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六十九話:元勇者VS神罰の代行者

「邪神の使徒め、呪われるがイい!」


 邪神だってさ。

 随分な言われようじゃないか、女神様。


 ちょっと間が抜けているところはあったけど、邪悪ってほどじゃなかったと思うんだけどな。

 まあ、『天使』なんてものから見れば、異世界の女神なんて邪神そのものなのかもしれないけどね。


 でも、それとこれとは話が別だ。


「愛する女を、そうまで侮辱されてはね」


 剣を持ち上げ、クシエルへ切っ先を向ける。


「少しばかり痛い目を見てもらうよ」


 クシエルの背中で、紅い炎の翼が大きく広がった。

 凄まじい熱風が、割れた窓から室内へ押し寄せる。


 随分と大雑把な技だね。


 風というのは確かに避けにくいけど、その分雑に使いがちなんだよね。

 こういうのを出す時は、だいたい有効な手が思いつかない時だって相場は決まってる。


 『とりあえず』で放つ、雑な範囲攻撃が僕に通用すると思われたなら、心外だな。


 剣を横薙ぎに振るい、熱風を両断する。

 風と一緒に押し寄せていた炎も切り裂かれ、左右に分かれて霧散した。


「なんダと!?」


 驚くようなことかな。雑なんだよ。


 クシエルの声と同時に、炎の鞭が飛んできた。

 右から1本。ついでに左からも。


 連携のつもりだったのかな?

 だとしたらアテが外れたね、各個撃破させてもらうよ。


 右を切り払い、返す刃で左も断つ。切断された炎の鞭は形を失い、火の粉となって霧散する。

 その火の粉を突き破り、さらに何本もの炎が迫ってくる。


 本当につまらないな。

 三流の魔族でも、もうちょっと工夫して攻撃してきたよ。


 一歩前に出て、正面の炎を斜めに切り裂く。


 足元を薙ぎ払おうとする炎を飛び越え、空中で剣を振り、霧散させる。


 最後の一本は、もうめんどうだから素手でかき消した。


「ば、ばカな……クシエルのほのオが」


「知らなかったのかい? 勇者の剣技は、総てを切り裂くんだよ」


「ふざけルな!」


 クシエルが両腕を広げると、炎の翼から無数の羽根が放たれる。


 紅く輝く羽根が、窓の外を埋め尽くした。

 1枚1枚が小さな刃のように回転しながら、こちらへ殺到する。


 剣を振り、先頭の1枚を切り払うと、その瞬間――羽根が爆発した。


「へえ」


 斬れば爆発するのか。

 なら――


「イラ・ザ」


 羽根の方に手を向けて最下級魔法を唱えると――無数の羽根の中央で、真空の刃が吹き荒れる。

 切り裂かれた多数の羽根が爆発し、その爆発が隣の羽根を巻き込み――窓の外で、連続して炎が弾けていく。


「うん、片付いたね。手品はここまでかな?」


 おや?


 クシエルが翼を羽ばたかせ、距離を取る。

 まだなにか手品の種があるのかな。


 それとも、遠くから攻撃を繰り返せばいつか勝てるなんて、思っているのかな?


 だって、人間には翼がないから。


 ならついでだ。面白いものを見せてやろう。

 空が、翼のある者だけの所有物じゃないってことをね。


 砕けた窓から、外へ足を踏み出す。

 当然そこに、床はない。


 でも、床がないなら――そこにあるものを蹴ればいい。


 『空』を蹴る。


 足の裏で空気が爆ぜ、身体が斜め上へ跳ね上がった。


 もう一度。さらに、もう一度。


 見えない階段を駆け上がるように、空を蹴って上昇する。


「!?」


 クシエルが、初めて明確に動揺を見せた。


 信じられないかい?

 これでも、そこそこ練習したんだ。


 魔王軍には空を飛ぶ魔物ばかりで構成された軍団もあったからさ。

 空ぐらい飛べないと、戦いにならないだろう?


 クシエルの炎の鞭が収束し、1本の剣になる。

 こちらを迎え撃つつもりかな。


「動きが鈍いね」


 クシエルの振る剣を避け、懐に入る。

 殺してしまうわけにもいかないから、拳を叩き込んだ。


 身体がくの字に折れたところへ、肩をぶつけて弾き飛ばす。


「ぐっ……!」


「上から一方的に攻撃するのに、慣れすぎたんじゃないかな」


 クシエルが翼を大きく広げる。

 周囲の空気が震え、熱が集まり始めた。


 また苦し紛れの大技か。


「本当につまらないな、君は」


 素早く背後に回り込む。


「それじゃ、その自慢の翼を頂くよ」


 クシエルが振り向くより早く、剣を振る。左右合わせて、一瞬で16回。


「うちのクソ悪魔をやってくれたんだ、文句は言うまいね」


 一瞬遅れて、クシエルの翼に無数の切れ目が走った。


「な……」


 紅い翼が、ばらばらに崩れ落ちると、炎の羽根が夜空へ散り、光の粒となって消えていった。


「おっと、翼がなくても飛べるんだね」


「でも……プライドは、ずたずただろう?」


「おノれ……!」


 クシエルの顔が憎悪に歪み、全身から炎が噴き上がる。

 サングラスの奥で、紅い光が激しく燃えた。


「よっと」


 クシエルの背中を蹴り飛ばすと、翼を失った身体が、割れた窓へ向かって吹き飛んでいく。


 空中で逮捕するのは、ちょっと難しいからさ。

 吹っ飛ぶクシエルを追い越し、先回り。


 拳を握り……飛び込んできたクシエルの腹へ、正面から叩き込んだ。


「グあっ!?」


 よし。


「16時32分」


 動かなくなったクシエルの腕を後ろに回し、手錠をかける。


「天使クシエルを逮捕します」

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