五十七話:アリスちゃん
わたくしは白峰愛理朱。
最も高貴な、真なる吸血鬼であるお母さまと、この国でも有数の企業を統べるお父様との間に生まれた、美しきダンピール。
そして、私立明葉学園小学校史上、最も可憐な女の子ですわ。
お友達には、アリスちゃんと呼ばせています。
あなたもそう呼んでくださいね。
……そんな高貴で可憐なわたくしの誘いを断ったのが、あの女。
庶民が暮らすマンションとかいう建物の前で、ぼけーっとアホ面を下げながら、誰かを待っているあの女。
佐倉ひより。
わたくしが密かに想いを寄せる玉田くんに近寄る、羽虫のような存在ですわ。
玉田くんにこれ以上近寄らないよう、わたくしとの格の違いをたっぷりと見せつけてやろうと思って、わざわざお屋敷に招待してあげたというのに。
いったいどれほど大切な用事なのかは知りませんが、まさかわたくしの誘いを断るだなんて……絶対に許せませんわ。
ですが、わたくしは高貴で可憐なだけでなく、とても賢いとお父様も言ってくださるほどですから、逆に考えてみることにしましたの。
わたくしの誘いよりも優先するほど大切な用事なら、あの女の弱みを握ることができるかもしれないでしょう?
というわけで、朝からこうして見張っています。
わたくしは高貴な血を引く美しきダンピールですから、太陽の光も平気ですし、こうして『草木の影』の中に潜んで、あの女を監視することだってできますの。
すごいでしょう?
もちろん、住所もうまく調べました。
わたくしにかかれば、そんなことは造作もありませんわ。
あら?
庶民的な車が、あの女の前に止まりましたわね。
まさか、あんな小さな車に乗るのでしょうか?
『すみません、先輩。遅くなりました』
『ほんとだよ。熱中症になっちゃうよ』
わたくしは高貴な血を引く美しきダンピールですから、この距離でもかろうじて人の声を聴き取ることができますし、顔を見分けることもできます。
それで、あの……
運転席にいらっしゃる、ものすごいキラキライケメンはどなたかしら?
あの女と、いったいどのような関係?
まさか、玉田くんを誘惑しながら、あんな大人の……麗しい方までたぶらかしているというの?
許せませんわ。
『いいじゃありませんか。早く向かいましょう?車の中は涼しいですよ』
……は?
あれって、あれ……
月城澪さん……じゃない?
あはは。まさか、そんなわけないよね?
『あ、月城さん。今日はありがとうございます』
そんなわけありましたわ。
月城澪――
月城財閥の、美しき総帥。
父である前総帥が亡くなられた後、一時はすべてを叔父に奪われてしまったものの、弱冠17歳にしてあっという間に自らの手ですべてを取り戻し、総帥の座に就いたと言われている、お嬢様の中のお嬢様。
才色兼備という言葉を完璧に体現されているそのお姿は、わたくしにとって憧れそのもの。
なにを隠そう、この腰まで伸ばした髪型も、月城澪さんを真似ていますの。
本当なら、あの輝かしい髪色まで真似したいところなのだけれど、そこまですると、いくらなんでもバレバレですから……
『いいから、さっさと行くピュイ。ピューイはそんなに暇じゃないピュイ』
なに……?あれは、なに……???
今度こそ、見間違いかしら?
見間違い……ですわよね?
あっ、車が出てしまいますわ。
でも、大丈夫。
わたくしは高貴な血を引く美しきダンピールですから、庶民の乗る車なんかに遅れを取ったりしませんの。
佐倉ひよりの謎を暴くため、わたくしは走りますわ。




