこの邪界人は、どう見ても未成年だった。
邪界人が人間と同じように年を重ねるのかどうかは知らないけど、中学生ぐらいにしか見えないし、話の内容を聞く限り、本当に子供のようだ。
肌の色が青白い以外は、見た目が子供でしかない生き物を……斧でしばく気にはなかなかなれない。
というか、ソリタスもだったけど、人との距離感がおかしい。
あいつもピューイさんに馴れ馴れしく接していたし、この少女と会うのは今日で3回目なのに、前回からすでに友達みたいに接してきていた。敵なのに。
邪界人というのは、みんなこうなんだろうか?
「ソリタスさんがね、私の写真を使ってSNSを始めたの。そしたら、みんな優しくしてくれるんだって」
「ええ……」
思ったよりひどかった。
最悪だな、あいつ。
頭おかしいんじゃないか。
……おかしいんだった。
「だからね、私も始めようかと思って」
「え、なにを?」
「SNSだよ?」
「やめなさい」
「どうして? 私も優しくしてもらいたいよ」
「だめなものはだめ」
どうしてもこうしてもない。
こんな、人の優しさに飢えた世間知らずの少女をSNSに導こうなんて、どうかしている。
許すまじ『孤独のソリタス』
結局、SNSを断念する代わりに、連絡先を交換するはめになった。
おのれ『孤独のソリタス』
次に会ったらかち割ってやろう。
「それじゃ、始めるね」
「うん」
スマホをしまったグリーマルが、少し離れた場所に立って両手を広げた。
「捨てられしものよ。『哀惜』の名において魂を与える」
僕はぼけーっと、その姿を見守っている。
こういうの、ちょっとかっこいいなぁ。
「邪界魔法――『残影鏡顕現』」
そして、戦闘終了後。
「おぼえてろよー」
そう言って去って行く後ろ姿を見送り、深くため息をつく。
面倒事が増えた気がするからだ。
邪界人というのは、基本的に週1で活動する異界の犯罪者という扱いなのだけど、『哀惜のグリーマル』については積極的に逮捕に踏み切る根拠があまりない。
なぜかというと、現時点では僕を相手に邪界獣を放ってくるだけで、それ以外の被害がないからだ。
厳密に言うと、僕を相手にした傷害に相当するわけだけど……
僕とだけ関わっている限りは、『不良少女の相談に乗っている』程度の扱いにしかならないのだ。社会的には。
こちらとしては経験値が稼げて助かるけど、なんだかなぁ……
ポーチの中で、スマートフォンが震えた。
画面を見ると、グリーマルからだった。
『今から電車に乗るね』
早いな。
本当に、月曜日というのは憂鬱なものだ。




